花のない花屋

「ママが謝る前から、僕は許してる」 手を上げてしまった息子へ花束を

〈依頼人プロフィール〉
澤田真子さん(仮名)36歳 女性
神奈川県在住
主婦

    ◇

私には5歳の長男と3歳の長女がいます。夫の父がカナダ人で母が日本人だったこともあり、子どもたちは英語と日本語の環境で育ち、それが理由なのか特に長男は言葉の習得に時間がかかりました。

3歳を過ぎても話がうまくできず、つい幼稚園で他の子どもたちと比べては、「医者に行った方がいいんじゃないか」「私の育て方に問題があるのだろうか……」と不安になっていました。そんなとき、夫の母方の祖父母の家へ行くと、みんなに心配され、特にストレートに自分の意見を言う義母からは「お母さんがちゃんとやればできるはずよ」「お母さんの責任よ」と言われ、やはり自分が悪いんだ……と私は完全に自信を失っていました。

もちろん、自分では精いっぱいがんばっているつもりでしたが、一人目の子どもだったのですべて手探り。なにが正解なのかわかりません。とにかく「もっとがんばらなきゃいけない」「私のせいなんだ……」と自分を責め続け、プレッシャーに押しつぶされそうでした。

そんなとき、ふと気がついたのです。この「もっとがんばらなきゃいけない」というプレッシャーは今に始まったことではないのかも……と。思えば、私は実の両親から、「もっとがんばれ」「もっと上を目指せ」とずっとプレッシャーを受けてきました。

高度経済成長期を生きてきた彼らは「がんばれば成果が出る」と固く信じており、より上を目指すのが当たり前でした。私が何かを成し遂げても褒めてくれることは一切なく、幼い頃から私は「一体どうしたら親が褒めてくれるんだろう?」と感じていました。

当然、二人はしつけに対しても厳しく、「何が食べたい?」と希望を聞いてくれることもありませんでした。出されたものを残さず食べなさいという考え方で、たとえおなかがいっぱいになっても、「本当に苦しくなったら、吐いて体が拒否するんだから、吐くまでは食べなさい」と、残すことさえ許してくれませんでした。一事が万事こんな調子だったので、私の気持ちはずっと置き去りのままだったのです。

言葉がなかなか出てこない長男と、幼い長女を育てながら、こんな自分の親との関係がふと頭をよぎることが多々ありました。「もしかして私は親に愛されてなかったんじゃないか」と思うことさえありました。

息子が話すようになったのは、ちょうどそんな頃です。それまで言葉がでなかったのがうそのように、5歳になった息子は急に話し始め、自分の思いをどんどん表現するようになりました。

そしてある日、言うことを聞かない息子を叱り、手を上げてしまったときのこと。後悔し、泣いて謝る私に息子はきっぱりこう言いました。

いいよ、大丈夫だよ。ママのことはわかっているよ。ママが謝る前から、僕は最初から許しているんだ。ママのこと大好きだよ。

相手をたたくなんて、恋人だったら関係が壊れてしまうようなことです。そんなことをしたのに、息子はありのままの私を受け入れ、愛してくれました。それをはっきり言葉にしてくれました。

私は思わず、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を息子の小さな胸におしつけ、抱きしめました。そう、私が欲しかったのはこれなんだ。未熟な自分を、完璧でない自分の存在をただただ認めて欲しかっただけなんだ……。欲しかったのはこれなんだ……息子はそう気づかせてくれました。

そこで、自分であることにもっと自信を持っていいと気づかせてくれた息子へ、感謝の気持ちをこめて花束を贈りたいです。

息子は幼稚園の年長さんで、恐竜や虫が大好きです。好奇心旺盛で、最近は植物におしべやめしべがあることを知り、感動していました。カラフルなものやキラキラしたものが好きなので、好奇心を刺激するような色とりどりの花でアレンジをしていただけるとうれしいです。

「ママが謝る前から、僕は許してる」 手を上げてしまった息子へ花束を

花束を作った東さんのコメント

「ママのことはわかっているよ。ママが謝る前から、僕は最初から許しているんだ」とは、なかなかお子さんの年齢では言えることではありません。

でもそんなお子さんに、理屈ではなくインパクトのある花束を見せてやりたいと思って作りました。私がいま変わっていると思う花や、花束に入れたいと思う花を選択。その数は16種類になります。花材はヘゴゼンマイ、ジンジャー、グズマニア、ダリア、ガーベラ、ブバルディア、バラ、マリーゴールド、ケイトウ、ヒペリカム、カーネーション、エルムレス、エピデンドラム、サンタンカ、クルクマソウ、アンスリウム。

寒い場所の花や暑い場所の花など様々なタイプがそろっています。感情豊かなお子さんに見てほしい花束です。

「ママが謝る前から、僕は許してる」 手を上げてしまった息子へ花束を

「ママが謝る前から、僕は許してる」 手を上げてしまった息子へ花束を

「ママが謝る前から、僕は許してる」 手を上げてしまった息子へ花束を

「ママが謝る前から、僕は許してる」 手を上げてしまった息子へ花束を

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

「ママが謝る前から、僕は許してる」 手を上げてしまった息子へ花束を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

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