東京の外国ごはん

みんな食わず嫌い? 初めてだけど懐かしい味~シルクロード・タリム ウイグルレストラン(ウイグル料理)

みんな食わず嫌い? 初めてだけど懐かしい味~シルクロード・タリム ウイグルレストラン(ウイグル料理)

「ズク カワプ」(1本280円!)はラムの串焼き。ぷうんとクミンの香りがただよってくる

 最近「ラムが好き!」と公言する人が増えていないだろうか。私の周りだけかな? と思っていたら、実際、この数年でラムの人気が急上昇しているようで、雑誌で特集を組まれることも増えている。 そんな折、新宿・初台に羊肉料理で有名なおいしいウイグル料理屋があると聞き、さっそく行ってみた。その名も「シルクロード・タリム ウイグルレストラン」。

 そう、ウイグルといえば、シルクロードを思い浮かべる人が多いだろう。中国の西の端、新疆(しんきょう)ウイグル自治区を中心にウイグル族が暮らしている地域で、昔から西と東を結ぶ文化の要を担ってきた。中国とはいえ、イスラム教圏であり、ウイグル語や独自の文化がある。一説によれば、ラーメンやピザの発祥の地でもあるという。

 店主のスラジディン・ケリムさん(40)にウイグル料理の特徴を聞いてみると、開口一番「ラム肉と麺を食べること!」とのお返事。味付けにはクミンなどのスパイスをよく使うという。

 まずは、スラジディンさんおすすめのラムの串焼き、「ズク カワプ」(1本280円)を注文した。ぷうんとクミンの香りがする肉を一口食べてみると、なんとまあ、やわらかくておいしいこと! もともとラムは大好物だが、このお店のラムは特においしい気がする。隣からは「こんなおいしいラム初めて食べた!」という女性の声も聞こえてきた。

「日本人の友人からは、『日本人は羊の肉を食べないから店をやるのは難しいよ』と言われたんです。でもそんなことはないだろうと思い、大学時代はジンギスカンのお店でアルバイトをして経験をつみました。そのときわかったのは、みんな食わず嫌いだということ。実際にラムを食べた日本人はみんな大好きになります。要は“固定観念”の問題ですね」

 ウイグル人も生魚は苦手。スラジディンさんも初めておすし屋さんに行ったときは「こんな臭いの食べられない」と思ったが、慣れた今はおすしが大好きになったそう。何でも“慣れ”である。
 
 そんなことを考えながらラムを食べていると、おまちかね、ラーメンの祖先といわれるラグメンが出てきた。「タリム ラグメン」(980円)という、野菜とラムの入ったあんかけを麺にのせて食べる料理だ。

みんな食わず嫌い? 初めてだけど懐かしい味~シルクロード・タリム ウイグルレストラン(ウイグル料理)

「タリム ラグメン」。お店で打ったばかりの麺はコシがあって絶品!

 お店の自慢はオーダーを受けてから手打ちする麺。稲庭うどんのような細い麺にはコシがあり、ツルツルッとのどごしがいい。あんは赤ピーマンと緑ピーマン、タマネギ、キクラゲ、ラムをトマトで煮たもの。こちらも香辛料が効いていて、味にパンチがあっておいしい。パンチがあるとはいえ、たいていの日本人が好きそうな味だ。日本人向けにアレンジしているのかなとふと思ったが、聞けば、アレンジはほとんどしておらず、塩分をちょっと控えめにしている程度だとか。

 そして最後は“ピザの原型”と言われる、ウイグルのパイ、「タリム カワ ナン(ウイグル風カボチャパイ)」(980円)。焼きたての、手のひらほどの大きさの丸いパイが出てきた。

みんな食わず嫌い? 初めてだけど懐かしい味~シルクロード・タリム ウイグルレストラン(ウイグル料理)

「タリム カワ ナン(ウイグル風カボチャパイ)」。もちもちした皮がおいしい

「マルコ・ポーロの東方見聞録にも出てくるんですが、彼がシルクロードで初めてこのパイを食べ、イタリアに持ち帰ってピザになったと言われているんです。イタリアでは中身がわかるよう、上に具を載せるようになったそうですよ」

