野村友里×UA 暮らしの音

野村友里×UA 「本質」とは何か? 深く共鳴し合う2人の対話(前編)

野村友里×UA 「本質」とは何か? 深く共鳴し合う2人の対話(前編)

野村友里さん(左)とUAさん(撮影・山田秀隆)

2017年にはじまった、料理人・野村友里さんと歌手のUAさんの往復書簡『暮らしの音〜海の向こう側とこちら側〜』。野村さんは自身が生まれた場所・東京で、「食」を通し、また、UAさんはカナダの森の中で、家族と向き合い、「暮らし」を実践しながら、それぞれ「生きる本質」を探求しています。だからこそ、2人の手紙のやりとりは、3年目にして、さらに深いところで共鳴し合っている印象です。
前回の対談は、2017年末に行われた野村さんによる企画イベント「食の鼓動-inner eatrip-」にUAさんが出演した時でした。それから1年半、今度は、銀座「Ginza Sony Park」で開催中の「eatrip city creatures」の会場で、再び、野村さんとUAさんに語り合っていただきました。(文・ 川口美保)

互いの暮らしから綴られる言葉

――往復書簡をはじめて約2年が経ちますが、どんどん2人のやりとりの中にグルーヴが生まれているという印象です。

UA 確かにグルーヴィーになってきたと思う。続けるって面白いことだよね。どう成長していくかは、続けていかないとわからないから。

――毎回、手紙では、「時間」「島」「職業」「宇宙」「叱る、褒める」など、興味深いテーマが続いていますが、テーマにゆるやかに沿いながら、2人の言葉が呼応していくのが、読んでいてもワクワクするんです。

UA いただいたら返す、ということを続けてきて、ぽーんと瞬発力で返すことができている。だんだんそうなってきたという感じだね。

野村 でも、すぐに脱線してしまうんだけどね(笑)。そのテーマに持っていこうとして書いているんだけど、脱線のまま終わる時があったり。「で、なんだっけ?」と逆聞きしてしまう時もあって。

UA それでいいと思うの。手紙って別にアンサーを書くべきものじゃないし、何かオチをつけなくては、というものではないから。テーマに触れながら、たゆたうように、言葉を書いている感じでいいんだよね。

――そもそも野村さんは、「今、UAの言葉を伝えたい」と思って、この連載を始められたんでしたよね。

野村 そうなの。それがきっかけだった。うーこがカナダに移住し、往復書簡をやるには距離感がちょうどいいなと思ったのはもちろんなんだけど、今なら、歌手として音楽を通して伝えるだけではなくて、どんな形であっても表現としてブレないだろうと思ったの。

だけど、自分のウェブサイトなどで発信するのは違うんじゃないか、「手紙」という形を通してうーこの言葉を伝えられたらいいのではないかと思った。これを読んでもらうことで、「こういう人だから、ああいう表現をしているんだ」と知ってもらうきっかけにもなるかな、と。

UA 嬉しいね。そのタイミングを友里がキャッチしてくれたんだよね。

野村 私はただただ、うーこの話を聞いてみたいから書いているところが大きいんだけど。でも、うーこからの手紙で自分のことも内観するから、すごく考えて書くし、何度も書き直しているし、何度も挫折したりしながら書いてるのよ。

UA 友里からの手紙は、本当に言葉が素直で、私は毎回感動してるよ。でも、自分でも、今こうして書いていることは、後で読んだらきっといいものなのだろうと思っている。

野村 こういう機会でもないと、日々書き留めていくことはなかなか難しい。書くのはラクではないけれど、後から見ると自分のためにも面白いなと思う。

野村友里×UA 「本質」とは何か? 深く共鳴し合う2人の対話(前編)

本当のコミュニケーションとは何か

UA この連載を通じて、実際、友里のこともっと好きになっている感じがある。もともと好きだったけれど、もっと。なんで仲良くなったんだっけ?というのがわかってきたよね。

野村 私たちは、今、環境も言語も違うところに暮らしているけれど、こうやってそれぞれの場所で考え続けているからこそ、お互い触発されることがあると思うのよね。そういう意味で、本当のコミュニケーションがとれている感じがしている。同じ単語を使っているから噛み合っているというわけではないじゃない?

