上間常正 @モード

制服が生み出すパワーとは? 「ニッポン制服百年史」展

 制服とは基本的には、特定の目的のための画一的な服だ。しかし逆に制約があるからこそ、それを突き抜けようとするパワーがある。あえて個性を主張したり、権威に抵抗する心やその表現を促したりもする。だから時代の変化に敏感でファッションにもなった。日本の女学生服のダイナミックな展開をたどった、東京都文京区の弥生美術館で開催中の「ニッポン制服百年史」展(6月30日まで)を見ると、制服のそんな力が具体的によく分かる。

制服が生み出すパワーとは? 「ニッポン制服百年史」展

展覧会と同時に発行された「ニッポン制服百年史」(河出書房新社)

 展示によると、日本で女学生の洋装制服ができた大きなきっかけは、1919年(大正8年)、山脇学園のワンピース型制服が誕生したことだった。色は濃紺で縦長のバックル付き、取り外しできる白い襟とカフスのコントラストも効いている、シンプルだが上品さのあるスタイルだった。しかも、それまでの和服スタイルと比べてずっと動きやすく、体操着としても使えた。この制服は今でも第一制服として着られている。

制服が生み出すパワーとは? 「ニッポン制服百年史」展

山脇学園の制服

 当時は女子学生に限らず和装が一般的で、この制服を着た学生たちはいわば「洋装第一世代」だった。続いてセーラー服型、ジャンパー型などが登場し、全国各地の女学校で洋装化・制服化の動きが広まった。中でもより動きやすく、作るのも簡単なセーラー服がより一般的なスタイルになった。そして戦後になると、義務教育延長で新制の中学校が制服を導入したことで、学生服は質・量ともに劇的な展開を見せるようになった。ベストとブレザーの組み合わせ型は1950年代に登場した。

 1960年代末から活発化した制服廃止を求める動きは、実際には廃止よりも制服の自由化・多様化に向かった。それは多分、完全な私服化よりもスタイルが確立した制服をアレンジや着こなしで個性化する方が、労力や経済的にもやりやすかったからだろう。多様化の大きなきっかけは、嘉悦女子や頌栄女子学院の高校生制服に、タータンチェックのひざ丈スカート、エンブレムを付けたブレザー、ハイソックスの組み合わせが採用されたことだった。

制服が生み出すパワーとは? 「ニッポン制服百年史」展

森伸之/画「頌栄女子学院」 『ミッションスクール図鑑』(扶桑社)収録 1993年 Ⓒ森伸之

 英国式の端正なトラッドスタイルだったが人気を呼び、制服のモデルチェンジブームが起きた。80年代後半までには、制服をモデルチェンジした全国の高校の約8割がこのスタイルを採用したという。90年代になると、オーバーサイズのセーターやスカートのミニ丈化、ルーズソックスなど着崩した「コギャルスタイル」や、過激な「ガングロ」「ヤマンバ」などが登場した。

 こうした展開の背景には、93年に大幅値下げされたポケベルの普及やプリクラによって、学校の枠を超えたコミュニケーションの場ができたこと。彼女たちのスタイルを対象にしたストリート系の雑誌『Cawaii!』『egg』などの創刊や、若者らのリアルな心象風景を詩的なフレーズと共に描き出した今日マチ子さんや、かとうれいさんらの漫画やイラストの影響などもあったという。

制服が生み出すパワーとは? 「ニッポン制服百年史」展

1990年代ギャルスタイル 資料提供:菅公学生服株式会社、株式会社ハルタ 監修:森伸之

 かわいい制服は映画やテレビドラマ、アイドルの衣装にも欠かせない要素になり、また日本発信のポップカルチャーとして海外からも注目を集めるようになっている。こんなことが起きたのは、まず制服を着た一人ひとりの思いや工夫、そしてメディアによる情報の行き来、制服のデザイナーや生産業界の競争のための努力なども含めた膨大な実践の積み重ねが、この制服のパワーを生み出したのではないかと思う。

 このパワーは、制服をファッションに、さらに広い意味でのアートに変化させた。1989年から始まった平成の時代は、日本では戦争はなかったとはいえ多くの自然災害や大事故、深刻な経済不安も起きた。インターネットやITの急速な進展やそれに伴うグローバリゼーションがもたらした格差も広がっている。

制服が生み出すパワーとは? 「ニッポン制服百年史」展

2010年代着こなし 撮影者:大橋愛 資料提供:菅公学生服株式会社、株式会社ハルタ 監修:森伸之

 そんなマイナスイメージの中では、制服の変化は数少ないプラスイメージの変化の一つに違いない。制服はたいていの人が着たことがあり、思い出も詰まっている。だから同世代だけではなく、世代を超えて若き日の思いを語り合うきっかけにもなれるだろう。2000年代に入ってからは、カジュアルだが上品な色・柄の落ち着いた傾向が復活しているようだが、今後はどうなるのか?

 展覧会と同時に発行された「ニッポン制服百年史 女学生服がポップカルチャーになった!」(河出書房新社)の編著者で弥生美術館の学芸員、内田静枝さんが書いているように、「平成は制服の時代」でもあったのだ。

 開館時間・午前10時~午後5時。休館日・月曜日、5月7日、ただし5月6日までは無休。入館料・一般900円/大・高生800円/中・小生400円

制服が生み出すパワーとは? 「ニッポン制服百年史」展

イラスト「遠出」かとうれい

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

表現の仕方そのものへの模索と伝統の確かさ

トップへ戻る

母の日のプレゼント、一番欲しいのは「自由な時間」

RECOMMENDおすすめの記事