パリの外国ごはん

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

イラスト・室田万央里

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

前回ご紹介したレバノン料理の食堂に行った日は、もともと、ポルトガルのパティスリーと総菜の店、Don Antoniaに行くつもりだった。閉まっていたことで、あの日はあえなく諦めたが、心の中では“次はポルトガル!”と思っていた。

いつからかほとんどニンニクを食べることがなくなったのが、レバノン食堂で大いに魅了されたニンニククリームにより、にわかにニンニクモードがオンになったことも、ポルトガル総菜店への思いをより募らせたのだろう。私の中で、ポルトガル料理はニンニクが強い印象だ。可愛らしい外観に惹(ひ)かれて、お菓子は買ったことがあっても、総菜を食べたことはなかったから、とても楽しみだった。

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

バカリャウ(タラ)のフリット(写真/川村明子=以下同)

店内に入り、これまでサンドイッチやパティスリーにばかり目を奪われ、まともに見たことのなかったショーケースの中を、のぞきこんだ。料理はいくつかあったが、ひとつ、鶏のフライが入った器以外は、どれもバカリャウ(塩漬け干し鱈〈だら〉)が使われているようだった。その証拠に、値段の書かれた札には「バカリャウの料理はどれも44ユーロ/kg」とひとくくりで書かれている。

パッと見ただけだとグラタン・ドフィノワ(ジャガイモのグラタン)かと思った料理には、よく見ると魚の姿があり、聞くとブランダード(干し鱈とジャガイモのグラタン)だった。ランチメニューは、1人250gで、ケースに並んだ料理の中から好きなように組み合わせられるらしい。何種類でも良い、なんて聞いたものだから、途端に食いしん坊根性が顔を出した。

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

こちらがモリュ(タラ)をベースにしたブランダードのコロッケ

まずはジャガイモを少し大きめの長粒米くらいのサイズに切ったものと干し鱈を合わせたピラフのように見える黄色い料理をチョイス。そして、やはり定番をひとつは試したくてブランダード、それに野菜のローストと見たらいつだってどうしても食べたくなる、フライドチキンも頼んだ。ショーケースの上に置かれたブランダードのコロッケ(beignet de morue)は、セットメニューには入れられないと言われたので、追加でお願いした。ちなみに、バカリャウはポルトガル語で「塩漬け干し鱈」を指し、フランス語だとモリュになる。

ガス入りの水を注文したら、ポルトガルの水が出てきた。見覚えのある緑のボトル。そんな些細(ささい)な懐かしさだけで、もうポルトガルに行きたくなった。続いて、レースを模したプラスチック製のランチョンマット(ビニールのシートではない)がカウンターテーブルに敷かれ、塩コショウの瓶が並んだ、薄いピンクの小皿も登場した。

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

私の注文した4種盛り。手前左がブランダード、奥右がチキン

ほどなくして運ばれてきた料理は、ちょっとレトロな花模様の描かれた磁器に盛られていた。黄色の一品の主材料はジャガイモながら、見た目に違わず、米で作ったピラフのようだった。玉ねぎも入っていて、少し歯ごたえのある火の通り加減。全然しょっぱくなくて、タラの身は柔らかく、南欧の料理特有のおおざっぱさがない。

ブランダードも、干し鱈が入っているのに全くしょっぱさがなく、家で食べるグラタンのような味。ただ、とろーっとしたソースは、生クリームにジャガイモが溶けてそうなったのか、ホワイトソースをうすーく伸ばしたものなのかは、食べながら考えたけれど、わからなかった。

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

手前がコロッケ。奥は万央里ちゃんが注文したフリット

続けてコロッケを食べてみる。やはり同じ印象だ。おおざっぱと言うよりは、粗さがない、というのだろうか。周りの衣がとても香ばしく、かりかりっと軽快な歯ごたえがタロイモのコロッケのようだ。小麦粉じゃなくて、片栗粉をまぶして揚げているのかな? と、万央里ちゃんと話した。揚げ衣がところどころほそーい糸を引いている感じ。いずれにしろ、とてもおいしい。

野菜のローストも、これらタラ料理の延長線上にある味だった。塩コショウと、おそらくニンニクも一緒に焼いていて、オリーブオイルがたっぷりなだけなのだろうけど、下味が優しく染み込んだ野菜に、家庭的な味を感じた。

そして、最後に取っておいたフライドチキン。やっぱりおうちの味。お弁当に入っていそうだ。万央里ちゃんが「おしょうゆ使ってますか?って聞きたいよね」と言った。フライにしているのは胸肉で、だからさっぱりだけれどしっとりしていた。とてもおいしい。チキンナゲットの原型ってきっとこれだ。アレは、胸肉の食べやすさを再現しようとしたものなんだ、なんて思った。本当に優しく、おいしかった。

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

ここで食べた上にお持ち帰りもしたパステル・デ・ナタ(エッグタルト)

食べると少し罪悪感を覚える、でも食べてしまうデザート、パステル・デ・ナタ(エッグタルト)までしっかり味わうことにした。薄いのにしっかりと硬さのある、パート・フィロ(イーストを含まない非常に薄い、中東のお菓子に使われる生地)を重ねて厚みを出したような生地と、甘さと優しさのある卵液。卵がたっぷりのこの甘さには、紅茶ではなく、断然コーヒーだ。
どれもこれも、こころがほぐれていくおいしさだった。なんでポルトガル料理って、懐かしい気持ちになるのだろうなぁ。

会計をしてくれたのはオーナーの奥様で、少し話した。彼女はフランス人で、すでにこの店のあるカルティエに30年暮らしているという。ご主人がポルトガル人で、この店はその昔、ポルトガルの総菜店がなかった頃、彼のお父さんがケータリングを始めたことに発する。今では50人も従業員がいて、パティスリーも料理も郊外にあるアトリエで作っており、息子の代になって初めて店を構えたのだそう。

完全なる家族経営。だから、家のような、お弁当のような味がしたのかもしれない。

心ほぐれるブランダード。ポルトガル料理「Don Antonia」

店の前にはベンチが出ていて、外で食べるのも気持ちがいい

Don Antonia ドン・アントニア
8, rue de la Grange aux Belles 75010
01 42 45 72 06
9時30分~19時30分(日~18時)
月休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

《パリの外国ごはん そのあとで。》衝撃の白いソースで卵&サバサンド「Le Coeur du Liban」

トップへ戻る

《パリの外国ごはん そのあとで。》ポルトガルのバカリャウでライスグラタンとジャガイモ卵炒め「Don Antonia」

RECOMMENDおすすめの記事