このパンがすごい!

田園の中に行列! パン屋兼農家が作る地元産素材100%のパン/一本杉農園

田園の中に行列! パン屋兼農家が作る地元産素材100%のパン/一本杉農園

外観

田園風景の中に突如にぎわいはあらわれる。駐車場はいっぱい、パン売り場もカフェも満員。といっても商業主義とはほど遠く、古めかしいのどかな店舗。町から遠く離れたここで一体なにが起こっているのだろう。

田園の中に行列! パン屋兼農家が作る地元産素材100%のパン/一本杉農園

店内風景

アンティークの家具や雑貨をセンスよく使った狭い陳列棚に、ハード系、菓子パン、デニッシュ、カレーパン、焼き菓子。これらバラエティーに富んだ商品をすべて、栃木県産小麦(ほぼ「ゆめかおり」一品種)だけでパンを焼いている。

田園の中に行列! パン屋兼農家が作る地元産素材100%のパン/一本杉農園

ムーミンのおやつ

シナモンロールのようにロールさせた「ムーミンのおやつ」。甘さは控えられ、代わりに麦が濃厚に香りたっていた。ほわんとやさしく跳ねる生地。どろりと気持ちよくとろけ、麦の味わいに満ちたクリームへと変貌(へんぼう)する。シナモン、そしてしょうがのようにやさしくひりひりと香るカルダモンの心地よさ。

田園の中に行列! パン屋兼農家が作る地元産素材100%のパン/一本杉農園

店主の福田大樹さん

半農半パン。店主の福田大樹さんは、パンを焼き、農家も営む。彼の人生を変えたのは、パン屋に就職した矢先に襲われた小麦アレルギー。生地や打ち粉に触る手がただれた。パン職人として致命的といえる病に、福田さんは逃げず、立ち向かった。

「根本から改善しないと駄目だなと思いました。土に触ったり、屋外で陽に当たるといいと聞いて、農業をはじめました」

いろんな農家で研修しているときに出会った、オーストリア人と日本人の夫婦。彼らは自分でパンを焼くために、無農薬で小麦を栽培していた。

「その小麦を触っても、アレルギーの症状が出なかったんです」

福田さんは自分がパン屋をできる可能性を探った。祖父母がかつて営んでいたそば屋を自らの手で改築。パン屋は週に3日、あとは無農薬で農業をすることで、小麦粉に触れる時間を制限しつつ、土と触れあう。外国産の小麦を使わず、すべて栃木県産の小麦を使う。

「マクロビを習い、『身土不二』(身体と土地は不可分であり、自分の住んでいる土地のものを食べるのが体にいいという考え方)を心がけるようになりました。地元の人のためにパンを作りたい。同じ空気、水で育つ、地元の小麦が、いちばん体に合うのかな」

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サバと宇和島産無農薬レモンのサンドイッチ

カフェでの食事は感動的でさえあった。自家栽培の野菜を使った「畑のサンドイッチプレート」。宇和島産無農薬レモンの酸味とサバの脂とコクが抜群の相性であることはいうまでもなく、添えられたたっぷりの野菜が新鮮で実に味わい深い。カーボロネロ(イタリアのキャベツ)、沖縄島にんじん、里芋、菜の花、ネギのマリネ。

サンドイッチ用のパンとして数種類からチョイスしたバゲット。がさがさとマットで心地いい質感を感じる皮は、心地よくばりんと割れる。中身はぷわんとやわらかく唇に触れ、ゆるりとしてほどけ、充実したでんぷんのおいしさを感じる。栃木県産ゆめかおりはバゲットに合う小麦だ。

田園のひなびた空気感の中、その土地でとれた野菜、小麦を食べる。みるみる心が落ち着き、満ち足りていくのがわかった。

どのパンもやわらかく、ほどけがいい。福田さんの人柄そのままにやさしいパン。水分は多めにしっとりと、ミキシングは少なめにグルテンの強さを出さない。そして、もうひとつの「テクニック」がある。

「ミキサーをヤフオクで買ったら、西日本で使っていたのがきて、(電圧が東日本と異なるので)回転が遅くて(笑)」

あせらず、ゆっくりとグルテンをつなげる。発酵機(ホイロ)も持たず、四季のままに酵母が活動するのを待つ。この場所のゆるりとした空気感と近しい作り方だ。

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南インドカレーパン断面

カレーパンさえほんわかとして人をなごませる。ビーガンで作られ、この日の具材はじゃがいも。ほわりと綿毛のように舌に触れ、ほろりとほどけ、じゅるりとオリーブオイルのコクをにじませる。ぴりぴりとかぜんぜんこない。まるで、じゃがいもあんぱんという風情でクミンやらスパイスの香りを鼻腔(びこう)で感じさせつつ、ぴりぴりすーすー感が舌をやさしく愛撫(あいぶ)する。

カレーフィリングを作っているのは、南インドのカレーを得意とする、Aana Jaana。実は一本杉農園のスタッフでもあり、カレー屋と二足のわらじをはいている。人手不足が叫ばれる中、一本杉農園には総勢8人の若者が働く。パンと農。そこに生まれる楽しさ、ゆっくりとした時間、人間本来のあり方が、たくさんの人たちをひきつけている。停滞する日本を、変えていく力になりそうだ。

一本杉農園
栃木県鹿沼市西沢町380-2
080-3453-1205
9:00~17:00
日月火水休み
https://www.facebook.com/ipponsugifarm/

パンのフォトギャラリーは下部にあります↓↓

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

パンシティー世田谷で食す「パン屋のドーナツ」/ラ・ヴィ・エクスキーズ

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