わたしの みつけかた

<10>3.11後の世界で、バランスを保って生きていく~牛の顔のポーズ

<10>3.11後の世界で、バランスを保って生きていく~牛の顔のポーズ

撮影・篠塚ようこ

五反田にある「サンアンドムーンヨガスタジオ」オーナーであり、作家でもあるリザ・ロウィッツさんの自伝的小説 “In search of the Sun” からご紹介する連載。
養子縁組によって新しい家族を迎えた前回。最終回となる今回はそれから4年経ち、息子・信仁も6歳を迎える頃のお話です。

サンアンドムーン

ある日の帰り道、信仁を真ん中にブランコのようにしながら3人で歩いていた。
「夜になったら、昼はどこに行くの?」と信仁。
省吾の答えは、科学的だ。「24時間かけて地球が回っている中で、昼と夜があるんだ。地球が太陽の方を向いているところが昼で、反対を向いているところが夜」
信仁が頷(うなず)く。
「太陽と月みたいに、昼と夜もセットなんだよ」と伝える。暗闇と光のように。満ちることと欠けることのように。

寒さにぶるっと震えると、信仁がジャケットを脱いで私に着せようとする。信仁が風邪をひいてはいけないからと断っても諦めないので、お言葉に甘えて小さなジャケットを肩に掛ける。
信仁が私の手を握る。
私のために、手を握ってくれたのはこれが初めて。何かが怖くてとか、自分が悲しいから、ではなく。ただ私のために。

この小さな子への愛情があふれて、心がいたい。誰かを想(おも)うことが、私たちの幸せで、自分のことを考えるから、苦しみが生まれる。瞑想(めいそう)の先生から教わった、この古代から伝わる智慧(ちえ)を、信仁はもう分かっている。
もうすぐ信仁は6歳になる。私たちの子になってから、4年。
信仁に出逢うのを待ち焦がれていた日々の感情を思い出すのが難しいくらいに、もうずっと一緒にいた気がする。

<10>3.11後の世界で、バランスを保って生きていく~牛の顔のポーズ

撮影・篠塚ようこ

2011年3月11日

2011年3月11日。試練の日。
揺れを感じた時、5階建てビルの2階でランチを食べていた。揺れが止まらないので周りを見渡しても、誰も慌てる様子がない。でもさらに揺れが激しくなったので、隣の席に座っていた女性に「外に出たほうが良いかもしれない」と目線を送ると、彼女もうなずいて身の回りの荷物をまとめ始めた。階段を一段飛ばしで駆け下りる。

表には既に周りのビルから駆け出して来た人たちがいた。地面が崩れて、4車線の道路を走ってきた車が急ブレーキを踏み、目の前で前後に揺れている。うそみたいな光景。これで私の人生も終わり、と本気で思う。

幼稚園にいる信仁は、無事だろうか。あの建物は丈夫だろうか。省吾も、無事でいてほしい。とにかく、信仁を迎えに行かなくちゃ!

やっと幼稚園に着くと、義父がすでに迎えにきたことを先生が教えてくれた。省吾がなんとか家に電話を掛けて、頼んでくれたらしい。80歳を超えた義父が、家からは2キロ以上ある距離を迎えに来てくれたことに、感謝の気持ちが湧き上がる。
信仁のような年長の子は怖がる小さな子たちを落ち着かせたり、慰めてあげたりしたという。先生たちにも家族がいるにもかかわらず、最後の子の迎えが夜9時にくるまで一緒にいてくれたのだそう。

家に着いたけど、まだ省吾からの知らせはない。大きな余震が絶え間なく続き、東北の津波のニュースも届いていた。信仁を心配させたくなくて、トランプで遊んで、おじいちゃんと一緒に夕飯を食べ、「特別な時用」に取っておいた、エドガーからのお土産のリンツァートルテを取り出した。

今はウィーンに住むエドガーが、省吾との初デートをドタキャンした後に、電話を掛け直すように説得してくれたんだったっけ。

バターたっぷりの、サクサクのパイ生地と甘くてちょっと独特なエルダーベリーの味わいが口の中で混ざり合うと、今までの人生で一番おいしい食べ物のように思えてくる。

まだ電気とガスがあるだけラッキーだと思う。インターネットも、電話もつながっている。Facebookで、街で足止めを食って家までたどり着けない人に私たちの家を提供することをお知らせした。
他にも何人も、同じような投稿をしているのを見た。その夜遅くなって、省吾も出版社での仕事から帰って来た。歩いて5時間の道のりだったそうだけど、まず彼が無事だったことが何よりだった。

東京の街は、思いやりであふれていた。どこか静かで平和的。混乱も、それに乗じた盗みもない。他の人を助けたり、ご飯や寝床、必要なものを提供したりする人たち。

数日経って、海外の友人たちからこっちにおいで、と電話やメールが入るようになった。たくさんの外国人と、日本人も、余震や原発事故の影響を恐れて海外に避難していた。
心配した母からも電話が入った。「今のところは大丈夫」と伝える。

省吾とは、今後について話すのが日課になっていた。
省吾は日本に残りたいと言う。パニックに陥るのが一番良くないし、長男だから、家族やお義父さんの面倒をみる責任もある。
「でももし君が信仁を連れて日本を離れたいのなら、そうするべきだよ」と、また私に決断を委ねる。
家族離れ離れになるか、省吾と一緒に残って、どんなことが起ころうとも一緒に乗り越えるか。
この地に残ることは危険なの? 私は愛する子を危険にさらしていることになるの? この決断を、いつか後悔するようになる? 家族を持つ為に、あんなにつらい思いをしてきたのに?

