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<115>デザイン書充実、起業相談もできるカフェ 「book cafe DOOR」

 「関西 住みたい街ランキング2019」 (SUUMO調べ)で7年連続1位を独走する西宮北口と、宝塚歌劇団で有名な宝塚を結ぶ路線といえば、阪急今津線。両駅の中間に位置するのが仁川(にがわ)駅だ。

 阪神競馬場の最寄り駅として知られ、東改札口は、土日ともなると大勢の競馬ファンでにぎわうが、西改札口側には閑静な高級住宅街が広がる。駅名にもなっている仁川という川がゆるやかに流れ、河川敷では犬の散歩やウォーキングを楽しむ住民の姿がよく見られる。

<115>デザイン書充実、起業相談もできるカフェ 「book cafe DOOR」

 2018年12月、仁川駅西改札口からほど近い場所に「book cafe DOOR」という小さなカフェがオープンした。道路から少し奥まったところにある入り口。ガラス張りのドアを開けると、自然光がたっぷりと差し込む空間にカウンター席や大きなテーブル席、ソファ席などがあり、静寂に包まれているものの、堅苦しさはない。

 ドアの正面と左手に本棚があり、デザインやアート関係の書籍を中心に、料理や趣味系の本や小説など、センスが感じられる本が並んでいる。ここまで説明すると、住宅街にある隠れ家的カフェといった感じで、実際のところそうなのだが、実はソーシャルデザインを通して地方創生を行いたいと考えるデザイン事務所によって運営されており、デザインや起業相談なども行っているところが普通のカフェと一線を画す。

<115>デザイン書充実、起業相談もできるカフェ 「book cafe DOOR」

 よく見ると、ドリンクやフードを注文するカウンターの傍らには、「専門家がデザイン、事業承継、起業、デザイン経営、その他相談を承っております(予約制、無料)」と記された小さな紙が掲げられていた。果たして住宅街にこのようなニーズがあるものだろうか?

「オープン3日目に、たまたま立ち寄ったお客様から起業相談を受けまして、他にも経営相談などを何件かおうかがいしています」

 そう話すのは、このカフェを立ち上げたSASI DESIGN代表取締役の近藤清人さん(40)。デザインの力を原動力に、企業のブランド作りや商品開発、起業、事業継承など、さまざまな経営相談に乗ってきた。その過程で行政や商工会、信用金庫などとのつながりも培ってきたという。

 「地方にも事業を起こしたい、今まで続けてきた事業を次の世代に承継したいと考えている人たちが潜在的にたくさんいます。でも、いざ商工会や銀行などに行くとなるとハードルが高い。そこで、もっと気軽に相談できたり、『お茶を飲みに来ただけ』という体裁で様子を伺えたりするような場所として、誰もが来られるブックカフェがいいと考えたんです」

 事業といっても大げさなものではなく、「自宅で料理教室やエステサロンをしたい、作ったものを販売したいといった“小商い”もあり」と近藤さんは言う。雑談の延長線上で話を聞き、具体化してきたら商工会や銀行につなぎ、デザインの専門家という立場から長くサポートしていきたいと考えている。

 仁川駅の西改札口側はカフェが少なく、主婦や学生の語らいの場として利用されることも想定していたが、ふたを開けてみると一人客が多かった。コーヒーをじっくり味わう人がいれば、フリーランスとおぼしき人が仕事をしていたりする。また、夫婦で来ても、それぞれが違った本を読んで静かに過ごしている人もいるという。

「お客さんはそれなりにいらっしゃるのに、お店の中はしーんとしていることもよくあります(笑)」

 SASI DESIGNのスタッフで、今はカフェを切り盛りしている山田咲花(さきか)さん(26)は、笑顔でそう話す。

「この地域は文化的な意識が高く、アートやデザインに興味がある住民の方が多いというのもあるのかもしれません」

 と、近藤さんは分析する。

<115>デザイン書充実、起業相談もできるカフェ 「book cafe DOOR」

 デザイン関連の書籍を充実させたり、SASI DESIGNがデザインを手がけた地方の特産品などを飾ったりしているのは、デザインを身近に感じてもらうための工夫の現れ。店の看板メニューのサンドイッチのパンに押された、「こんにちは、デザイン」という焼き印にもそうした思いが込められている。

「このお店をオープンしてうれしかったのは、何人ものお客さんに『こういうところを作ってくれてありがとう』と面と向かって言われたこと。こうした場が街に求められていたことの現れなのかなと」(近藤さん)

 もちろん、この店を訪れる客のすべてが事業に関心があるわけではない。ただ、事業について語り合う人や、フリーランスで仕事をする人と空間を共にするだけでも、新しいものが創られようとする、見えない何かを肌で感じ取ることができるような気がする。

 近藤さんは店名を“DOOR”にしたのは、あらゆることの玄関口でありたいと思ったから。新たな仕事の創出や人との出会い、社会の仕組みの変革へとつながるドアは、いま大きく開かれたばかりだ。

<115>デザイン書充実、起業相談もできるカフェ 「book cafe DOOR」

■おすすめの3冊

『強い地元企業をつくる 事業承継で生まれ変わった10の実践』(著/近藤清人)
同店を運営するSASI DESIGN代表取締役近藤さんの著書。近藤さんが実際に携わった、10の地方企業の事例から、地元企業の自立を促す承継手法と、地域での連携を記した一冊。「文章を書くのはものすごく苦手だったのですが、がんばって書きました(笑)。デザインを外部に依頼する場合、専門家に作ってもらうのではなく、自分たちで作っていくという気持ちがないと成功しません。起業や事業承継を考えている人はもちろん、行政や企業を支援するデザイナーなど、幅広い人にぜひ読んでほしいです」(近藤さん)

『アルケミスト 夢を旅した少年』(著/パウロ・コエーリョ、訳/山川紘矢+山川亜希子)
アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドへ旅に出た羊飼いの少年。錬金術師の導きや、さまざまな出会いを通して、人生の知恵を学んでいく夢と勇気の物語。「実はこれ、本がボロボロになるくらい何回も読んでいて、旅行に行く時は必ず持参しているほど、私にとって大切な本なんです。1ページごとに心惹(ひ)かれる言葉があり、とにかく心に刺さります!」(山田さん)

『いのちをいただく』(著/内田美智子、絵/諸江和美、監修/佐藤剛史)
食肉加工センターに勤務する坂本さんと、その家族、牛の「みいちゃん」の物語。「食べる」ことの意味を問う。「僕たちが当たり前に食べている肉が、どういうストーリーを経てここに来たかということについて、深く考えさせられました。改めていただいたいのちを大切に食べなくてはと思いました」

(写真・太田未来子)

    ◇

book cafe DOOR
兵庫県宝塚市仁川北3-6-3 ジュエル仁川102号室
http://sasi-d.com/bookcafe-door/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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