 なるほど……さすがシルクロード。ウイグルの料理は歴史的にも地理的にもスケールが大きい。いにしえの歴史に思いをはせながらパイを食べてみると……モチモチの皮と、カボチャのあまじょっぱいような味のハーモニーが口の中でとろけた。ピザとはまったく違うが、お菓子のような感覚でぱくぱくと食べてしまった。

 店主のスラジディンさんは、新疆ウイグル自治区の首府、ウルムチから140kmほど東にあるジムサル県出身。ウルムチで電気関係の専門学校を卒業した後、2001年に初来日した。

みんな食わず嫌い? 初めてだけど懐かしい味~シルクロード・タリム ウイグルレストラン(ウイグル料理)

ホテルなどで腕を振るってきたというウイグル人シェフ。フロアから麺を打っている姿が見える

「実は発電局に就職が決まっていて、そこで働く予定だったんです。でも、ある日突然『ウイグル人枠がいっぱいになったので、来ないでくれ』と内定が取り消しになって……。それで、こんなところにいてもダメだ、ウイグル以外の世界を見てみようと思い、外に出ることにしました」

 ウイグル自治区は、以前から中国当局によるウイグル族の抑圧が続いており、漢民族とウイグル民族の経済格差も大きい。就職に関しても不利益を被ることがあるという。

 そこで、スラジディンさんはウイグルの学校と交流のあった日本の語学学校へ留学をすることにし、まずは埼玉県にあった語学学校へ通った。レストランのような文化交流ができる場所が欲しいと思ったのは、その頃からだ。

「あるとき、日本人の友達にウイグル出身ですと言ったら、それってモンゴルですか?と言われて……すっごいくやしかったんです。それがきっかけで、日本人にウイグル文化を知ってもらえるようなレストランを作りたいと思い始めました」

 さらにもう一つ、スラジディンさん自身が行ける外食の場所がなかった、というのもレストランをオープンした理由だった。

「当時はまだハラールフードが少なくて……。日本の普通のレストランでは食べられないものが多くて、なかなか外食できなかったんです。同じような思いを抱いている外国人もたくさんいたので、彼らにも安心して食べられるお店を作りたいと思いました」

 とはいえ、いきなりゼロからお店を開くのは難しい。スラジディンさんは語学学校を卒業すると、まずは大学に進学。地域経済学を専攻し、卒業後は日本社会の仕組みを学ぶために、貿易関係の日本企業に就職した。

 そして、2年ほど働いた後、2010年に独立。ウイグルと日本を結ぶビジネスの展開を目標に掲げる「オアシスタリム株式会社」の設立と同時に、 「シルクロード・タリム ウイグルレストラン」を西新宿にオープンした。

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お皿やテーブルクロス、タペストリーなどはすべてウイグルから持ってきたもの

 新宿を選んだのは、大学時代新宿に住んでいたというのと、日本最大のモスク、東京ジャーミイ・トルコ文化センターが比較的近くにあることが理由だった。

 8年経ったいま、レストランは日本に住むウイグル人の心のよりどころになっている。留学生の相談にのったり、家の保証人を頼まれたり……暮らしの相談をされることは日常茶飯事だという。

 ふと、「ウイグルにはたまに帰っているんですか」と質問すると、スラジディンさんの表情が曇った。

 「故郷に比べると、日本の生活はとても自由です」とスラジディンさんは言う。でも、日本の将来も楽観していない。

「日本滞在が17年目を迎え、だんだんわかることが増えてくると、日本の将来も危ないんじゃないかと感じるときがあります。 お金ばかり優先しないで、昔の古き良き日本の精神も大事にしてほしいですね……」

 時折笑顔を見せながらも、故郷のこと、世界情勢のことに話題がおよぶと顔が険しくなる。ウイグル料理を食べながら、彼の地に思いをはせた。
(写真 宇佐美里圭)

   ◇

シルクロード・タリム ウイグルレストラン
〒160-0023 東京都新宿区西新宿3丁目15−8
03-6276-7799

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PROFILE

宇佐美里圭

1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

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