てまひま

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

デジタルの進化が進み、世の中がどんどん便利になっている昨今。めんどうなことはすべてロボットが私たちの代わりにやってくれるという時代もくるのでしょうか。もちろん、歓迎すべき未来ではありますが、一度、足を止めて考えたいこともあります。

この時代にあって“てまひま”かけて毎日を過ごしている人がいます。便利の波に乗らない彼らの価値観のなかには、私たちが忘れがちなこと、見落としがちなことが少なくありません。そんな“我が道を貫く”専門家の元を訪れ、生きるためのヒントを得る企画。

今回、お話をうかがったのは、東京の山奥にDIYのアトリエを構える、革ものと彫金作家の竹沢むつみさんです。

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

東京都八王子市にある標高854mの「陣馬山」。そのふもとにひっそりとたたずむ木造の小屋があります。廃材を使って建てられたこのアトリエは、ネイチャークラフト作家・長野修平さんが手掛けたもの。その長野さんが大切に使ってきた小屋を受け継いだのが、竹沢むつみさんでした。

屋号はモンゴル語で、“風が吹く”という意味をもつ『サリヒラフ』。モンゴルを旅した20歳のころ、広大な高原に生活する現地の人と、1ヵ月半もの間交流することで、「作りたい作品の形」が見えたのがきっかけでした。

山麓(さんろく)に引っ越しをしたら、余計なことをしなくなった

最寄り駅までバスで約30分と、なにかと不便な陣馬山の麓で、日々活動している竹沢むつみさん。以前は八王子市内に住んでいましたが、さまざまな巡り合わせがあって、この陣馬山麓に引っ越しをしました。

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

「今から15年前のことになりますが、この小屋で行われた長野さんの展示会に足を運んだことがありました。その時、いつかこんなアトリエを構えたいなぁって憧れていたんです。そうしたら、たまたまその間に知り合った友人がこの小屋の近くにある古民家に住んでいて、『引っ越すことにしたから、ここに住まない?』と声をかけてもらって。わたしはもっと自然が身近な場所でモノづくりをしたいと思っていたので引っ越しを決めました。それがきっかけで、小屋の持ち主だった長野さんと知り合い、受け継がせてもらえることになったんです」

15年の月日を経て、憧れの小屋を受け継いだ竹沢さん。いまでは、革ものとシルバーアクセサリーのクラフト作家として日々手仕事に打ち込む活動拠点となっています。

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

引っ越しをする前は、派手な色の革を使うことが多かった竹沢さんですが、ここへ来てからは自然と土色の革を使ったり、風や花、樹木のモチーフが増えたりと、作風と考え方に変化があったそうです。

「自分が買い物したお金がどこへ流れていくのか、お金の回り方を考えるようになって、できるだけ近くの商店に行ったり、友達が作っている洋服を買ったり。今日履いている紋平や靴下は全部、友達が手掛けたものです。もともとブランドものが好きだったわけではなかったけれど、価値観が変わりました」

そんな竹沢さんが作品に使う革は、本来は捨てられてしまうはずの“床革(トコガワ)”や、傷が入ってしまって製品として日の目を見ない革たち。それらを1枚1枚大切に扱い、お財布やかばん、キーケースやヘアゴムを手作り。

大自然のなかで生きた動物たちの営みに思いをはせ、新たな命を吹き込む竹沢さんの革製品は、自身が運営する『陣馬山麓アトリエ展』や、恵比寿にあるセレクトショップ『sot』、日本各地で開催される音楽イベントなどで販売しています。

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

花を刺繍(ししゅう)したヘアゴムには、植物の種が封じ込めてある。どこかで落としてしまっても、いつか芽が出たらそれはゴミじゃなく立派な命。そんな思いが込めてある。ショルダーバッグ¥25000円、ヘアゴム¥1900円

そもそも、革製品は出来上がるまでの工程がとても多く、手作業で行うとなると多くの時間が必要です。

まず、作るアイテムにあわせて革をカットし、専用ののりを塗ってなじませ、毛羽立ちを処理。のりが乾いたら、革と革を接着して、針穴を開けていく。その後はミシンを使わず、2本の針を使ってひと針ひと針、手縫いで模様を描く。

大きなカバンを作ろうと思うと、30時間くらいかかることもあるそうで、仮に1日6時間作業したとしても、完成まで5日。なかなか根気のいる仕事です。

「いちばん大変なのは、縫う作業。でも、いちばん楽しいのも縫う作業。チクチク針で手縫いしていって模様ができはじめると、ワクワクしてくるんですよね。いずれは糸も植物から自分で染めて、作品に使いたい」

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

左が処理前の床革。毛羽立ち処理をすると、右のように凹凸がなくなり、味のある質感に

すべてがぬくもりのリレーにつながっていく

彫金の作品づくりにも、竹沢さんならではの愛あるこだわりが詰まっています。
それは、指輪を入れる“箱”。結婚指輪をオーダーしたカップルに完成した指輪を手渡しするとき、依頼者ごとに異なる箱に指輪を添えて、なんとサプライズ演出をしているのです。

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

「鳥が好き」と話していたカップルの指輪は、鳥モチーフの陶器のなかに。受け取った二人はとても感激したそう

指輪を作るだけでも、依頼者とデザインを何度も話し合ったり、サンプルを作って確認したり、時間と労力がかかります。結婚指輪に関しては完成品を売っているわけではないため、0から依頼者と一緒に作りあげていくのです。

依頼者と顔を合わせ、話をしていくなかで、趣味や好きなものをこっそりリサーチ。どんな箱に入れたら喜んでもらえるかまで考えをめぐらせ、プロデュースするのが竹沢さんのモットー。

山好きのカップルには山型の木の箱に入れたり、キャンプ好きのカップルには、実際の燻製鍋に指輪を入れ、ふたを開けると同時にドライアイスでスモークを演出したり。打楽器奏者のカップルには、叩けるちいさな箱を太鼓職人さんに作ってもらって、お渡ししたこともあるそう。じつにユーモアあふれる演出です。

「だって、喜ぶ顔が見たいじゃないですか。大切な節目の指輪を作らせていただき、ありがとうございますって、いつもうれしく思います」

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

廃材で作られた小屋を受け継ぎ、作業場に。その作業場のどこかにガタがきたら、また廃材を見つけてきて修繕しながら大切に使う。革製品を作るときも、動物の命を無駄にしない。木材も革も、すべては尊い命。その命のぬくもりを、竹沢さんが橋渡しとなって、今度は人へとバトンをつないでいます。

「今はまだ展示会やイベントのときにしかアトリエを開放できていないのですが、今後は月に2~3回だけでも、作品を展示して足を運んでもらえるようにしていきたいです。アトリエの近くに『森のアトリエ』というカフェがあるのですが、遠方からいらっしゃる方もいるので、カフェのオープン日と合わせてアトリエを開放できたら、お客さんにより楽しんでもらえるかなって。そんなふうにして、ここ陣馬も盛り上げていけたらいいなって思います」

東京の山奥でチクチク手縫い。「捨てられてしまう革」に命を吹き込む作家

■salikhlah.(サリヒラフ)
https://www.instagram.com/takezawa_mutsumi/

■陣馬山麓アトリエ展
https://www.facebook.com/Jinbasanroku/

(文・山畑理絵 写真・茂田羽生)

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