このパンがすごい!

本格ハード系と焼きそばパンが同居!パンマニアにもおばあちゃんにもやさしいパン屋/市東製作所

本格ハード系と焼きそばパンが同居!パンマニアにもおばあちゃんにもやさしいパン屋/市東製作所

ハード系と純日本パンがありえない同居。(左上から時計回りに)レーズンくるみ、焼きそばパン、あとひくカレーパン、ほうれん草とベーコン 自家製トマトソースのフォカッチャ

焦げ寸前の黒々とした焼き色。硬くて厚い皮。本格ブーランジュリーか? そんな予想をした途端、あっさり手のひらを返すように、すぐ横には焼きそばパン。町の庶民派パン屋か、本格派か、どっちやねん? 誰もが突っ込むこの光景こそ、「市東製作所」の真骨頂だ。

「世田谷でバゲット買って足立区に帰ってきたら、野良犬に追いかけられて、手首から食いちぎられた」

足立区出身ビートたけしの痛烈な自虐ネタである。食べ歩いた者の肌感覚でしかないが、ハード系遭遇率は23区でも指折りの少なさか。そんなアウェー感漂う場所で、今日も黒々としたハードパンを市東さんは製作する。

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レーズンくるみ

レーズンくるみ。ここには、硬さと潤いというギャップが存在している。皮とクルミががりがりと弾け、合従連衡する。しっかり焼き込んだ皮が作りだす香ばしさが浸透、中身も充実した味わいに変えている。パンより多いんじゃないかと、どかっと入れられたレーズン。どこを噛(か)んでもぴゅぴゅっと果汁がほとばしる反則。レーズンを赤ワインに漬けたことが、超ジューシー、超フルーティーの秘密である。

「レーズンが少ないと物足りないし、多すぎてもレーズン臭い。どんどん増やしていって、『ここだ!』っていうベストの量で止めました」。

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レーズン食パン

それにしても、なぜこんなに焼き込むのか。市東さんは、黒いハードパンといえば、この2店という、「パーラー江古田」「サワムラ」に勤務。特に、いちばんはじめに勤めたパーラー江古田の洗礼は強烈だった。

「パーラーでは、窯を担当していました。『ぎりぎりまで焼いて』『色がまだ白い』ってしょっちゅう言われてました。ピンポイントの狭いストライクゾーンを狙う。あと30秒窯に入っていたら焦げてしまうでしょう」

問題の「焼きそばパン」。コッペパンのかつてないもっちり感とぷにぷに麺が演じる二人羽織。小麦の味わいも濃い。それが、さっぱりしたソースの塩気、フルーティー感を吸い込んで、生き生きとする。ソースにバルサミコ酢を入れる一工夫のたまもの。

庶民派パンばかりでなく、本格ハードパンも食べてほしいと願う市東さんは、物量作戦に出た。サラダと盛り盛りのパンがお値打ち価格で楽しめる「パン盛り」。

「やっているうちにだんだん量が多くなってしまって。せっかくここまで来てもらったという思いがあるんで。パンの種類はそのときの気分次第」

ハード系のショーケースだ。一口にハード・セミハードといっても、麦の濃度や食感は千差万別。それらを比較テイスティングできて、手に取るようにちがいを感じられる。

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セレアル

コンプレ生地に穀物を入れた「セレアル」は、咀嚼(そしゃく)力がまったくいらないほど勝手にほどけ、やわやわと消えていく。北海道産の小麦粉・全粒粉のブレンドは、コーヒー牛乳を思わせるフレーバー。

「バゲット」は、焼き色に似合わず意外に軽やか。気泡膜が薄くて、ぷるんとして、ちゅちゅちゅーと溶け、リュスティック的に旨味(うまみ)がほとばしる快楽。加水を多くし、ミネラル分の高い粉を使い、複数の種を合わせ、高めの温度(18℃)で発酵し、風味成分を豊富に分泌させるのだ。

「食パン」は、海藻みたいなぷるぷる感。甘さと旨味にバランスがあり、バックグラウンドで静かに騒ぐ種の酸味が、唾液(だえき)の分泌をうながし、心地よく溶けてくれる。ことに、赤ワイン漬けのレーズン入りの「レーズン食パン」は、生地とレーズンのちゅるちゅる二重奏により、途方もない官能の大波が押し寄せる。

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市東シェフと真由美さん

腰の曲がったおばあちゃんが「雨だけど暇だから来ちゃった」。イートインスペースでゆっくりと長居、サービスの真由美さんと会話を楽しむ。「ここのパンは本当においしくてね。棚の端から1個1個ぜんぶ食べていきたい気持ちだよ」。決してせかされない。さすが足立区、新宿区よりも、中央区よりも、きっとゆっくりと時が流れている。おばあちゃんの好きなやわらかいパンがあって、本当によかった。庶民派であり、本格派である。これが足立区スタイル。

■市東製作所
東京都足立区伊興本町1-3-22
03-6315-6286
8:00~19:00(日曜~14:00まで)
月曜休
https://www.instagram.com/410_seisakujo/

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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