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その違和感を、大切に。『「働きたくない」というあなたへ』

その違和感を、大切に。『「働きたくない」というあなたへ』

撮影・馬場磨貴

何を隠そう、わたしは就職活動を2年間先送りした人間である。
いわゆるモラトリアムと呼ばれる期間に、駆け込みで「延長」を申し出た人間である。
だから、今回ご紹介する『「働きたくない」というあなたへ』という本のタイトルに含まれる「あなた」とは、他でもない数年前の「わたし」なのである。

「働きたくなかった」あの頃

本書は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の人気コラム「おとなの小論文教室。」で大反響を起こした、「働くこと」をテーマにした著者と読者との対話の記録である。いわゆる「ゆとり世代」と呼ばれる世代(わたしもその一人だ)の、「働くこと」への価値観に対して、著者が感じた違和感をきっかけにして、両者の往復書簡が繰り広げられる。

「仕事はそれなりでいい」「楽しく生きたい」「働きたくない」…おそらく企業の採用面接では、口が裂けても言えないようなリアルな本音が、読者から寄せられる。そして著者は、そのひとつひとつの言葉に向き合い、考え、読者にまた問いを投げかける。そのやりとりを見ているうちに、自分自身の恥ずかしい記憶が蘇ってきた。

理系の大学に入学するも、大学の数学も物理もちんぷんかんぷんで、早々に振り落とされてしまったわたし。かといって、追いつこうと努力するわけでもなく、まさしく社会とつながる前の猶予期間のような学生生活を送っていたあの頃。
お金を貯めては、海外をふらふらと歩きまわり、あげくの果てには休学して世界旅行に行く始末。帰国後に4年生になったわたしの目の前には、「就職」か「大学院への進学」か、という二つの道が広がっていた(この二択しかないと思い込んでいたのも恥ずかしいが)。現実が容赦なく接近してきたときの不安と怖さに似た得も言われぬ感触を、昨日のことのように思い出せる。

「自分には武器がない」

それが、あの瞬間に感じたことだった。社会という大海にこぎ出すための強さを、何も持っていないじゃないか、と思った。こんな人間を欲しがる場所はあるのだろうか、仮にどこかに採ってもらっても、果たしてお役にたてるのだろうか。そんなことを考える毎日。結果的に、私は専攻を変えて学問の道に進むことを選択する。

でも、いまになって分かる。あのときの自分は、「武器を見つけてから社会に出よう」という大義名分で、心の奥底にある「働きたくない」という気持ちを覆い隠したのだ。あのときの自分は、「働きたくない」と、無意識に思っていたのだと。それは、きっと、怖かったからだ。この気楽な学生生活が終わってしまうことも、社会に出て役立たずのレッテルを貼られてしまい、自分の能力の限界をまざまざと見せつけられることも。

本当の声が聞こえる場所として

その違和感を、大切に。『「働きたくない」というあなたへ』

『「働きたくない」というあなたへ』山田 ズーニー著 河出書房新社 670円(税込み)

本書で紹介されている、社会人や就職活動中の学生の心の声に耳を傾けているうちに、自分自身の奥底へと潜っていく感覚があった。「働く」というテーマは、かくも人の心をざわざわと、落ち着かなくさせる魔力がある。だから、どう語ろうと異論が噴出することが分かりきっている危険地帯に、自身の違和感を出発点に分け入っていき、ときに批判も覚悟で議論を投げかける著者には頭が下がる。

「働く」というテーマについては、正解を求めるのではなく、自分の心がどういった言葉に反応して、どういった意見にさざなみを立てるのかを、注意深く観察していく姿勢が出発点であると、この本は語りかけてくるように感じた。

あのときの自分が読んでいたら、何を感じたのだろうか。
就職活動中、周りは皆、お利口さんになる。正論があふれる。そんな空気の中では、心のどこかで感じている違和感を、本当の声にして発することがはばかられるし、わたしのように、自分自身で自分の心の声を、正論のようなもので覆い隠してしまうこともありうる。

そういったある種の孤独を抱える人の拠り所として、この本は機能するのではないか。本は声をあげてしゃべらないが、この本のなかには、あの時の自分が聞きたかった本当の声が、響き合っているように思えてならない。

まずは、仲間がいることを知ること。あなたの孤独は、だれかの孤独とつながっていることを知ること。そしてその後、わたしたちは自分の足で立って、他でもない自分の頭で考えて、恐る恐るこの社会と自分との接続を試みるのだ。失敗したとしても、回り道をしたとしても、何度でも。

(文・中田達大)

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二子玉川蔦屋家電のBOOKコンシェルジュ。担当は「ワークスタイル」。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ㈱に新卒入社後、CCCマーケティング㈱にてTポイント事業の法人向け新規営業に従事。18年4月より現職。
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