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韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督/Reuters

第72回カンヌ国際映画祭の閉会式が日本時間5月25日に開かれ、21作品が競ったコンペティション部門の最高賞パルムドールをポン・ジュノ監督の「Parasite」が受賞しました。韓国映画のパルムドール受賞は史上初めて。昨年の是枝裕和監督「万引き家族」に続き、家族を描いたアジア映画がカンヌの頂点に輝きました。受賞者の喜びの声とともに結果をご紹介します。(文・深津純子)

韓国映画のパルムドールはこれが初めて。審査委員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥによると、審査員全員一致による選出でした。授賞式の最後に呼ばれたポン監督は、主演俳優ソン・ガンホと固く抱き合ってステージへ。「受賞は想像もしなかった。韓国映画は今年で生誕100年。記念すべき年に大きな贈り物をいただきました」と喜びを語りました。

韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

主演俳優のソン・ガンホと抱き合って喜ぶポン・ジュノ監督/Reuters

受賞作「Parasite」は、ポン監督の2本目のコンペ作品。全員が失業中の貧しい一家が、長男を家庭教師に雇ってくれた大金持ちの家に接近していきます。格差社会を象徴するような二つの家族の出会いは、やがて思わぬ事件に発展。風刺の効いた笑いとスリルやサスペンスを自在につなげるポン監督の作劇術は、カンヌの観客を魅了し、日本での公開も決まりました。

韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

「殺人の追憶」「グエムル -漢江の怪物-」「スノーピアサー」にも主演したソン・ガンホ(左)はポン・ジュノ監督の盟友/Reuters

受賞後に会見したポン監督は「脚本を書くときにジャンルは意識していません」と断言。「『グエムル』を撮ったときは、むしろ既存のジャンルを壊そうと思っていた。モンスター映画って、上映開始から1時間以上たってやっと怪物が現れるじゃないですか。あれがいやで、始まって30分後に白日の下で怪物を見せたくらいです」。
2017年の「オクジャ」で初めてコンペに参加した際は宮崎駿監督からの影響を語っていましたが、「宮崎監督は大好きですが、今回はあまり関係はない。クロード・シャブロルとヒチコック、そして『下女』を撮った韓国のキム・ギヨン監督から学んだことが力になった」と明かしました。

初めてづくしのグランプリ

韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

プレゼンターのシルベスター・スタローンからグランプリのトロフィーを受け取ったマティ・ディオップ監督/Reuters

第2席のグランプリに選ばれたのは、セネガル系フランス人のマティ・ディオップ監督の「Atlantics」。ダカールの苛酷な生活から抜け出すために欧州行きの移民船に乗る青年と故郷に残された婚約者の女性の恋愛が、これまた予想もつかない物語に転調する作品です。
長編デビュー作で黒人女性初のコンペ参加を果たした監督は「コンペに選ばれただけでも驚きだったのに、受賞までするとは思わなかった」。欧州の難民危機にも通じる題材は、長年かけて温めてきたもの。「野心的な内容だとは思いましたが、ぜひ伝えたいことを盛り込んだ。上映が終わり大歓声が沸いた時は本当にうれしくてほっとしました。チームのみんなと喜びを分かち合いたいです」

韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

監督賞のダルデンヌ兄弟/Reuters

監督賞はベルギーのダルデンヌ兄弟が過激思想に感化されるムスリム系移民の少年を描いた「Young Ahmed」。パルムドールを2度受賞している常連監督に今さら……と授賞式の中継を見ていたプレスからはブーイングもわきましたが「監督賞に選ばれたのは初めて。ずっと獲りたかったんです。監督にとってはうれしい賞ですからね」

心機一転してつかんだ栄光

韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

チャン・ツィイーから男優賞を受け取ったアントニオ・バンデラス。2年前に心臓発作を経験。「受賞の興奮は、僕の主治医にとっては朗報ではないかも」と笑わせた/Reuters

男優賞はペドロ・アルモドバル監督の「Pain and Glory」で監督の分身とも言える主人公を演じたアントニオ・バンデラス。2年前に心臓発作を経験したことが自分を見直すきっかけになり、新たな気持ちで臨んだ作品だったと言います。
「マスク・オブ・ゾロ」や「エビータ」などで国際的に活躍するスペインの大スターですが、40年の俳優生活で主要な映画賞を獲得したのは意外にもこれが初めて。「映画界の最高峰で選ばれたことはうれしいが、ここに来られたのは人生の師で親友でもあるペドロのおかげ。正直に言うと、彼がここにいないのが残念です。映画の題名の『痛みと栄光』ではないけれど、今夜は痛みではなく栄光を享受したい」と複雑な思いを吐露しました。

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女優賞のエミリー・ビーチャム。授賞式の数時間前にカンヌに駆け付けた/Reuters

女優賞はジェシカ・ハウスナー監督の「Little Joe」で植物の遺伝子組み換えを研究するシングルマザーを演じたエミリー・ビーチャム。息子の名前を付けた新種の花が思わぬ恐怖をもたらす寓話的な作品です。「受賞はまったくの予想外。今朝プロデューサーから『すぐに飛行機に乗って!』と電話で言われ、慌てて荷造りしてここに来ました」。「ルルドの泉」が日本でも公開されたハウスナー監督の計算された映画作りは「時にドールハウスを見ているよう。女優としてやりがいのある仕事でした」と振り返りました。

アートは世界を映す鏡

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マイケル・ムーアから審査員賞を受け取るラジ・リ監督/Reuters

審査員賞はマリ系フランス人のラジ・リ監督がパリ郊外の貧困層の現実を見つめた「Les Miserables」と、クレベール・メンドンサ・フィリオとジュリアーノ・ドルネレスの共同監督でブラジルの辺境の村を舞台にした「Bacurau」が同時受賞。女性同士の恋愛を繊細に描いて前評判が高かったフランスのセリーヌ・シアマ監督の「Portrait Of A Lady On Fire」は脚本賞を受賞。流浪のパレスチナ人を監督自らが演じたエリア・スレイマン監督の10年ぶりの新作「It Must Be Heaven」が選外佳作に選ばれました。

韓国映画がパルムドール初受賞 カンヌ国際映画祭

クエンティン・タランティーノ監督の話題作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は動物たちの名演を讃えるパルムドッグ賞を獲得。受賞犬はブラッド・ピットの愛犬を演じたピットブル/Reuters

格差社会を背景にしたパルムドール作品を筆頭に、受賞リストには現代社会が直面する問題を色濃く反映した作品が並びました。審査員団のイニャリトゥ委員長は「政治性や社会性で映画を見ているわけではない」と断った上で、「アートは現実を反映する。今年のコンペ作品にも、我々が抱く懸念や不安が写し取られていた。世界が向き合う喫緊の課題に気づかせてくれるものだった」と総括しました。

↓↓授賞者の喜びの表情はフォトギャラリーでご覧ください。

栄冠の行方は…… カンヌ国際映画祭コンペの話題作

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