震災があって、離婚に至ったカップルもいた。今までつらい関係に耐えてきた人は、人生は耐えるだけではもったいないと気づいたみたい。反対に、今まで迷っていて、結婚を決断したカップルもいる。

放射能の不安が高まるに連れ、国外に避難する人は増えていき、私も迷い続けていた。日本に住み始めた理由の一つは、安全だったから。今は確実にそうではないことが分かった。だからってカリフォルニアにも地震はあるし、色んな危険の可能性はある。犯罪だって多いし。だいたい、安全な場所なんて存在するのかな?

チベット仏教にある「死の瞑想」は、「私たちはいずれ死ぬ。いつ、どこで死ぬか、それが分からないだけ」ということを自覚するためのものだ。横になって、死んだ自分の姿を想像してみる。愛する人々に囲まれている。彼らのために、何かひとつでもできただろうか?
自分の死んだ姿を視覚化することで、残された時間の少なさを実感できる。この瞬間瞬間を生きなくては。そのためには、私たちの中にある恐れや不安と向き合って、それを包み込めるくらい大きくなること。暴れる子どもを抱きしめる母親のように。

省吾は私の人生。信仁も私の人生。
彼らはここにいるべき人で、だから私も彼らと一緒にここにいる。
ここに、残る。

ユダヤの智慧を思い出す。左右のポケットに入れて、いつも肌身離さず持ち歩くべきふたつのメモがあるのだという。ひとつは「世界は私のために創られた」、そしてもうひとつは「私はただの塵(ちり)にすぎない」。
この世界で、バランスを保って生きていくのが私たちの仕事なのだと思う。たとえ世界が私たちを試そうとしても。

ヨガ・ティップス:牛の顔のポーズ~ゴムカーサナ

長時間のデスクワークなどによって凝り固まった骨盤周りの筋肉、背中上部、首、肩周りの緊張をもほぐすポーズです。
感情が蓄積されるとも言われる骨盤。私たちの成長や変化を妨げる感情を、この部分に働きかけることで解放し、創造性に満ちたエネルギーを身体中に行き渡らせます。自然と、様々な可能性を受け入れることができるようになっている自分に気づくでしょう。

もしどこか違和感を感じたら、その感覚を閉じ込めるのではなく、温かな関心を持って見つめます。その違和感を感じる部分に呼吸を送り、和らいでいくよう優しく促すのです。

*Message from Leza*
I am grateful to the challenges of life because they have guided me back to my heart, into vulnerability and empathy. The role of the spiritual path is not to help us “transcend” challenges but to embrace them with loving arms and to view them as a kind of sacred portal to greater connection, compassion and love. As the saying goes, “the only way out is through.” I am grateful to Japan for making me feel so at home in my adoptive country.

今まで出会ったいくつもの試練のお陰で、私自身を見つめ、もろい部分に向き合い、そして他人を思いやる心が育ちました。精神的な成長とは、試練を「乗り越える」のではなく、より大きなつながり、慈悲、愛情に到達するための、ありがたい道のりだと受け止めることだと思います。「出口から出るためには、まずそこまでの道を歩かなければ」ということわざもあるように。
私を受け入れてくれて、家族になってくれた日本という国に、感謝します。

PROFILE

  • リザ・ロウィッツ

    2003年設立、東京・五反田にあるヨガスタジオ「Sun & Moon Yoga(サンアンドムーンヨガ)」主宰。
    カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて文芸創作の修士過程を修了。来日し東京大学や立教大学においてアメリカ文学の講師として教鞭を執る。
    現在は執筆活動の傍ら、子供に大人、ガチガチに体の硬いビジネスパーソンからアカデミー賞受賞俳優まで幅広い層の生徒へ向けてヨガ、マインドフルネス、瞑想を25年以上に渡って伝えている。
    20冊以上の著作の中には受賞作品も多数。現在も定期的にヨガのクラスやワークショップを国内外で開催し、独自のヨガの世界を発信している。

  • 吉澤朋

    東京都の国際広報支援専門員を経て、現在はライター・文化を伝える翻訳者。子宮筋腫を患ったことをきっかけに自分の身体・健康と向き合うようになり、リストラティブヨガと出会う。
    自身も国際結婚の体験者であり、「女性になること」を楽しみ中。

<9>家族になること ~戦士のポーズ

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