東京ではたらく

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

職業:旅行系SNS運営会社
勤務地:東京都品川区
仕事歴:5年目
勤務時間:11:00~
休日:週2日

    ◇

「シェアトリップ」という言葉をご存じだろうか。SNSを通して旅の仲間を募り、同じ趣味や目的を持った人と一緒に旅をする。ごく簡単に説明するとこんな感じなのだが、この「シェアトリップ」が今、若い世代をどんどん海外旅行に連れ出しているという。

「シェアトリップ」の仕掛け人は、東京・品川区にあるベンチャー企業「トリッピース」。「どこでもない旅を、みんなでつくる。」をテーマにしたSNSサイトにはずらりと海外旅行ツアーが並んでいるが、よく見ると、大手旅行会社が企画しているツアーとは様子が違う。

例えば「サハラ砂漠で満天の星を見に行こう」ツアーや「ニューヨーク、年越しカウントダウンの旅」、中にはタイ・チェンマイのローカルな祭を目指していくような珍しいものもあって旅心がくすぐられる。

じつはこれらのツアーのほとんどは、公認プランナーと呼ばれるユーザーとトリッピースが企画したもの。サイトにアップされた内容を見て、「行きたい!」という参加者が一定数現れればツアーが成立するという。一般の人でも旅行ツアーを企画できるなんて夢みたいな話だけれど、それがトリッピースが生み出した「シェアトリップ」という考え方であり、ひとつの旅行ビジネスの形なのだ。

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

サイトに続々とアップされる旅行企画。世界一周から国内旅行まで内容はさまざま

この「シェアトリップ」の中心的役割を担っているのがコミュニティマネージャーの堀真菜実さん。ユーザーのサポートをしつつ、自ら旅の企画を提案してツアーを開催したり、地方自治体や旅行会社が新しいツアーを生み出す際のコンサルティングをしたりと、仕事内容は多岐にわたる。

「私たちの仕事は、いわゆる旅行代理業務ではないんです。あくまでもSNS旅行サイトの運営という業態で、ユーザーさんから生まれる旅のアイデアと旅行代理店が打ち出したいツアーをつなげるような役割。全く新しい旅の提案の形なので、最初は苦労することも多かったです」

例えば、旅行会社から「冬のカナダ旅行」を打ち出したいという話があれば、トリッピースから公認ユーザーに向けてその情報を発信。挙手制で公認プランナーの中から企画者を募り、そこからさらに具体的なプランを練っていく。旅行会社との折り合いもつき、具体的な内容が決まったところで、改めて決定ツアーとしてサイトに日程や費用を公開する。

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

社名は「trip(旅)」と「piece(かけら)」を繋げた造語。「大勢の人の思いをつなげて素敵な旅を作り出したい」という願いが込められている

「中には期間が長かったり、目的地がへき地だったりして高額になるツアーもありますが、募集を始めると1日で定員に達することも少なくありません。でも、プランナーさんの熱意やこだわりが強い分、それまで旅行代理店さんが打ち出していたオーソドックスなツアーに比べると、少々わがままなプランになることも多くて(笑)。代理店にとってはゼロからオーダーメイドのツアーを企画するのは骨が折れますから、サービスを開始した当初は協業してくださる代理店は少なかったんです」

その流れを大きく変えたのは、驚くべき集客力だった。

「昨今はとくに若い世代の海外旅行離れが進んでいて、代理店さんもそこに苦労していたんです。そんななか、トリッピースが打ち出す企画は、日頃からSNSを活用している若い世代から発信されたもの。いわゆる観光地をただ回るだけのツアー旅行ではなく、その世代に“刺さる”テーマやハイライトが設定されている旅が多いので、それが同じ世代の興味を引いているのだと思います」

例えば、遠方で日程も費用もかかりがちなアフリカの旅などは、どうしても集客が難しくなる。が、トリッピースにかかればほんの数日で定員に達するというから驚く。

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

10連休明けの初日に取材を受けてくれた堀さん。連休をフルに使った世界一周旅行の発案者としてツアーに参加してきた。参加者は募集開始から1日で定員に達したそう

「例えば、ある民族の舞踊を見るのがハイライトのツアーがあったとしても、それだけでは若い世代の関心を引くのにはまだまだ弱い。でも『その民族の中に入って一緒に踊って、フェスみたいに楽しめたら面白そうじゃない?』というところまで突っ込んだツアーにすると、一気に若い世代が興味を持ってくれるんです。

