朝日新聞ファッションニュース

美智子さま、思いにじむ装い

美智子さまが間もなく皇后の務めを終える。その装いは皇太子妃時代から注目を集め、海外からもベストドレッサーとたたえられてきた。相手への気遣い、産地への心配り。自身の思いを伝えた装いを振り返る。

美智子さま、思いにじむ装い

集まった人たちに手を振る天皇、皇后両陛下=19日、三重県志摩市

相手気遣う、色・素材・かたち

お年寄りの施設を訪れる時には雰囲気が暗くならないように柔らかな色を、被災地訪問では動きやすい服を。寒い地方に行かれる時などは人と触れ合うことを考え、温かみのある布を――。

「皇后さまはお会いする人や訪れる場所への思いを服装を通じて表そうとされているのでは」。イッセイミヤケなどを経て、皇后さまの服のデザインを2009年末から手がける滝沢直己はそう話す。

17年のベトナム訪問時には同国ゆかりの竹から発想し、襟元に若竹色をあしらったスーツを、16年のフィリピン訪問時には白地に同国の国花サンパギータの黄色を取り入れたぼかし染めのイブニングドレスを着用した。

美智子さま、思いにじむ装い

フィリピンの大統領主催の晩餐(ばんさん)会=2016年1月、マニラ

海外で注目を集めるのが、日本の伝統技術を生かしたデザインだ。前任デザイナーの故植田いつ子はドレスに佐賀錦を配すなど、和の素材と技術を取り入れるよう配慮していたという。

その試みは引き継がれ、滝沢は箔(はく)職人が作り上げた布にビーズ刺繍(ししゅう)を施すなど、和と洋が融合した服作りを手がける。皇后さまには衰退する日本の伝統産業を励ましたい思いがあり、「日本の伝統技術と職人技は素晴らしいと思います」「遠く離れていても、職人さんたちと共に物づくりをしているような思いです」と話し、服が出来上がった時には必ず「職人さんたちによくお礼を申し上げて下さい」と口にされるという。

皇后さまはかつて、米国のファッション業界関係者の投票による「ベストドレッサー賞」に選ばれている。故ダイアナ妃も受賞した賞で、和服も洋服も上手に着こなすとして、「この上なく美しい感覚の持ち主」「服飾の世界における国際的宝」と絶賛された。滝沢は「人々に対する深い思いやりを込めて服を着られていることも評価されたのでは」と語る。

洋装文化の発展を後押し

美智子さま、思いにじむ装い

結婚の際、美智子さまは竜と鳳凰(ほうおう)の文様が織り出されたローブ・デコルテを身に着けた=1959年4月、皇居、宮内庁提供

1959年に民間出身で初めての皇太子妃となった美智子さま。日本が復興を遂げていく中で、気品あるスタイルは、洋装文化の発展を後押しした。

結婚の際に着たのは、白いローブ・デコルテ。パリのトップモードだったクリスチャン・ディオールのオートクチュールだった。創始者自らがデザインし、後継者のイヴ・サンローランが形にした。布は日本製だった。

婚約発表や結婚時に羽織ったショール、ヘアバンド、パールのネックレスが流行。テニスコートでの白い開襟シャツと紺のカーディガン、プリーツスカート、そしてブローチも「プリンセススタイル」として人気に。「ミッチーブーム」が巻き起こった。

美智子さま、思いにじむ装い

(左)テニスコートで談笑する結婚前の両陛下=1958年12月、東京都港区、(右)満7歳を迎えた紀宮さま(黒田清子さん)と美智子さま=1976年4月、東宮御所

服の仕立てにあたって皇后さまは妥協がなかった。皇太子妃だった66年から10年間、専任デザイナーだった故芦田淳は「しばしばミリ単位での調整を求められた」と振り返っていた。美しさよりも、訪れた先の人たちの気持ちを優先する姿勢に、「エレガンスとは自分を律することだと教わった」。端正だが若々しさも兼ね備えたスーツやドレスが多かった。

その後の36年間を担った植田は「何げないけれど、優雅で独特の雰囲気のある服」を心掛けたという。機能的でシンプルなデザインが増え、ジャケットの上に共布のマントやケープを重ねるスタイルは、公務で手を振るといった動作が容易で、コートより脱ぎ着がしやすいメリットがあった。

美智子さま、思いにじむ装い

昨春の園遊会=東京・元赤坂の赤坂御苑

66年から帽子のデザイナーだった故平田暁夫から引き継いだ娘の石田欧子は「色合いや布の切り替えの見え方まで、美への思いがとてもお深い」と話す。

平田の妻、市瀬恭子さんによると、若い頃はつば広や頭を覆う形が多かったが、80年代以降から現在の小さく平らな形に変わったという。「頭上だけの小さなサイズなら、ほおを寄せるあいさつでも邪魔にならず、脱いでも髪形が崩れない。移動の時もかさばらず、何よりつばが陛下のお顔を隠すことがないとのご意向です」

現在のデザイナーの滝沢は「美智子さまが服を作るのは、理由や特別な意味を感じられた時だけ。天皇陛下のお考えやお気持ちに沿ってご自身の在り方、装いを考えてこられたのでは」と話す。

(多田晃子、編集委員・高橋牧子)

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