相棒と私

広瀬アリスさん「イヤイヤ期だったあの時、逃げなくてよかった」

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回登場してくださったのは、月9ドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」で新人放射線技師の広瀬裕乃を演じる広瀬アリスさんです。

   ◇

私:広瀬アリス(俳優・モデル)
相棒:出來由紀子(「フォスター」社長)

でき・ゆきこ
俳優・瀬戸朝香のマネージメント事務所としてフォスター前身の芸能事務所を設立。1997年、芸能プロダクション「フォスター」を設立。タレント・モデルの育成及びマネージメントを手がける。

広瀬アリスさんが相棒に挙げてくれたのは、意外にも所属する芸能事務所の親会社社長の出來由紀子さんだった。広瀬さんをスカウトした時の事務所社長だ。そう聞けば普通は「恩師」とか「師匠」、「上司」に近いはず。実際、広瀬さんも言う。

「相棒なんて言っていいのかわからないんですが……、言ってはいけないと思います。でも、本当にいろんなことを教えていただいた方なので」

では、なぜそんな立場の人物が広瀬さんの相棒になったのか。

出來さんとの出会いは小学6年生の時。マネージャーにスカウトされ、出來さんが広瀬さんの地元・静岡まで会いに来てくれた。ファストフード店で話を聞いたものの、芸能界入りには「全く興味がなかった」と振り返る。

「とりあえず事務所に遊びに来てください、と言われて、東京に遊びに行きがてら事務所に行かせてもらう感じでした。気づいたら、お仕事をちょくちょくさせていただくようになっていたんです」

2008年に映画「死にぞこないの青」で俳優デビュー。09年にファッション雑誌「セブンティーン」(集英社)の専属モデルオーディションで「ミス・セブンティーン」に選ばれる。10年の「明日の光をつかめ」では、フジテレビの昼ドラ史上最年少ヒロインになった。側から見れば、仕事は順調に増えていったが、広瀬さんにとって10代、特に17~19歳くらいの頃は、とんでもない時期だったらしい。

広瀬アリスさん「イヤイヤ期だったあの時、逃げなくてよかった」

当時の広瀬アリスさん

「なぜかわからないのですが、すべてのことに『ヤダ!』って駄々をこねていました(笑)。10代って難しい年頃じゃないですか。自分でも何にモヤモヤしているのかわからないんです。でも、ムシャクシャしたり、なんかイライラしたりしていました。演じることはすごく好きなのに、言葉に表せない。赤ちゃんのイヤイヤ期と一緒です。なんでも「ヤダヤダヤダヤダ」と反発していました(笑)」

だが、仕事は休まずに通った。

「小心者なのでサボることは絶対にできませんでした。でも、仕事が入っていない日に行方不明になったことは多々あります(笑)。事務所に呼ばれた時に、何回か消えましたよね(とマネージャーさんに確認)。入口ではないところから出て公園でポケーッとしていたり……(笑)」

そんな広瀬さんを出來さんは、帰る場所を作って待ち続けた。一方で、喝を入れてくれたのも出來さんだ。まるで母親のような存在。相棒には程遠かった。そんなある日、広瀬さんは出來さんに促され、話し合いの時間を持つことになった。

「そこで『いつかわかるから』って言われましたが、心の中では正直、『そんなのわからないよ』って毒づいていたんです」

俳優人生を賭けたドラマ

広瀬さんが出來さんと「腹を割って話せるようになった」きっかけが、朝ドラ(NHK連続テレビ小説「わろてんか」17年度下半期)だ。

それまで等身大の女の子の役が多かった広瀬さんが演じたのは、ヒロイン・藤岡てん(葵わかな)の恋敵で、終生の友となる秦野リリコ。娘義太夫から映画俳優、そして漫才師という個性溢れるキャラクターを大阪弁で熱演。多くの視聴者の心をつかみ、俳優としての評価を高めた。

「朝ドラを『待っていた』ではないですが、これでやる気のエンジンがかからなかったら、もう一生かかんないだろうと思っていました。自分自身の気持ちも姿勢も俳優には向かないかなと」

俳優人生を賭けた出演だった。

広瀬さんはイヤイヤ期の原因を今、「他の俳優さんと自分を比較したり、変に周りを気にしすぎたり、自分で自分の首を絞めまくっていたことが大きかった」と分析する。さらに、体型管理のプレッシャーもあった。

