花のない花屋

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

〈依頼人プロフィール〉
蓮田まみこさん 54歳 女性
大阪府在住
会社員

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7年越しの受験勉強を経て、今年、53歳にして中国語通訳の国家試験に合格しました。思えば、大学で中国語を専攻した18歳のときから憧れつつも、「私には無理だろう」とあきらめていた夢でした。

一念発起したのは7年前。商社で働いていた夫がその数年前にリストラにあい、起業したものの鳴かず飛ばず。そんな中、それまで専業主婦をしながらときどき中国語や中国文化を教えていた私が、語学力を生かして貿易関係の会社に入社し、働き始めた頃でした。

ふと「18歳の頃の夢を実現したら、自分に自信がつくのではないか」と思い、通訳ガイドの国家試験に挑戦してみようと思い立ったのです。当初は軽く考えていたものの、実際に勉強を始めてみると思いのほか大変なこと……。受験科目は外国語のほか、日本の歴史、地理、文化(政治経済)、通訳実務など多くの科目があります。中国語はずっとやっていたのでなんとかクリアできても、日本の歴史や文化については、すべて中学校の教科書からやり直しでした。

当時は中学生と高校生だった2人の子どもも抱えていたので、仕事と家事で生活は手いっぱいです。夜9時すぎに家事を終わらせ、ようやく子どもから借りた教科書を開き始めても、数行読んではウトウト……。

毎年試験には挑戦していたものの、中国語以外はなかなかパスできず、さらに数年前からは母の難病の介護と、私の更年期による体調不良も重なり、勉強どころではなくなってしまいました。

それでも、仕事と家事の間に細々と勉強を重ねていくと、あれほど苦痛だった暗記科目が少しずつ頭に入るようになってきました。勉強を始めた頃には裸眼で見えていた試験問題も、いつの間にか老眼鏡がないと読めなくなってしまいましたが、脳みそに少しずつ日本の知識が蓄積されていくのは、大きなよろこびでもありました。

そうして細切れの勉強を続けて7年目。ようやく合格証書を手にすることができました。合格の知らせを受けたときは、きょとんとしてしまいましたが、社会人になった子どもたちが「お母さんもやればできるんだね!」とよろこんでくれたのがうれしかったです。まさに「継続は力なり」を初めて実感しました。

今はまだ会社員として働いているので、通訳ガイドとして働く時間はありませんが、6年後に定年退職したら、そこからもう一花咲かせられたら……と思っています。

そこで、勉強嫌いを克服し、長年の夢を実現できた私にご褒美をいただきたく、東さんに花束をつくっていただけないでしょうか。花は何でも好きですが、特にミモザやジャスミンのような、木に咲くお花やいい香りのするものが大好きです。どうぞよろしくお願いいたします。

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

花束を作った東さんのコメント

長年の夢をかなえたことは素晴らしいです。ものすごい根気をもった方だと思いました。「継続は力なり」、この言葉は私たちが子供のころによく聞きましたが、やはりその通りですよね。なんでもかんでも新しいことを良しとする風潮には、少し疑問を抱いてしまいます。

「ミモザやジャスミンのような、木に咲くお花やいい香りのするもの」とのことでしたので、枝ものを中心とした花束に仕上げました。花材はライラック、マンサク、スノーボール、山吹、ヒペリカム、ツツジ、ジャスミン、アセボ。スノーボールはアジサイの一種です。

旦那様やご自身が大変な時に起こしたアクション。そういう時こそ、うまくいくことってありますよね。人生のヒントを教えてもらった気分です。ありがとうございました。

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

53歳で通訳試験に合格。18歳の頃の夢をかなえた自分に花束を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

束縛から逃げるために実家を飛び出したことも……。「母の日」に感謝の花束を

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