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懐かしくて新鮮、向田邦子の食いしん坊エッセイ『海苔と卵と朝めし』

懐かしくて新鮮、向田邦子の食いしん坊エッセイ『海苔と卵と朝めし』

撮影/馬場磨貴

向田邦子は、ラジオやテレビで放送作家として活躍したのち、第83回直木賞を受賞し、作家生活に入りました。本書にも小説として収録されている『寺内貫太郎一家』はテレビドラマとして人気を博した作品。代表作である『父の詫び状』 『思い出トランプ』など数多くの作品を残しています。

邦子は、実妹の和子が主人となり赤坂に「ままや」という小料理屋を営んでいました。それほどに、食には執着やこだわりがあった方としても有名です。本書は、小説や「銀座百点」などの雑誌に寄稿した原稿の中から、思い出の食卓、ウチの手料理、お気に入り、性分、日々の味、旅の愉しみという六章にまとめられた「食いしん坊エッセイ」です。

戦前生まれの父と食の記憶

保険会社に勤める父と専業主婦の母。4人の兄弟の長女として育った邦子は、小さな頃から食べることに目がない女の子でした。薩摩(さつま)揚げのこと、お八つの時間、味醂(みりん)干し、お弁当のことを事細かにはっきりと記憶している様から、根っからの食いしん坊だったとわかります。

誰しもがそうだと思いますが、子どもの頃の食の体験は、一生、その人の味の礎になります。味はもちろん、家族と過ごした食事の時間は後々、とても大切なときであったと気づかされるのではないでしょうか。

本書を読んでいてもそのことを随所に感じます。特に、邦子の父親の話は数多く登場します。戦前生まれの父は、堅物で融通が利きません。愛想もないし、口数も少なく、ぶっきらぼうですが、出張に出かければ必ず家族のためにお土産を買って帰ったり、邦子の弟が朝食の際に口の中に海苔(のり)を貼り付けて騒動になったときは、翌日から、子どもたちに海苔禁止令が出たり。不器用ながらも子どもたちを愛していることを感じます。そして、そんな父を邦子も愛していたことが伝わってくるのです。

大人になり、外食や旅先では、数々の新しい味とたくさんの人々との出会いがあります。邦子は、料理のことはもちろん、その人々との関わりを大切にしていた人ではないかと思います。料理のことと同じかそれ以上に、人々との会話や人柄の描写が多く、その人間観察眼は、元々の邦子の性質と仕事柄ゆえの癖のようなものがあったのではないでしょうか。さっぱりとしていながらも、人に向ける温かな目線は、そのお人柄を想像させます。

今となっては、向田邦子は少し前の世代の人です。同時代を生きた方は懐かしく、また、若い方には、今とは違う食卓の風景を新鮮な気持ちで感じて頂けたらと思います。しみじみと感じ入るところが随所にあるのは、誰しもが食べるという行為を日々体験しているからかもしれません。

どんな人もおなかは減ります、おいしいご飯を食べたいという欲もあります。それゆえ、食の話は尽きる事がありません。

(文・大川愛)


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    二子玉川蔦屋家電、食コンシェルジュ。
    書店・出版社で、主に実用書や絵本の担当を経験。
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