UA なんか認め合えている気がするね。友里がさ、手紙の中で、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『孤独の愉しみ方 森の生活者ソローの叡智』を引用して、「親密な交友を楽しもうとするなら、二人の距離は遠く離れていなければならない」と書いていたよね。その言葉、すごくよくわかるの。その通りだよね。全部知りたいとか、いつも一緒にいたいとか、一緒に食べたいとか、そういうことではないのよ。

野村 自分の内側を見つめていくと、そこの中で共鳴していくことが多いのかもね。実際に会うともっとくだらない話もするんだけど、いざ書きはじめると、そんなことどうだっていいじゃん、どうだっていいじゃんってなっていくのよね。

UA 私はこの往復書簡を書くにあたっては、希望や祈りという、隠れテーマがあるのよ。でもそういうふうにテーマが置けるのは、友里との往復書簡だからだと思う。

野村 でも、うーこはずっとそういうテーマを持っているよね。時として、社会にはいろいろな問題があるけれど、最終的には、性善説っていう夢だとか希望だとかを素直に言える人なのかもしれない。物事には全部陰と陽があって、希望だけでは生きていけないのはもちろんだけど、それもひっくるめて、光の部分で話せる人だと思う。そういう存在であり続けているし、ずっと表現している気がするの。それがより強くなってきている気がする。

UA でも、裏を返すと、希望、祈り、というところの原動力になっているのは、決定的な孤独なんだよね。自分の歌もそこが根源的なテーマになっている。人って「私」という自我を感じる時に、孤独を感じてしまい、そこから何がなんでも越えられないものがあるじゃない? 死ぬ時は独りだし、生まれてきた時も独りだったのに。
東京にくると息子のマンションにいるんだけど、そこに息子がいるととっても嬉しいの、安心するし。でもいないと、都会のマンションに一人きりで、落ち着かない。息子も、SNSを見ながらいつも誰かと繋がっていると思うことで寂しさを紛らわせているようにも見えるのだけれど、やっぱり今の若者にとって、孤独に向き合うというのは難題なんだよ。いまのSNSのシステムは見事だけどね、そういうことをちゃんと自覚していたいと思う。

孤独と死

UA だから、ソローが言う『孤独の愉しみ方』というのは、本当にそうなんだよね。「孤独」という事柄、それは、「死」と似ていると思うんだけど、死を感じながら生きることは、孤独を乗り越えるための強みになるよね。「今、ある」ということを知ることができるから。「今、ビールを飲んでいる」とか、「今、友里と手紙を交換している」とかが、奇跡的に感じてくるわけじゃない?

――だけど、現代は、死も隠されてわからなくなっているから、私たちは孤独をどう捉えていいのかわからない。

UA 孤独の扱い方がわからなくなっちゃっているよね。だから物質で埋めようとしてる。

野村 森の中では、死は感じられる?

UA 壮絶だよね、森は。特にこの冬は記録的なストームがやってきて、風景が一変しちゃったのね。私がとても気に入っていた小径も、巨木が倒れちゃって、アスレチックをしないと進めなくなってる。

野村友里×UA 「本質」とは何か? 深く共鳴し合う2人の対話(前編)

倒れた巨木(UAさん撮影)

野村 ソローのように、圧倒的な自然の中にいると、本当の孤独の意味を知れるし、怖さみたいなものがなくなるような気がするんだけど。

UA 今でもうちはお手洗いが外にあるものだから、夜中でもトレーラーハウスから出ていくんだけど、コンピューターのせいなのか、私、鳥目になっちゃって、明るいところから急に暗いところに行くと周りが見えないから、あえて電気をつけないまま外に行くの。

そしたら、やっぱり怖いのよ、ものすごく。毎晩行っても、夜中の森は全然慣れない。昼間の森はあんなにフレンドリーで、お弁当食べたりとかして、愉快にキノコとったりしてるのに、夜の森は何なんだろうね。

――それは「自然への畏怖」のようなものですか?

UA まさに。言葉に表すのは簡単だけど、でもそれを実感するわけよ。「怖っ!」っていう。背中とか向けられない。数は少ないけれどクーガーとかもいるから、獣の気配なのかもわからないけれど。ものすごい無力さを感じるよね。

だからよくあるじゃない? ファースト・ネーション(カナダの先住民)やネイティブ・アメリカンは、大人になる時、夜、ずっと森の中でイニシエーションするって。本当に怖いだろうなと思う。

――それを体験することによって、何か変わりましたか?

UA 私には、小さいながらもこのトレーラーハウスがあるから、スッとそこに入っていくんだけど、あ、人間だなって思う瞬間がある。

――森の中にいることで、より人間であることを知るということですか?

UA 歳もとっているし、ネガティブな意味ではなくてね。だから、もうそこに挑んでいこうとは思わないけれど。「ああ、怖っ!」って思った、それを実感するだけで充分だと思ってる。

イベントをひとつの大きな食卓として捉えると

――「体験」ということで言えば、前回、野村さんがプロデュースした「食の鼓動 -inner eatrip-」は、ひとつの体験だったと鮮明に記憶しています。根室の大自然の中の動物の音、光、匂い、気配からはじまるステージは、「食べる」ということが何かを体験をしたような時間でした。

野村友里×UA 「本質」とは何か? 深く共鳴し合う2人の対話(前編)

野村友里さんが企画・演出した3夜連続のライブパフォーマンス「食の鼓動-inner eatrip」 (2017年12月 東京・南青山 スパイラル)

野村 原点よね。命をいただいて生きているということや、自分も食べられちゃうかもしれない、という原点というか。当然、「死」のことも。疑似体験かもしれないけれど、あの場所で体験を共有できたらいいなと思った。

――あれから1年半経ちましたが、イベントが実感としてどう残っていますか?