行く場所は同じでも、ほんの少し旅の見せ方を変えたり、スポットを当てる角度を変えるだけで、ツアーの魅力は一変します。そうやってとくに若い世代の集客実績を伸ばしているうちに旅行代理店さんの方から声をかけてもらうことが増えて、今では多くの代理店さんと協業し、ユーザーさんの理想の旅を実現できるようになってきました」

じつは堀さん、自らユーザーと同じ立場に立って、これまで200以上のツアーやイベントを企画、実現してきた。その経験があるからこそ、ユーザーの気持ちに寄り添って様々な課題を解決できるという。

「シェアトリップで難しいのは、ツアーの発案者が他の参加者から添乗員的な存在と思われてしまうこと。トリッピースの旅の多くは日本から添乗員から同行することはなく、あったとしても現地でガイドと合流して案内してもらう程度。基本的には参加者全員が『どうしたらこの旅をもっと楽しめるか?』を主体的に考えて行動していただくんです。

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

自分発信のツアーを企画、進行しながら、サイトの運営や自治体のコンサルティング業務も行う。「コミュニティマネージャーという肩書は聞こえはいいですが、実際は“なんでも屋”みたいなものです(笑)」

自分たち次第で旅の密度が変わってくるというのがシェアトリップのだいご味なのですが、中にはどうしても発案者に頼りきってしまう方もいて。たとえば自分の家から空港までどうやっていけばいいか、とか、もし現地で雨が降ったらどうしてくれるんだとか(笑)。そうなってくると発案者に負担がかかりすぎてしまいますので、そのあたりのバランスというか、参加者全員の意識の共有というところには気をつけています」

堀さんの肩書が「コミュニティマネージャー」というのは、こういうことなのだ。仲間と旅をシェアし、よりよいものにするためには、旅の計画以上に、人と人との関係性が何より大切だから。そして、堀さんがこの仕事を選んだのもまた、そこに理由がある。

「この仕事をしていると、学生時代から世界を旅して回っていたんですか?なんて聞かれることも多いのですが、旅の魅力にとりつかれたのは社会人になってから。それまでは海外旅行もほとんど行ったことがなくて。どちらかというと、バックグラウンドではなく、”趣味”で人がつながる場所を作ることで、人が一歩踏み出せたり新しい仲間ができたりということに興味を持ったのが先でした」

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

SNS世代に刺さるよう、ツアー紹介に使う写真やキャッチコピーにも気を配る。こうした工夫が、海外旅行離れが進む若者たちの心をつかんできた

千葉の高校卒業後、東京の大学に進学した堀さん。中学時代に経験したニュージーランドでの短期留学に魅力を感じ、大学では1年間の留学が必須となる学部に進学した。本格的な留学に備えて英会話カフェに通い始めたことが、「場作り」に興味をもつきっかけとなった。

「英会話カフェは、客同士がフランクに英語で会話する空間なのですが、英会話教室とは違って語学力に合わせてクラス分けなんて当然ないんですね。だからすごく流暢(りゅうちょう)に話す方もいれば、私のようにたどたどしい人もいて。最初は恥ずかしさと緊張で1時間も店にいれば汗びっしょりという感じで(笑)」

しばらく通ううちに店のオーナーとかおなじみになり、スタッフとしてアルバイトをすることに。運営する側に立って思ったのは、「どうしたら自分のようにガチガチに緊張しているお客さんに、もっと気軽に、さらに継続して参加してもらえるだろうか」ということだった。

「まずはお客さん同士の距離をもっと縮めることだと思って、イベントやサークル活動なんかを企画しました。顔見知りの人が増えると緊張もほぐれますし、また行きたいと思ってもらえるかなと。そうするとお客さん同士が自然と仲良くなって、英会話の時間を楽しんでくれるだけでなく、『こんな風に友達ができたのは久しぶりだ』と喜んでいただきました。ああ、こうやって人がつながる場をこれからも作っていきたいと感じました」

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

インターンとして働く学生スタッフの相談に乗ることも、意見を聞くことも多い。利用者の多くが30代ということで、若い世代の感性も積極的に取り入れている

新卒で選んだのが損害保険会社の営業という仕事だった。

「実際の配属は違いましたが、就職活動のときのイメージは、町の中小企業担当でした。個々の方の事情やこだわりを深く理解してリレーションを築き、一緒に同じゴールに向かうサポーターのような。1対1のコミュニケーションが鍵になるような働き方をしたいと思っていました」

が、希望の会社の内定を獲得した後、もうひとつの転機が訪れた。

「卒業旅行でエジプトに行くことにしたのですが、せっかくだからちょっと変わったツアーに参加しようということになって。それでピラミッドとか一般的な観光地に加えて、白砂漠という真っ白な砂漠をキャンプしながら旅するという、少しマニアックなツアーに参加したんです。その旅に衝撃を受けてしまって」

