花のない花屋

「仕事は辞めていいんじゃないの」 結婚か退職かに悩む私にアドバイスをくれた恩師へ

「仕事は辞めていいんじゃないの」 結婚か退職かに悩む私にアドバイスをくれた恩師へ

〈依頼人プロフィール〉
幾田美佐子さん 49歳 女性
広島県在住
公務員

私の人生の師であり、生きて行く上での“先生”ともいえる恩師と出会ったのは、大学3年生の秋のこと。文学部の学生だった私は、経済学部のその教授とはそれまでまったく面識はありませんでしたが、先生は公務員試験の担当をされており、就職相談で初めてお会いしました。

先生は50年前に経済学を専攻し、大学院まで出て教授になった女性です。今でこそ大学院まで行く女性は珍しくありませんが、「女性は大学なんて行かなくてもいい」という考え方があった時代。そんな頃に先生は学生結婚し、京都から広島の片田舎に移り住み、乳飲み子を連れて京都の大学院まで通っていました。ご実家が京都にあったので、授業中は実家に子どもを預けていたそうですが、なかなかできることではありません。

先生に実際にお世話になったのは、卒業までの1年ちょっとでしたが、公務員試験に合格し、就職をしてから定期的に2人でお食事会を開くようになり、かれこれ30年以上のおつきあいが続いています。

食事会では、先生が経済や社会の話を身近な例を用いながら話してくれたり、私がプライベートな相談をしたり……。これまで人生においていろいろなアドバイスもいただいてきました。今でも忘れられないのは、就職して3年目に結婚の話が持ち上がったときのこと。相手が東京にいたため、私は結婚か退職かの選択を迫られていました。そのとき、先生はあっさりと「仕事は辞めてもいいんじゃないの」と一言。私には衝撃でした。あれほど就職のために力を注いでくれたのに……。一度退職したら、公務には戻れない時代です。「先生の部屋で毎日遅くまで勉強させてもらったのに、たった3年で退職なんてできない」と思ったのを今もよく覚えています。

結局私は今も独身ですが、時に「結婚しないというのは、どうなのだろう……」と思うときもあり、そんなことをつぶやくと、先生はきっぱりこう言います。「結婚しても、パートナーがいても、結局人は1人で死んで行くもの。最後はみんな1人。だから結婚するかどうかより、どう生きるかという方が大事よ」。

先生ご自身はお嬢様とお孫さんがいますが、結婚をしても、好きなことを貫いて生きてこられた女性です。男性社会のアカデミックな世界では苦労も多かったでしょうが、実際の先生はそんな苦労も見せず、“闘う女性”というよりは、小柄でコロコロとよく笑うかわいらしい方です。

そんな私の恩師に、これまでの長年の感謝を込めてお花を贈りたいです。先生は好奇心のかたまりのような方で、新婚旅行は「乗り物すべてに乗って」ということで、昭和40年代に飛行機やフェリー、バスなど乗り継いで国内旅行をしたそうです。知性とかわいらしさ、好奇心にあふれた先生に似合うような、ピンクをメインにした春の訪れを感じる花束を作っていただけるとうれしいです。

「仕事は辞めていいんじゃないの」 結婚か退職かに悩む私にアドバイスをくれた恩師へ

花束を作った東さんのコメント

チャーミングな恩師へ。アカデミックな大学の世界だとご苦労もあったかと思います。それでも、かわいらしくもありアクティブ、そして、知的である先生の雰囲気を、花束で表現したいと思いました。

花材は、ダリア、チューリップ、スカビオサ、スイートピー、トルコキキョウ。

グラデーションが入っていたり、変わった種類のチューリップを挿していますが、ピンク系のチャーミングな花束になることを意識しました。

「仕事は辞めていいんじゃないの」 結婚か退職かに悩む私にアドバイスをくれた恩師へ

「仕事は辞めていいんじゃないの」 結婚か退職かに悩む私にアドバイスをくれた恩師へ

「仕事は辞めていいんじゃないの」 結婚か退職かに悩む私にアドバイスをくれた恩師へ

「仕事は辞めていいんじゃないの」 結婚か退職かに悩む私にアドバイスをくれた恩師へ

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

残りの人生を楽しんで。自分のことは後回しで父の介護に奮闘してきた母へ

トップへ戻る

白血病発覚で抗がん剤治療。力を合わせて困難に立ち向かう家族へ花束を

RECOMMENDおすすめの記事