上間常正 @モード

表現の仕方そのものへの模索と伝統の確かさ

前回に続き、今年秋冬東京コレクションについて。パリなどのコレクションでも、最近は強いメッセージを打ち出すブランドが増えている。女性差別やセクハラ、環境汚染、暴力や非寛容など、いまの世界が抱えている問題へのファッションからの警告や提案だ。そんな中で今回の東コレでは、ファッションの表現の仕方そのものを模索するような新しいタイプの二つのブランドの新作が強く印象に残った。

表現の仕方そのものへの模索と伝統の確かさ

マラミュート/ 撮影:Runway-Photographie

まず一つは、ショーでの作品発表は前シーズンに続き2回目というマラミュート(デザイナー・小高真理)だった。ニット素材を中心に素材自体の変化や他素材との組み合わせ、手の込んだディテールの柄模様などで多彩な表情を作り出している。そしてその工夫の仕方は、デザイナーによって理詰めで、意図的に組み立てられているようにも思えた。

プレス資料によると、デザイナーは「<風>という字を用いた言葉遊びでシーズンテーマの解釈を深めてきました」とのこと。言葉遊び、アナグラムは意外なイメージを連想させ、たいていは楽しい。だが時には、多くの人と気軽に理解し合えるレベルを断ち切ってしまうような重いイメージを生み出してしまうこともある。今回のテーマとなった「風景」は風の吹いている現実の場面につながる。そして、その場面には、どこか強い違和感をもたらす裂け目のようなものが潜んでいるかもしれないのだ。

デザイナーは、工事中であることに慣れていた渋谷を歩いていると「言葉にし難い不安と恐怖の気持ちが湧き上がってきます」と述べている。だがその違和感は、生きている「ときめき」を感じさせる力も秘めているかもしれない。マラミュートの服には、繊細な表現の中にそんな違和感が伝わってくるような強い力がある。こうした表現はとても新しい。しかし敢えて注文すれば、表現の多彩さはもっと絞った方がいい。当たり前のことだが、力は分散すればするほど弱くなってしまうからだ。

表現の仕方そのものへの模索と伝統の確かさ

エマリーエ/ 撮影:大原広和

もう一つは、ベテランのエマ理永(旧名・松居エリ)の「エマリーエ」。エマ理永×AI(人工知能)とうたったショーだった。東京大学生産技術研究所の合原一幸教授らと協働して、彼女のこれまでの服や自然界の植物や貝、波などの形や動きのデータをAIに取り込み、出力された画像をもとにデザインしたという。

最近は将棋などで人間がコンピューターに負けてしまうようになった。ルールの決まった競技では、過去の勝負のデータを多く持っている方が勝つ確率が高いからだ。服の場合でもマーケティングだけ考えるなら、よく売れた服のデータを大量に集めてその傾向に合わせた服を作れば、売れる可能性は増すかもしれない。だが、ファッションデザインは創造性や美意識を基盤としていて、そうした感性は自らも含む自然そのものをどれだけ正確に認識できるかがポイントなのだ。

もしかすると、AIは人の認識能力に多くのデータを提供してくれるかもしれない。その意味ではエマリーエの試みは興味深い気がしないでもない。とはいえ、ファッションはやはり別物だと思いたい。生物としての人間の認識や判断能力の仕組みは、コンピューターと比べて桁違いに複雑で自在だからだ。少なくとも今回のエマリーエの服は、ほかのブランドと比べて特に美しくも魅力的でもないと言わざるを得ないのだ。

表現の仕方そのものへの模索と伝統の確かさ

タエ・アシダ/ 撮影:大原広和

こうした東京らしい新たな試みとは別に、ベテランブランドの充実ぶりも印象に残った。タエ・アシダ(芦田多恵)は端正だがトレンドにも敏感で、しかも自然な色と感覚の服。今回初めてメンズも発表した。またジュン・アシダは黒白を基調にしたこのブランドらしい品格と美しさを感じさせる新作を見せた。

表現の仕方そのものへの模索と伝統の確かさ

ユキ・トリヰ・インターナショナル/ 撮影:野村洋司

ユキ・トリヰ・インターナショナル(鳥居ユキ)は、赤やピンク、グリーン、明るい紫などの自然な色使い。そして変化に富んだニットやクロコダイル柄のサテンなど素材に工夫を凝らした軽快な秋冬スタイルを提案した。このブランドらしい小粋な感覚も相変わらずだ。

表現の仕方そのものへの模索と伝統の確かさ

ヒロココシノ/ 撮影:大原広和

ベテランとしては新しい形に挑戦してきたヒロココシノ(コシノヒロコ)は、会場の中央に置かれたピアノの即興生演奏と呼応し合うような服を見せた。抽象模様のシンプルな形のドレスやコート、最小限のアクセサリーなどが、心地よいリズムで調和する見事なショーだった。

トクコ・プルミエヴォル(前田徳子)は、バルト3国の民族衣装をアイデアにした服。この小さな国たちが世界から注目されたことは少ないが、素朴で風習を大切にしながら季節のうつろいに合わせた自然体の暮らしを続けてきたという。そんなスタイルに注目してみるのは、いま最も求められていることの一つなのだと思う。

>>【2019秋冬東京コレクション】新たに多様化する東京、そしてアジア発の新作コレクション

PROFILE

上間常正

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化くらし報道部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

新たに多様化する東京、そしてアジア発の新作コレクション

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