MUSIC TALK

「大学まで音楽に興味なかった」 歌姫bird、デビュー振り返る

伸びやかで心地よく、それでいて力強く――。心を揺らす歌声で、聴くものを魅了するbirdさん。歌の申し子なのかと思いきや、音楽に関してはかなりの「遅咲き」だった。歌姫はどのようにして生まれたのか。音楽との出会い、デビューまでを振り返る。(文・中津海麻子/撮影・松嶋 愛)

バドミントン、英語……部活に打ち込んだ学生時代

――小さいころはどんな子どもでしたか? 音楽の思い出は?

鉄棒に縄跳びにゴム跳びにドッジボールに、とにかく外で体を動かしているのが大好きな子どもでした。小学5年でバドミントンクラブに入り、夢中に。音楽は全然興味がなかったですね。テレビから流れてくる当時のヒット曲、チェッカーズとか中森明菜さんとか、その程度しか知りませんでした。

中学でもバドミントンを続けたのですが、試合をやるようになってから「私には無理だ」と思い始めました。シャトルを打ち合っているのは楽しいんだけど、勝負ごとが苦手で。精神的に弱かったんだと思います。それに気づきやめてしまい、抜け殻のようになってしまった。部活で一緒だった友達がどんどん遠くなり、そもそも集団でいるのが苦手だったので、休み時間が辛かったですね。仕方なく本を読んだりしながら、完全に存在を消してました(笑)。

――高校に進学してからは?

学校も休みがちだった中3のとき、小学校時代からの友達が通っていた英会話についていきました。すると、外国人の先生が「ハンバーガー」を「Hamburger!」と全身で表現して、これは一体なんなんだ!? と(笑)。でも、陽気な感じがキラキラして見えた。そして通い始めてみたら、おもしろくておもしろくて、「私には英語しかない!」と英語まっしぐらに。高校では英語クラブに入りました。教材として歌詞を聴く授業があったので、カーペンターズの曲や『We Are The World』を聴いたり……。音楽とはその程度の触れ合いでした。

――卒業後は関西大学に進みます。

英語を使った仕事がしたいと外国語大学などを受験したのですが、ことごとく落ちてしまって。1校だけ、英語とはまるで違う理由で受験したのが関大でした。お笑いが大好きで、中でも越前屋俵太さんの大ファンだったんです。俵太さんが関大の社会学部出身なので、それだけの理由で。で、受かっちゃった(笑)。英語学科じゃなくても学べることはあるだろうと進学を決めました。

アレサ・フランクリンに圧倒されて

入学後、3つのサークルに入部しました。シルク・ド・ソレイユに憧れていたのでジャグリング部と、友達に誘われてソフトボール部のマネジャーと、もう一つが軽音楽部です。「楽器はできなくてもいい」「部員がたくさんいるから友達できるよ」と誘われたので、じゃあいいかなぁと。軽い気持ちでした。確かに合宿には大型バス3台で行くほど大きなサークルで、ジャズのフルバンドもあれば小室さんの楽曲をやるバンドもありと、やっている音楽もバラバラ。いろんな人がいておもしろかったですね。

私は、新入生同士でバンドを組みました。高校時代にベースをやっていたという人がいて、彼女が米米クラブが好きだったので、米米のカバーバンドに。最初に歌ったのは『Shake Hip!』でしたね。ただ、ベース以外は私も含めて初心者ばかりで、ドラムは演奏中にスティックを落とすし、私はオリジナルのキーで歌って「低くて歌いづらいなぁ」と悶々(もんもん)とするし。キーが変えられることすら知らなかったから(笑)。

とにかく音楽を知らないので、先輩からいろんな曲を教えてもらいました。「世の中にはこんなにいろんな音楽があるんだ」と、とても新鮮でした。どんどん楽しくなってはいくものの、いろんなバンドでいろんな歌を歌っているうちに、自分が何を歌ったらいいのかがわからなくなってしまった。そんな時、先輩が1本のテープを貸してくれました。アレサ・フランクリンの『Respect』。その声に圧倒されました。声ってすごい、こんなにも聴くものの心をつかむんだ、と。私もこういう声になりたい。そう強く感じました。

それからアレサのコピーバンドを組むのですが、当たり前だけどアレサにはなれない。ジャニス・ジョプリンのバンドもやってみたけど、ジャニスにもなれない。みんなで「お酒を飲めばいいのでは?」ってお酒を飲んだら、ガラガラ声にはなるものの、ただ単に声が出なくなっただけで(笑)。それからいろんな曲を探し始め、キャロル・キングやジョニ・ミッチェルなど、中ぐらいのキーで心地いい歌声のシンガーにたどり着くんです。「もしかしたら自分の声の成分と近いかもしれない」と。

