このパンがすごい!

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

パン屋からの帰り、真鶴漁港の岸壁を歩いていたときのこと。「高橋水産」というとんでもなくうまい干物屋に出くわした(パンオタクも干物ぐらい食べる)。そこで数珠つなぎ的に、高橋水産の干物を使う店として知ったのが「真鶴ピザ食堂KENNY」。ピザに干物?? 頭にクエスチョンマークを浮かべながら、魚屋や磯料理屋の並ぶ、昭和のたたずまいを残す坂道を上っていった。

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

外観

ピザ屋によくあるイタリアの国旗とか一切なく、ラーメン屋みたいな外観(実際に元ラーメン屋だった物件)。メニューには、あじ、さばのみりん干、塩辛と真鶴産海の幸の数々。一体、どんなピザが出てくるんだろう?

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

「赤うずわ」(左半分)と「さばみりんとクリームチーズ」のハーフ&ハーフ

「さばみりんとクリームチーズ」の一口目。ぱーんと、さばの香り、ピンクペッパーの辛さがスパークした。さばの旨味(うまみ)ってこんなに豊かなのか! それはじりじりと変化し、みりんの甘さ、魚の身の甘さと、クリームチーズの甘さが重なりあい、やさしく広がる。

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

向井研介シェフ

海あり山ありの自然と、大規模開発を逃れた静かな街。向井研介さんは、真鶴に一目ぼれし、移住した。

「干物なんてあんまり食べたことなかったんですけど、真鶴で食べたらめちゃくちゃうまくて」

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

「白うずわ」(左半分)と「塩辛とじゃがいも」のハーフ&ハーフ

さばみりんは真鶴の「魚伝」のもの。「うずわ」の干物は先述の高橋水産製。うずわとは宗太鰹(そうだがつお)のことで、特に塩に漬けこんだものは「塩うずわ」といわれ、西湘から伊豆にかけての郷土料理である。

「宗太鰹は血合いが多いので、足が速い。この辺では、たくさん港に上がったときは塩漬けにして保存するんです」

それって、イワシとカツオのちがいこそあれど、まさにアンチョビではないか! 向井さんは、塩うずわの干物(高橋水産の辰巳さんが作る「辰巳流塩うずわ」)を使って、カツオ版アンチョビペーストを作りだす。

「にんにくとオリーブオイルに漬けて低温で火入れ(コンフィ)したあと、ペースト状にします」

このペーストを塗って、レンコンスライスをのせたピザが「白うずわ」。レンコンのしゃきしゃき感の背後でじんじんと、うずわの塩気、旨味、かつお風味。それはじわじわ高まり、ついにはレンコンもチーズも超えてしまう。飲みこんだあとも、喉(のど)になお残る、塩の甘さ、磯の香りは海水浴のあとの心地よい残り香のよう。かつおぶしのダシと同じ、日本人の舌と鼻になじむ風味。アンチョビに感じる「うっ」となるトゥーマッチさがないのだ。

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

「赤うずわ」(左半分)と「さばみりんとクリームチーズ」のハーフ&ハーフ。ランチセットにはスープとドリンクがつく

鶏レバーのパテにもうずわのペーストを加える。陸の旨味と海の旨味、それぞれの二大巨頭がクロスし、スパークしている。これを自家製パンに塗って、後口に赤ワインを注げば、気も狂わんばかりの快楽となる。

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

鶏レバーのパテ

「塩辛とじゃがいも」は、地元・青貫水産の絶品塩辛使用。塩辛パスタみたいに生クリームでクリーミーに仕上げる。衝撃的なほど、塩辛が超絶まろやか。臭みはなく、ほんのり日本酒のような発酵の芳香さえ立ち上らせている。

ピザ生地に惚(ほ)れた。耳がたまらない。音がするほどぱりぱりの表面、そこに浮かんだお焦げの斑点はスパイシー。中身は揺れ動くようにもっちり、そして小麦の甘さ。それだけに終わらず、噛むたびに小麦の旨味が滲(にじ)みだす。変化が長くつづくから、魚介からほとばしる旨味と伴走してくれる。

地元・神奈川県産(秦野など)の小麦と北海道産「幻の小麦」ハルユタカをブレンド。それをなんと手ごねで生地にする。

「ピザでは誰もやらないような、パン寄りの作り方。水分を多くして、冷めてもおいしい生地にしています。塩も少なめにして、常温で一晩発酵、小麦の甘みを出す」

試行錯誤によって、ナポリ伝統の薪窯ならではの感覚に、電気窯で肉薄した。500度を超える高温に加え、ダンパー(窯の扉)を開けて水分を逃しながら焼く工夫は、「昨日やっとわかったんです」。

もともとイタリアンの料理人だったが、地元の家族連れが日常使いできる店にしたいと独学でピザを習い覚えた。自己流だから、ナポリピザとは名乗らない。これは、地元産の干物と地元産小麦が出会った、まさに「真鶴ピザ」だ。

真鶴漁港のとれたて海の幸と地元産小麦が出会った「干物ピザ」/真鶴ピザ食堂KENNY

メニューに掲載された、使用する食材の生産者たちのマップ

真鶴ピザ食堂ケニー
神奈川県足柄下郡真鶴町岩268-8
0465-68-3388
11:30~14:30(ランチ)、17:30~21:00(ディナー)(売り切れ終了、20時来店の場合要電話)
木曜休・その他不定休(facebook、もしくは電話で要確認)
https://tabelog.com/kanagawa/A1410/A141002/14065982/
https://www.facebook.com/pg/manazuru.kennypizza/about/

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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