MUSIC TALK

birdデビューから20年 「いま、自分の声に取りつかれている」

デビューアルバムが大ヒットし、そのソウルフルな歌声で圧倒的な存在感を放ったbirdさん。デビュー20周年を迎えた今、声、言葉、音楽への思い、そして、年齢を重ねていくこれからについて、穏やかに語った。(文・中津海麻子 撮影・松嶋 愛)

前編から続く)

谷川俊太郎さんから知った、言葉の力

――1999年、シングル『SOULS』でデビューします。自ら作詞を手がけました。

「なんか普通やな」。最初に『SOULS』の歌詞をプロデューサーの大沢伸一さんに見せたとき、そう言われたんです。えー、普通って何!?って(笑)。困り果てて友達に相談したら、谷川俊太郎さんの詩集を渡してくれました。国語に興味もなく学生時代を過ごしてきてしまったので、谷川さんの詩を知らなかったのですが、読んで衝撃を受けました。言葉の持つ力の強さってすごい! アレサ・フランクリンの歌声を聴いたときと同じ感覚でした。確かに私の詞はダメだ、勉強しなきゃいけない。それからいろんな人の詩集や文章を読み、何回も何回も書き直しました。そして大沢さんに見せたら「ええんちゃう?」と、ようやくOKをもらえたんです。本当にうれしかった。

日常生活が窮屈になって

――その後リリースしたファーストアルバム『bird』が70万枚セールスと大ヒットを記録しました。当時、自分が置かれた状況をどうとらえていましたか?

あまりにも動きが速すぎてついていけない。それが正直な思いでした。次々と歌詞を書かなきゃいけなくて焦りながら、日本語で歌うことについてもお手本がないので何が正解かがわからない。一つひとつのレコーディングでいっぱいいっぱいになってしまった。

初めてのツアーに出ればまた初めてのことばかり。当時はアフロヘアだったので、スーパーでネギを買っていたらじっと見られたり、なんだか日常生活も窮屈になってしまったんです。これが本当に私のやりたいことなの?……と。このままでは楽しく歌えない。一段落したとき、「休みたい」とお願いしました。そして、タイに住んでいた友達のもとに転がり込んだのです。

――変化はありましたか?

音楽から1回離れたくて、実際に離れてみたら、本当に楽しかった。クラビというビーチにしばらく滞在したある日、キレイな海にプカプカ浮かんでいたら、突然、ファーストアルバムに収録されてる『BEATS』が頭の中で聴こえてきたんです。ああ、なんていい曲なんだろう、また歌を歌いたいと思いました。帰国後はとてもスムーズに音の生活に戻れた。あの時間、あの体験は貴重でしたし、当時の私には必要だったのだと思います。

birdデビューから20年 「いま、自分の声に取りつかれている」

いろんな人と音楽を作って、気づくこと

――大沢さんとタッグを組み2枚のアルバムを制作した後、2003年には田島貴男さん(オリジナル・ラブ)のプロデュースでアルバム『DOUBLE CHANCE』をリリースしました。経緯は?

学生時代、日本語の音楽ってあまり聴いたことがなかったのですが、サークルの中にオリジナル・ラブのコピーをやっているバンドがあって、音楽がすごくいいなぁと思ってたんです。初めてニューヨークのレコーディングに行くとき、何枚かCDを持っていったのですが、その中にオリジナル・ラブもあって。海外という慣れない環境の中、オリジナル・ラブを聞きながら歩いてスタジオに向かうと、すごくいい状態になれた。そんなこともあり、田島さんとはいつか一緒にやれたらいいなと思っていて、レーベルを離れたタイミングで私からお願いしました。

ものすごく刺激的で、すばらしい経験になりました。歌詞の書き方、歌へのアプローチ、リズムの取り方から、歌い方や考え方、レコーディングのときにどんな気持ちで臨むべきかといったことまで、本当に色々なことを教えていただいて。色んな方と一緒に音楽を作ることで、一人では気づけないこと、たどり着けない場所に行くことができる。そう気づくことができたことは大きかったですね。

――その後は、冨田恵一さん(冨田ラボ)とともに作品を手がけます。

3枚目のアルバム『極上ハイブリッド』の収録曲『うらら』をアレンジしていただいたのが最初です。初めてお会いしたとき、「birdさんはどのような曲が好きなんですか?」と優しく聞いてくださり、なんか病院の先生に問診されてるみたいで(笑)。今までとは違うタイプの方だなと思いました。その後、6枚目のアルバム『BREATH』をプロデュースしていただきました。

『BREATH』を作ろうという話になったとき、その前にインドを旅してヨガの道場のようなところにいたのですが、呼吸ってすごいなと思って。次は、息をしてから息を止めるまで、つまり、生まれてから死ぬまでを1枚のアルバムにしたい。そんな壮大なテーマを打ち立てました。そこから制作が始まったのですが、その途中で妊娠がわかって。当然、体が変化していく。おなかが大きくなるにつれて、重心がどんどん下に落ちていくんです。これが意外といい。私は体が小さいので、いい具合に腹が据わるというか。ゴスペルシンガーの体がどっしりした人たちってこういう感じなのかな、って。その感覚を知ることができたのは、歌い手としては貴重な体験でした。

