パリの外国ごはん

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

イラスト・室田万央里


謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」
謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

行く予定だった店が定休日ではないのに閉まっていた。パリは学校が冬休みの週で、そうするとバカンスを取っている飲食店がたまにある。「バカンスかもねぇ」と少しがっかりしながらも、せっかく会ったのだからどこかに食べに行こう、と別の店に向かい歩き始めた。

少しして万央里ちゃんが、「そういえば……」と看板の見えたレバノン料理の店を指してつぶやいた。「一度も入ったことないけれど、あのお店、お客さんがおいしいって言ってた」。
彼女は以前、同じ通りにあるレストランの厨房(ちゅうぼう)で腕を振るっていたのだ。そのときの常連客に、このレバノン料理店の評判を聞いたことがあったらしい。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

入って左手にあるショーケース。フムスがたっぷり(写真・川村明子)

店の前に着いて中を少しのぞくと、そこはとても小さな場所だった。入り口の左手にショーケースがあり野菜の総菜類が並んでいた。肉がびっしりと刺された串はロースターで回転している。店内には3人すでに先客がいて、さらに私たちも入店するのはためらわれるほどに、スペースはほぼなかった。でも、右手奥に階段があり、2階で食べられるようだ。
「いいじゃん! ここにしようよ」。いつからあるのかはわからないが、ともかく新しい店ではない雰囲気だったし、客の出入りがひっきりなしにある気がした。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

イートインスペースは2階に。とても小さな飲食店

一人がテイクアウトをして店を出たのと入れ替わるように中に入る。壁にセットメニューが写真付きで貼られていた。赤い文字で書かれ、店名の間に緑の木が1本描かれたそれは、なんだかクリスマスにフライドチキンのセットを選ぶような心持ちにさせた。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

壁に貼られたセットメニュー

あまりにワクワクして、文字を目で追っても全然頭に入ってこない。ちょっと落ち着いて見ると、温かい前菜を選べるタイプ、冷たい前菜を選べるタイプなど、細かな違いがあった。それが別のセットメニューになっているのは、値段が異なるからだ。

下で注文してから上階に行くのかと思ったら、上で待っていてくれたらメニューを持っていく、とマダムに言われた。それで、幅の狭い、傾斜がきつめの階段を2階に上がった。

どこかのスキー場の小さなペンションの食堂みたいな、ラーメンが出てきてもカレーが出てきても違和感を覚えなそうなフロアの窓際に空いていた2人席に座ることにした。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

チョイスがたくさんのメニュー

改めて、もらったメニューを広げると、たくさん料理が書かれている。やっぱり気持ちが上ずっていて、10品くらい盛り合わせたいものがあり、さらに下で目にした串焼きも、鶏か牛か仔羊かどれかを食べてみたかった。これは困った。選びきれない。セットのどれかにしよう!とそれでもまだ小さく唸るように考えている私に、「サンドイッチにする」と万央里ちゃんはきっぱり言った。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

例にもれず、パンは温められ、袋に入って出てきた

注文する段になり、後ろのテーブルで男性が食べているあのセットは何か、とマダムに聞くと「あれはこのセットの付け合わせを変えたものよ」と言う。あら。そんな変化球ありなの? と思って「このセットでお肉を鶏にしてもらうことできますか?」と聞いたら、私の気持ちをくみ取ったのか「大丈夫よ。前菜を変えたかったらそれもできるわよ」と言われた。

結局、牛か仔羊の串焼きにサラダとフムスを合わせたセットの、まずお肉を鶏に、そしてフムスを野菜のムサカにしてもらった。フリットも食べたかったけれど、ボリュームがありそうだったから諦めた。万央里ちゃんは、冷たい前菜と揚げ物をつけたサンドイッチのセットにしていた。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

サンドイッチのプレート

頼んだ通りに盛られた皿が運ばれてきた。おいしそうな匂いがする。カゴに入って出てきた薄い生地のパンは、レバノン料理の店に行くとどこでも、温めたものが袋に入れられてくるが、ここも例外ではなかった。

ムサカにはナスとピーマン、ひよこ豆が見て取れた。食べてみると、姿は見えないけれど赤ピーマンを潰したような味とトマトペーストの味がした。油をたっぷり含んだナスがじゅわっと口に広がって、さっそくパンを欲した。

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焼いたチキンがメインのプレート

鶏は何でマリネをしているのだろうか、パサつきを感じるかと思いきやふっくらとしていてとてもおいしかった。チキンの上に盛られた、白いピュレのようなソースのようなものをつけてみると、新たなおいしさが生まれた。
だけれど、ソースだけを食べてみても、この白いものの正体がどうにもわからない。にんにくは入っている。でも味自体柔らかくて、だからといって乳製品と混ぜているかんじでもないし、何か白い豆と合わせているのだろうか、見当がつかなかった。

万央里ちゃんが付け合わせに選んだ大きな白インゲン豆のサラダにも、正体を解明したいつぶつぶがあった。生のタマネギがきりっとした味でとてもおいしいのだが、そこにアクセントを加えている何かスパイス。コショウではない。なんだろうね、何かわからないけどおいしいね、と言っているうちに食べ終えてしまった。

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ミントティーは、フレッシュなミントを使用

デザートの注文を取りにきてくれたマダムに、白いソースについて聞いてみると、生のニンニクと生のジャガイモをひまわり油でマヨネーズのように攪拌(かくはん)したものと教えてくれた。レバノンではとてもポピュラーなソースらしい。いやぁびっくり。たしかにこれがあると食欲が増す。

そして白インゲン豆にまぶされたものは、中近東のスパイス、スマックだった。スマックといえばもっと酸味を感じそうだけれど、加減が絶妙なのか、そういう印象はなかったなぁ。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

着いた時にも撮るべきだったと後悔するほど串にささった肉の塊が細くなっていた

もう他にお客さんは誰もいなくて、テーブルを片付けているマダムと、少し話した。もうこの場所で20年も店を続けているという。20年前、このエリアは何もなかった。ひと通りも今よりずっと少なかった。ラーメンもカレーも違和感がなさそうな気がしたのは、地元に確実に根付いている食堂だからなのだ、と思った。

謎の白いソースが絶品。レバノン料理「Le Coeur du Liban」

メニューにも看板にもハートマークが

Le Coeur du Liban(ル・クール・デュ・リバン)
56, rue de Lancry 75010 Paris
01 42 02 59 09
12~24時
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

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