「大学まで音楽に興味なかった」 歌姫bird、デビュー振り返る

ニューヨークへ留学。飛び入りで歌ったりも

――大学4年でニューヨークに留学します。

大学でようやく音楽という衝撃的に好きなものに出会えた。ここでやめるのはイヤだと思い、30歳ぐらいまでは一生懸命頑張ってみようと、就活はしないと決めました。このころには外のライブハウスに出たりレストランやバーで歌うバイトも始めたりしていたので、とりあえずそれでなんとかなるかな、って。ならばまずは海外に行こう、行くならニューヨークだ! ……あまり深くは考えていませんでしたが(笑)。

ゼミの先生が「音楽と社会」というテーマを研究されていたのですが、留学の思いを伝えると「行ってもいい。でも、定期的に手紙を書いてください」と。卒論のテーマに音楽のジャンルを研究する「ジャンル論」を選んでいたので、ニューヨークではレコード屋さんでジャンルを調べ、ライブハウスに行ってはやっている音楽をリサーチし、得た情報を先生への手紙にしたためました。今思えば「課題」を課さないと戻ってこないと心配されていたのかも。私はゼミの一期生だったこともありとても気にかけてくださって、その後も先生はライブを見にきてくれました。本当に感謝ですね。

――現地では何を見て、感じましたか?

あちこちでカジュアルにライブが行われていて、スザンヌ・ヴェガ、チャカ・カーン、ジェームス・ブラウンのステージに、ミュージカルも……と、タイムテーブルとにらめっこしながら手当たり次第に回りました。また、日本から持っていった譜面を手に、飛び入りで歌えるレストランに行ってジャズを歌ったりしました。今思うとよくやったなぁと思います。ただただ音楽が好き、という気持ちに突き動かされていたのかもしれません。

とはいえ、レストランとかで歌っていても誰も聴いてくれない。アジアから来た女の子がジャズ歌ってるな、ぐらいで、気にも留めてもらえないんです。これではいけない。振り向かせるにはどうしたらいいんだ? そして、自分の言葉で歌わなければいけないと気づいたのです。それまではかっこいい歌をかっこよく歌えるようになりたいと思っていたのですが、それじゃダメだ、と。そして帰国しました。

自分の言葉で歌う、ならばオリジナル曲しかない! そう思い立ったものの、そもそも楽器ができない。仕方がないから鼻歌で作り、それを一緒に音楽をやっている人に聞いてもらってコードをつけてもらって曲にする、という。歌詞も仕方なく書き始めるのですが、本もそんなに読んだことがなかったので「歌詞って何?」。そんな状態で(笑)。

大沢伸一(MONDO GROSSO)に見いだされて

――デビューのきっかけは?

大学卒業後は、バイトをしながら大阪のいろんなところでライブをしていました。あるライブの合間で「普段はどんな曲を聴いてるの?」と声をかけて来た人がいました。「アレサとかが好きで」と答えたら、「ぜひ違う日に話したい」と。それが、大沢伸一さんでした。私も周りの人たちも70年代の音楽ばかり聴いていたので、クラブシーンどころか今の音楽を知らず、みんなで「大沢さんてどんな音楽をやる人なんやろう」と話してました。

後日お会いして、私が初めて作ったオリジナル曲を聴いてもらったら「ちゃんとはできてへんかもしれないけど、いいね」と言っていただきました。そして、初めて日本語の曲を自分のレーベルから出したい、そのための歌い手を探している、と。私自身、日本語で歌いたいと思っていたのでやってみようと心を決めたのです。

大沢さんがプロデュースするZeebraさんの曲にフィーチャリングボーカルとして参加したのが、初めてのレコーディングでした。そしてその後、デビュー曲『SOULS』を作っていくことになるのです。
後編へつづく

bird
1975年生まれ、京都出身。シンガー&ソング・ライター。
大沢伸一/MONDO GROSSO主宰のレーベルからデビュー。ファーストアルバム『bird』は70万枚突破、ゴールドディスク大賞新人賞獲得。2019年、デビュー20周年を迎え、通算11枚目のアルバム『波形』を3月20日にリリースした。前作に続き今回のアルバムも、冨田ラボ(冨田恵一)のプロデュース/サウンドメイキングによるもの。
bird “波形” Live !
4/19(金)Billboard Live TOKYO(東京)
5/2(木・祝)Billboard Live OSAKA(大阪)
birdオフィシャルサイト:http://www.bird-watch.net/

PROFILE

中津海麻子

執筆テーマは「酒とワンコと男と女」。日本酒とワイン、それらにまつわる旅や食、ペット、人物インタビューなどを中心に取材する。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、ワイン専門誌「ワイン王国」、朝日新聞のブックサイト「好書好日」、同ペットサイト「sippo」などに寄稿。「&w」では「MUSIC TALK」を連載中。

ゴンチチ、結成40周年超えて語る「相棒との関係」(後編)

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birdデビューから20年 「いま、自分の声に取りつかれている」

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