真っ白な砂漠に登る太陽と、刻々と色を変える風景。砂漠の真ん中で食べた鳥の丸焼き、何もかもが圧倒的すぎて、「地球上には自分の知らない世界がまだまだある」と全身で知った。

その後、損害保険会社で働きながら、休みがあればモンゴルやケニアなど、へき地を旅した。5年半ほど働いた頃、今の会社に転職を決めた。

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

添乗員が同行しない旅だからこそ、プランニングの細かい部分にまで気を配る。協業してくれる旅行会社を探すのも大切な仕事

「自分がやりたいと思う仕事の柱にあった『人がつながる場を作る』ということと、趣味として大好きな旅。その二つの要素を満たす仕事が偶然見つけた今の会社のサービスだったんです。これは私のためにある仕事だ!と、すぐに連絡して面接をしてもらったんです」

自分が理想と思うツアーを提案し、気持ちを同じくする仲間たちと旅を作り上げて行く仕事はまさに天職だった。これまで発案者として参加した100以上の旅はどれも忘れがたいと言うが、中でも夢だったボリビアのウユニ塩湖の旅は忘れられない。

「出発前からみなさんすごく主体的に関わってくださって、参加者で作るLINEグループでは毎日色々なアイデアが飛び交いました。ウユニ塩湖は鏡のような湖面に自分の姿が映る、とても美しい場所。空の青と雲の白しかないような風景なので、そこで全員でカラフルな服を着て、全員で虹色を作って写真を撮ろう!とか」

その後もアイデアは絶えることがなく、新婚カップルの参加者のために、全員で正装して湖でブライダルフォトを撮影したりもしたとか。アイデアも準備もすべて参加者全員で共有、分担した。そうやって「シェア」した旅は、ただ誰かの後について回る旅行の何倍も鮮やかに心に残る。

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

添乗員という立場ではなく、あくまでも「一緒に旅する仲間」というスタンスを大切にしているという堀さん。「みんな私に頼らないでね、逆に助けて! という感じで(笑)。そうするとみんな主体的に関わってくれて、どんどん旅が面白くなってくるんです」

「そういう旅を経験すると、この仕事に就いてよかったなとしみじみ思います。もちろん全員が最初から主体的に関われるということは難しいです。それが悪いわけではなく、本来の自分のように知らない人のなかでガチガチに緊張するような人たちでも、自然体でコミュニケーションが取れる場作りをするのが私の役割だと思っています」

もう一つ、これから力を入れたいと思っていることがある。

「最近は、地方自治体や旅行代理店から、『どうしたらこの地域に人を呼べるか』というご相談を受けることが増えてきました。国内外問わず、メジャーな観光地以外にはなかなかスポットライトが当たらないのが現状です。でも、世界には注目を浴びていないだけで、魅力的な場所が無数にありますし、実際、少し光をあてる角度を変えるだけで、その魅力は一気に開花します。

例えば閑散期のスキー場やキャンプ場なんかもそうですよね。これまでは集客できなくて当たり前と思われていた場所でも、空いているからこそ楽しめることもありますし、そこに人が集まれば運営側もお客さんもウィンウィンの関係になれる。今後はそうしたコンサルティング業務にも深く携わっていきたいなと思っています」

この夏は長期休暇を取って、ソロモン諸島の民族に会いにいくとか。こうした経験も、いつか仕事につながればいいなと思っている。彼らと日本人未踏の地へのツアーを実現させる予定だ。

旅をすればするほど、新たにまだ見ぬ土地への好奇心が湧いてくる。その時に感じる得も言われぬワクワク感を、一度感じたら忘れられない。自分の宝物を誰かにおすそ分けしたいと思えるのは、彼女がその魅力を心底知っているからなのだ。

東京ではたらく女性へ、パーソナルな5つの質問

◎休日はどう過ごしている?
企画で旅行か、個人で旅行か、旅仲間と同窓会 笑。
最近は旦那さんとゆっくりカフェで本を読んだりも。

 

◎東京で好きな場所はどこ?(理由も)
小笠原。船で24時間かけて行く非日常感も、きれいな海もゆったり流れる時間も、人の温かさも全部好きです。
 
◎最近うれしかったことは?(できれば仕事以外で)
友達が誰にも話せなかったことを打ち明けてくれたこと。
 
◎100万円あったら何に使う?
両親4人を連れて家族旅行にいきます。
 
◎今日の朝ごはん、何食べた?
コンビニの飲むヨーグルト。

■トリッピース

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。

引っ越しスタッフ:大谷明奈さん(23歳)

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パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

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