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体温を通して“生き物観”が変わる『進化の法則は北極のサメが知っていた』

体温を通して“生き物観”が変わる『進化の法則は北極のサメが知っていた』

写真/猪俣博史

みなさんは普段の生活でご自分の体温をどれぐらい意識していますか。風邪を引いたりインフルエンザにかかったりすると38度、時には39度台になることもありますし、平熱が35度台というやや低体温の方々もいるようですが、通常、人の体温は大体36~37度台で過ごされているかと思います。

この本では「冷たい」「熱い」「ぬるい」「激しい」「儚(はかな)い」という5章で、様々な生き物の体温を通してそれぞれの生態を教えてくれます。「冷たい」の章では、極寒の海で巨大な体と低体温で悠々と生きるニシオンデンザメ。鈍い動きとわずかな食べ物で超省エネの生き方をしているご長寿です。生半可な長寿ではありません。御年なんと400歳! 72ページに書かれている「徳川家康と同級生」というあたりの表現は必読です。

地球上に勝者はいない。だからこそ、共存できる

400年間、日本にはいろいろなことがあり、そして今新たに令和時代を迎えたことなんて全く関係なく、想像をはるかに超えた生き方をしています。対極の生き方をしているのが「熱い」の章の、南極で暮らしているアデリーペンギン。小さい体と高い体温ゆえ、ちょこまかと動き回り食べ物を探し続け、早い速度で成長し子孫を残しています。また「ぬるい」の章のホホジロザメはこれらの中間的な生き方として紹介されています。

生き物の体温と体の大きさでエネルギー消費量(代謝量)が決まり、そして代謝量が決まれば生活スタイル、成長速度、寿命、進化のスピードまで決まるけれど、様々な検証の結果、「薄く長く生きるか」「濃く短く生きるか」、それともその中間なのか、いずれにせよ生き物としての最終的な成果には大差はないという結論が次のような文章で表されています。

「地球上に勝者はいない。どの生物も同じように同じ程度のはたらきをし、同じ程度の子孫を残して死んでいく。(中略)だからこそ、これほどまでに生存戦略の違う多種多様な生物が激しく競い合いながら、しかし天下統一されることはなく、この地球上に共存できている。」

体温を通して“生き物観”が変わる『進化の法則は北極のサメが知っていた』

『進化の法則は北極のサメが知っていた』渡辺佑基 著 河出新書 994円(税込み)

体温を通して生き物への見方が変わり、そして人間の体温には大きな差はないけれど、それでもほんのわずかの差が生き方を分けているかも?と想像すると今後他人を見る目も変わりそうです。

そしてこの本の面白さはこのような生態学だけにとどまりません。渡辺さんが研究のために使っている「バイオロギング」という小型測定器を生き物に装着する時の臨場感あふれる描写、フィールドワークにおける様々なエピソードは、読者を大きく広い世界に連れて行ってくれます。この10連休にどこにも行かなかった方はもちろん、連休の旅から帰ってやや喪失感のある方にもおすすめです。科学の面白さと科学者の冒険談を楽しめる、極上の読書体験をお約束します。

(文・川村啓子)

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12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき、一番おすすめの本を週替わりで熱くご紹介いただいています。
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川村啓子(かわむら・けいこ)

湘南 蔦屋書店 児童書・自然科学コンシェルジュ。
読書といえば小説が主で大学も文学部、ずっと「人間のこと」ばかり考えてきましたが、このお仕事に出会ってからは「人間以外のこと」を思う時間が増えました。
今気になっているのは放散虫。「自然界は美しいものだらけです」。

懐かしくて新鮮、向田邦子の食いしん坊エッセイ『海苔と卵と朝めし』

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