スリランカ 光の島へ

《スリランカ 光の島へ》<20>キャリア途中の予期せぬ妊娠 それは絶望?

《スリランカ 光の島へ》<20>キャリア途中の予期せぬ妊娠 それは絶望?

金井りさこさんと、ランディカさん(手前)。出会った瞬間「この人とは長い付き合いになるだろうな」と思ったそうだ。ギャラリーはこちら

金井りさこさんは26歳、大学でホスピタリティ学を学んだ後、バンコクにあるアウトソーシング企業に就職、得意の英語を生かしてキャリアを積んできた。しかし持病のぜんそくがバンコクの大気汚染のために悪化。そんなときスリランカのアーユルヴェーダ施設のホテルマネジャー職に転職する転機が訪れる。

自然の中にあるこのホテルでは、持病も落ちつきアーユルヴェーダについて学ぶこともできた。このホテルの人気にともなって忙しく働く毎日、さらなるキャリアアップのため五つ星ホテルへの転職で自分の実力を試したい、そんなことを考えていた矢先、妊娠に気づいた。

りさこさんは同じホテルで働くランディカさんとつきあって半年近くが経っていた。彼は27歳、日本の大学に留学していたこともあって、日本人のゲストが多いこの施設に誘われ働いていた。りさこさんもランディカさんもお互いに出会うまで恋愛や結婚より自分のキャリアを優先したいと思っていたし、家族を持つことでフットワークが重くなることを望んでいなかった。逆にそんな共通の考えで意気投合、距離が縮まり交際が始まった。でもすぐに結婚することは考えていなかった。

《スリランカ 光の島へ》<20>キャリア途中の予期せぬ妊娠 それは絶望?

英語とシンハラ語の婚姻証明書。ギャラリーはこちら

「避妊もしていたのにどうして……」。頭の中はパニック。スリランカでは中絶は違法だ。「日本に帰って中絶手術を受けて戻ってくる?」。いろいろな考えがかけめぐる。「いつか赤ちゃんを授かりたいと思っていたけどこのタイミングじゃないだろうって」

10代でぜんそくを発病し、思うように体を動かすことができなかったりさこさん。母親になりたいという希望は持ちつつも体が弱い自分は無理かもしれないと思っていた。でも妊娠できた。「絶望を感じた後に心のそこからうれしいという気持ちが湧き上がって抑えきれなくなりました」。自然と涙があふれたそうだ。

りさこさんの勤めるホテルには不妊の悩みで訪れる女性たちも多い。「いつか」授かりたい、そんな都合のいいタイミングで妊娠できるほど簡単なことではない。「結婚や妊娠を仕事が落ちついたときに、キャリアアップできたときにって考えても、そのときはそのときの事情があるだろうし、先なんてわからないですよね。だったら赤ちゃんが私たちのところにきてくれた『今』が私たちのタイミングなんだって」

彼も言葉が出ないほど驚いたらしい。頭を抱えた。でもすぐ「自分たちの赤ちゃんに会いたいという考えに変わりました」と話す。婚姻届を提出し、家族に結婚のお祝いもしてもらった。

りさこさんはしばらくは出産、育児に専念するため退職を決めている。ちょっと意地悪な質問をしてみた。「予期せぬ妊娠で仕事に穴を空けてしまうという罪悪感はないですか?」と。 「それは全くないです!」と即答。「退職理由がなんであれ、人生の選択権は自分にあるから」

たたみかけるように次の質問。「結婚もしたくないと前は思っていたんですよね。今の状態は自分の描いていた人生ではないですよね?」。2人は笑顔で「思い描いていた道ではないですけど、すごく未来が楽しみです。考えてみたら子どもがいても挑戦できることはいっぱいあります。むしろ予想外の可能性を持った扉が目の前に現れた感じです」と答えてくれた。

《スリランカ 光の島へ》<20>キャリア途中の予期せぬ妊娠 それは絶望?

「3言語が飛び交う家庭で赤ちゃんがどんな風に育っていくのか楽しみです」。ギャラリーはこちら

りさこさんたちは子育てしながら、自分たちで観光に関するビジネスを立ち上げる計画だ。今まで自分たちが積み重ねてきた語学力とホテルで働いてきた経験をもとに、ランディカさんの生まれ故郷の青い海が広がるスリランカ南部で。
まだまだ日本は働く女性が「産む」ということに不安の方が多くつきまとう。妊娠中だって保活に追われ、体にいろんな変化が起こっていく最中も仕事は変わらずこなさなくてはいけない雰囲気だ。

私もかつて、子どもがいたらできないこと、失われるものがたくさんあるに違いないと思っていた。実際産んでみると産後は社会に必要とされない人間になってしまうのでは、という焦りと思うようにいかない育児で苦しかった。今も自分の時間がなく苦しいと感じることはあるし、もし夫婦2人だけだったらどんなだったかなと思う事も正直ある。

でも子どもが私の人生に登場したことで、新たな出会いや世界が私の目の前に現れた。出産前は自由な反面、自分ひとりの際限のない負の思考にとらわれ、真っ暗な世界にいるような気持ちに何度もなった。でも今は目の前でがちゃがちゃ日々騒がしく成長していく彼女がそれを蹴散らす。失うものもあるけど、得るものもあって前とは違う苦しみ、悩みだけれど私はこれでいい。

撮影中、2人の背中を見ながら「がんばれー!」と心のそこから思った。

↓↓写真のつづきは最下部のギャラリーへ ※写真をクリックすると拡大表示されます。

『五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ』

石野さんの新著『五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ』(イカロス出版)が発売されました。くわしくはこちらへ。

PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。

http://akikoishino.com/

《スリランカ 光の島へ》<19>スリランカの名物経営者、“出る杭”ムニさん、空を飛ぶ

トップへ戻る

《スリランカ 光の島へ》<21>「コロンボで爆破テロ」……あの日から前に進むために

RECOMMENDおすすめの記事