「生まれる」というテーマの曲を作ろうということになり、せっかくなので産んでからにしようと考えました。当初、私も冨田さんも緩やかで静かな曲をイメージしていたのですが、実際に産んでみたらあまりにも激しくドラマチックで(笑)。結局、かなりアッパーな曲に仕上がりました。検診中に病院で聞かせてもらう子どもの心音がものすごくいいリズムだったので、先生に頼んで録音させてもらい、冨田さんに「どこでもいいから入れてもらえませんか?」とお願いしてビートに混ぜてもらって。そのときしかできないことをアルバムに詰め込みました。

――母になって、音楽への向き合い方、作る音楽に変化はありましたか?

子どもができる前も今も、一年中ライブをやって、その合間にアルバムを作る、という基本的なスケジュールは変わりません。ただ、ものすごく切り替えが早くなりました。以前は、今日は歌いたくないな、書きたくないな、なんてダラダラして、その感じも好きだったのですが、今はそんなこと言ってられない。子育ても家事もあるんだから、はい、今やる! みたいな(笑)。ライブもギアが入るまでに少し時間がかかったのですが、今は直前にパッと切り替わるし、その方がいいパフォーマンスができる。子どもたちのおかげだなと思いますね。

言葉はリズムになり、音楽になっていく――ニューアルバムへの思い

――デビュー20周年を記念したニューアルバム『波形』を、冨田さんプロデュースでリリースしました。聞きどころ、作品に込めた思いは?

今回、アルバム名にもなっている『波形』の詞が最初に生まれました。「息が音になり その意味が生まれ」と書き、詞先で冨田さんにメロディーをつけていただきました。ここに、このアルバムの出発点があるという気がしています。

birdデビューから20年 「いま、自分の声に取りつかれている」

ニューアルバム『波形』

大きなテーマは「言葉とリズム」。日本語の響き、意味合いの多彩さは本当におもしろい。それをリズムにしたときにどういう風になっていくのか。音楽だけでなく、こうして話している声、外の音、暮らしの中のいろいろな音が重なり組み合わさって、ああ、今日はこんな一日だったと思えたりする。私たちミュージシャンは録音した自分の声や曲の音の波形をいつも見ていますし、今はスマホなどで簡単に録音できることもあり、波形は身近なものになっているように感じます。言葉がリズムになり、そして音楽になっていく――。その過程を『波形』で表現できたらと思いました。

私の声、冨田さんのサウンドメイキング、とにかくいろんな音が組み合わさり、折り重なり、波形を描いています。聴けば聴くほどいろんな発見があると思うので、それを楽しんでもらいたい。同時に、日本語の響きの多様さもふんだんに織り込んでいますので、そうした楽しさや心地よさも感じていただきたいですね。

――「これからのbird」は?

歌に出会えて20年間、ずっと自分の声に向き合ってきました。「もっとこんな風にしたい」「こうしたらどうなるんだろう?」という、自分の体や声の不思議さに取りつかれていて。それが今まさにピークにきている感じがするんです。年齢とともに体は変わり、それに伴って声も変わっていくでしょう。実際、デビューのころの声と聴き比べると、私の声ではあるのにこんなに違うんだ、と。若いときは勢いで突っ切っていけたものが、年を重ねることでいろんなことを気にしなければうまく回らなくなる。でも、それも含めて自分の声をずっと見ていきたい。そして、そのときどきの私の声を、好きなこと、興味のある何かに乗せて発信していけたら。そう思うと、これから先もすごく楽しみです。

bird
1975年生まれ、京都出身。シンガー&ソング・ライター。
大沢伸一/MONDO GROSSO主宰のレーベルからデビュー。ファーストアルバム『bird』は70万枚突破、ゴールドディスク大賞新人賞獲得。2019年、デビュー20周年を迎え、通算11枚目のアルバム『波形』を3月20日にリリースした。前作に続き今回のアルバムも、冨田ラボ(冨田恵一)のプロデュース/サウンドメイキングによるもの。
bird “波形” Live !
4/19(金)Billboard Live TOKYO(東京)
5/2(木・祝)Billboard Live OSAKA(大阪)
birdオフィシャルサイト:http://www.bird-watch.net/

PROFILE

中津海麻子

執筆テーマは「酒とワンコと男と女」。日本酒とワイン、それらにまつわる旅や食、ペット、人物インタビューなどを中心に取材する。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、ワイン専門誌「ワイン王国」、朝日新聞のブックサイト「好書好日」、同ペットサイト「sippo」などに寄稿。「&w」では「MUSIC TALK」を連載中。

「大学まで音楽に興味なかった」 歌姫bird、デビュー振り返る

トップへ戻る

ハンバート ハンバート流、働き方改革。新譜は『フジ三太郎』とコラボ

RECOMMENDおすすめの記事