「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

&wでは、コンセプト動画「5分間の物語。」をつくりました。もう、ご覧いただけましたでしょうか?(美しくて短いので、ちらりとご覧いただけたら幸いです)

動画に出てくる美しい花模様は、トルコの「エブルアート」という伝統芸術を日本に紹介している、ニメット・エキレキリさんとその兄であるヒキメットさん、エムレさんの作品です。ニメットさんは20年前に来日、このアートを日本に広める活動を、やはりエブル・アーティストである4人の兄姉と一緒に続けています。動画公開にあたり、この作品にこめた思いと背景を聞きました。(&w編集部)

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

トルコの伝統芸術・エブルアートは、9世紀頃に中央アジアで始まり、オスマン帝国時代に発達したといわれる。現存する最古の作品は、トプカプ宮殿博物館に保管されている、1447年のものだそうだ。

エブルアートは、使う材料のほとんどが天然素材でできている。
まず大きな容器に、トルコの山にあるゲベンという木の樹脂を混ぜた、とろっとした液体を入れる。その表面に、岩絵の具に牛の胆汁を溶いた染料を落とし、バラの枝と馬の毛でできた筆で模様を描いていく。

模様は水面の揺れと一緒にゆっくりと広がり、広がったところに紙をかぶせて、その模様を写しとる。同じ模様は二つとできないので、印刷技術がなかった時代には、国の契約書や書簡、手形や公式文書の紙に施されていたという――。

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

「そう聞くと、模様が偶然できるように見えるかもしれませんが、実は偶然はありません」
ニメットさんと兄のエムレさんが言う。そこには水と絵の具の絶妙なバランスがあり、部屋の湿度があり、紙の状態があり……その影響まで見越した上で、1滴の色が落とされ、1本の線が引かれる。

「でも、すべてを自分で決めるわけではない。水は生き物で、心の鏡。その瞬間の気持ちによって、模様も変わります。水で描くのではなく、水と描く。水の手が入るんですね」

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

この日、描いてもらう絵は「&wの読者に贈りたい花」がテーマだった。
一つめは、チューリップ。トルコの国花で「幸せの花」といわれる。
二つめは、ヒマワリ。力強さと、一粒の種からたくさんの種が生まれる豊穣(ほうじょう)を表現している。
そして三つめがデイジー。
「日本の女性の顔はとても明るい。いつも笑っている。それを表したいと思いました」

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

ものづくりが好きな父親の影響で幼い頃から芸術に親しみ、大学でもそろって芸術を学んだニメットさんたちは1995年にエブルアーティストとして5人で活動を開始、99年、トルコ北西部の大地震から2週間後に、ニメットさんが、兄のエムレさんと来日した。数年後には、アーティストのかたわらデザイナーや建築家、テレビディレクターをしていた兄や姉も来て、5人一緒にアトリエ「エブルハウス東京」やカルチャースクールで、エブルアートを教えながら暮らしている。

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

エムレさん

伝統的なエブルアートに、三次元を表現する独自の技法を加え、宇宙の創世や北斎の浮世絵を思わせるものや、シルクや日本の着物にエブルアートの模様を施すなど、現代アートとして新しい作品を次々と発表。東京の松濤美術館やミキモトなどのギャラリーをはじめとする全国各地、さらにはイスタンブールのトプカプ宮殿などで、合わせて50回以上の展覧会を開いてきた。

「トルコには『生まれたところと同じように、暮らしているところも大事な母国』という意味のことわざがあります。私たちは日本のことも自分の国だと思っています。日本とトルコの間に、文化の橋をかけたいのです」。2011年の東日本大震災でも、トルコには戻らなかった。水をたくさん使うアートということもあり、震災直後が一番大変だった、とふり返る。

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

撮影当日は、さすがきょうだい、常にリラックスした様子だった。トルコのカルチャーやアートについて、いろいろと話してくれる。ニメットさんの髪についた糸くずをとってあげる兄・エムレさんの姿が印象的だ。

でも、実際に作品を作り始めるとその表情が一変。真剣なまなざしで水面と対峙(たいじ)する。考えてから作るのか、作りながら考えているのか……。水面に次々と色を落としていく。その早さに、見ている側が追いつかない。

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

筆を水面に入れると、既に落とされた色が、縦横無尽に動き出す。いや、自由自在に動いているのではない。動き出した色と色がぶつかり合って、次第に花のかたちを形成していく。すべて計算されていたことに気づかされる。
水面の動きを見ているだけでも気持ちが和んだ。セラピーとして使われることも多いという……。

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

そんなことを思っていたら、あっという間に作品は完成した。水面に紙が置かれ、その紙を持ち上げると何もない水面だけが残った。この間、約10分。

仕上がった作品への兄たちの意見は、意外と厳しい。色みや曲線の表現に納得がいかなければ、すぐに指摘する。完成後すぐに反省会が行われるのは、何枚つくっても変わらない光景だった。きょうだい間だからこそ思い切って指摘ができる。すごくきれいに仕上がった作品に見えても、3人は容赦なくボツにしていた。

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

ヒキメットさん

7月11日からは銀座伊東屋で、「日本トルコ友好展vol.IV」を開く予定だ。

「水は心の鏡」。トルコのエブルアート作家、エキレキリきょうだい

左からヒキメット、ニメット、エムレ・エキレキリさん

ニメット、ヒキメット、エムレ、ハティジェ、セムラ・エキレキリ

Nimet, Hikmet, Emre, Hatice, Semra Ekrekli
トルコのエブル・アーティスト5人きょうだい。1999年にニメットさんが来日、その後、兄姉も合流し、「エブルハウス東京」を拠点に活動している。
これまでの主な展覧会は以下の通り。
丸善・日本橋店、丸の内店、岡山店 ギャラリー「EKREKLI EBRU ART」展
トルコ大使館レジデンス『水からの生命Ⅲ』展
ミキモト銀座本店「EKREKLI EBRU ART」展
銀座 伊東屋9F ギャラリー「EKREKLI EBRU ART」展『色のシンフォニー』
日本外務省オフィシャルイベント『チュラーンパレス イスタンブール交流展』
The Shoto Museum of Art(松濤美術館)「EKREKLI EBRU ART」『色のシンフォニーⅢ』
イラン大使館「EKREKLI EBRU ART」展覧会
イスタンブール海軍博物館「日本・トルコ友好展「Resmen Dostluk Sergisi vol.Ⅱ」
日本・トルコ友好展東京「Resmen Dostluk Sergisi vol.Ⅲ」

エブルハウス東京
Instagram: ebruhousetokyo

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