「地方だとおいしいものがありますから、地方ロケへ行くたびに体重を増やして帰って来ては、出來さんに叱られていたんです。(朝ドラの撮影場所だった)大阪でも同じことをしたら絶対叱られると思っていたので、それは避けたいと。『やっぱりほら』って言われるのがイヤだったんです(笑)」

宿泊先から徒歩5分のところにジムがあった。そこで、撮影の間は朝5時半に起きて6時からジムで汗を流し、7時45分にNHK入りというサイクルに。共演者たちとの食事も我慢してひたすら運動を続けた。撮影終了後に都内に帰って来てからもジムへ通った。「やっぱりほら」と言わせないために。最初は意地だったかもしれない。だが、いつしかその言葉が拠り所となっていったのだろう。

「徹底して運動をしたら、肉体だけでなく気持ちも本当にスッキリしてきたんです。色々とブレていたものが1本に定まった。これで俳優としてやっていこうと思えたかな。クリアな気持ちでお仕事に取り組めるようになりました」

広瀬アリスさん「イヤイヤ期だったあの時、逃げなくてよかった」

その気持ちを出來さんに話すと、「やっと色々対等に話せるようになったね」と言われた。まさにそれが出來さんが“相棒”になった出発点。知り合ってから10年が経っていた。

広瀬さんがイメージする相棒とはどんな人だろう。そう聞くと、「こんな感じのイメージですかね」と言って、肩に手を回すポーズを取ってくれた。

「この人がいないと仕事ができないというような関係。イヤイヤ期だった時、社長が強い感じで来てくれなかったら、多分、私は……。変に慰められていたら、逆にこの仕事をやっていなかったろうなと思います。あの時、逃げなくてよかった。10代の時に出來さんに一番言われたのは、『いつか笑い話になったらいいね』という言葉。それが実現したことがうれしいです」

出來さんは変わらず現場に足を運び、良い演技は褒め、悪いところがあればしっかり指摘してくれる。今や「何でも話せる仲」だ。

過去の自分を振り返り、何度も楽しそうに笑う広瀬さんの話を聞きながら、相棒になった出來さんを今度はいつか、心から「恩人」と慕う日が来るんだろうな、と思った。

   ◇

広瀬アリス
1994年12月11日生まれ。静岡県出身。2008年に俳優デビュー。09年~15年までファッション誌『セブンティーン』の専属モデルに。現在は『with』のレギュラーモデルを務める。最近の出演映画に「巫女っちゃけん。」「食べる女」ほか多数。ドラマも「釣りバカ日誌 新米社員浜崎伝助」「わろてんか」「正義のセ」「探偵が早すぎる」「ハラスメントゲーム」ほか多数。現在「ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜」に出演中。今年4月からバラエティー番組「アナザースカイII」の6代目MCに就任

  ◇

ドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」
同名コミックのドラマ化。病院の放射線科を舞台に、天才放射線技師・五十嵐唯織(窪田正孝)を始めとする“縁の下のヒーロー”の活躍を描く。
「撮影前に番宣でクイズ番組にみんなで出演したこともあって、クランクインから和気あいあいでした」と広瀬さん。演じる新人技師・広瀬裕乃は元気いっぱい。
「視聴者の目線に立つ役柄」というだけに、彼女目線で見入る視聴者も多いのでは。「今後は私もMRIなど検査を行うシーンも増えていくのでセリフも専門用語が増えていきそうです。そんな裕乃の成長ぶりにも注目いただければうれしいです」
出演:窪田正孝、本田翼、広瀬アリス、浜野謙太、丸山智己、矢野聖人、山口紗弥加、遠藤憲一、浅野和之、和久井映見ほか、フジテレビ系列で毎週月曜夜9時から放映中

PROFILE

坂口さゆり

生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画評や人物インタビューを中心に、金融関連や女性のライフスタイルなど幅広く執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な紙媒体に、「朝日新聞」(朝日新聞社)「AERA」「週刊朝日」(以上、朝日新聞出版)「Precious」「女性セブン」(以上、小学館)「プレジデント」(プレジデント社)など。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。

松本幸四郎さん「本当にやりたいことをやるためには彼の存在が必要です」

トップへ戻る

石橋静河さんの相棒は「根っこの感覚をわかってくれる唯一無二の存在」 

RECOMMENDおすすめの記事