野村 まず、あのイベントをつくる時に思っていたのは、「みんなで考える」ことがしたい、ということだった。このあいだ稲葉俊郎先生(医学博士)と話した時、「今の世の中に一番足りないのは対話じゃないか。食卓が本来そういう場所であるならば、ちゃんとした食卓の場がいま設けられていないんじゃないか」とおっしゃっていて、その言葉を聞いて、「食の鼓動」も、そして今回の「eatrip city creatures」も、食卓と一緒だと思ったの。イベントをひとつの大きな食卓だと捉えれば、今の世の中に対して、食が働きかけるいい活動になるんじゃないかと思う。そういう意味では、今思い出しても、「食の鼓動」は、演者と観客とがみんな一緒になって新しい何かを体験し、それぞれが自分ごととして持ち帰ることができたから、面白かったんじゃないかと思ってるんだけどね。

野村 出演者や参加してくれた人たちがよかったの。

UA でもそれを選んだのは友里だもんね。

野村 私は「場づくり」をする人だから、場をつくれば、そこにおのずと集まったみんなが共鳴できると思った。

UA 今、友里の話を聞いてて思ったんだけど、私と友里の相似する点って、仏教的に言う「空(くう)」の意味なんだろうなと思った。友里はそんなこと意識してやってはないと思うけど、「場をつくる」という時、そこにパンパンに詰まった場を出されても、何もできないんだよね。だから「空」を与える人なんだよね。私は歌う人間なんだけど、空っぽでないと、歌が出せないというか。

野村 それ、ずっと言ってるわよね。

UA 私とは表現の仕方が違うし、私はすごく詰め込んで発表しているんだけれども、でも友里も「空」をつくって、そこにいろんなものを呼び込んで、気持ちのいいものを選べる人じゃない? そして有機的に融合して、何かが「生まれる」でしょ。そういう意味では似ているのかもしれないね、私たちのポジションは。

後編へつづく)

eatrip city creaturesは5月24日まで。詳細はこちら

川口美保(かわぐち・みほ)編集者/ライター。1995年より雑誌「SWITCH」の編集者として、数多くの特集を手がける。2014年3月沖縄へ移住。現在は、沖縄を拠点としながら、企画、編集、インタビュー、執筆を続ける。また、2015年には飲食店「CONTE(コント)」をオープン。現在、新雑誌創刊に向けて準備中。
http://contemagazine.com

PROFILE

  • UA

    1972年大阪生まれ。母方の故郷は奄美大島。1995年デビュー。1996年発表のシングル「情熱」が大ヒット。2000年、ブランキー・ジェット・シティを解散した浅井健一とAJICOを結成。同年、初主演映画「水の女」(テサロニキ国際映画祭グランプリ受賞作品)公開。2003年から放送されたNHK教育テレビ番組「ドレミノテレビ」に、歌のおねえさん「ううあ」としてレギュラー出演。2004年、数々の童謡・愛唱歌を集めた、ううあ名義アルバム「うたううあ」をリリース。2006年、菊地成孔とスタンダードジャズアルバム「cure jazz」をリリース。2010年、デビュー15周年企画カバーアルバム「KABA」をリリース。2016年、7年ぶりとなるオリジナルアルバム「JaPo(ヤポ)」をリリースした。また、2005年より都会を離れ、田舎で農的暮らしを実践中。現在はカナダに居住。4人の母でもある。α-STATION(FM京都)の番組「FLAG RADIO」にレギュラー出演中。

  • 野村友里

    料理人(りょうりびと)、「eatrip」を主宰。おもてなし教室を開く、母・野村紘子さんの影響を受けて料理の道に。主な活動に、レセプションパーティーなどのケータリングフードの演出、料理教室、雑誌の連載、ラジオ番組など。2009年、初の監督作品『eatrip』を公開。11年、「シェ・パニース」のシェフたちとともに、参加型の食とアートのイベント「OPEN harvest」を開催。その経験を経て日本のシェフたちとともに「nomadic kitchen」プロジェクトをスタート。12年、東京・原宿に「restaurant eatrip」をオープン。著書に『eatlip gift』『春夏秋冬 おいしい手帖』(マガジンハウス)、『Tokyo Eatrip』(講談社)、共著に『TASTY OF LIFE』(青幻舎)がある。
    http://www.babajiji.com/

UAさん「大事なのは、足るを知ること」

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