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「愛情を注ぐあてがあることは、すごく幸せなこと」瀬尾まいこさん(作家)

「愛情を注ぐあてがあることは、すごく幸せなこと」瀬尾まいこさん(作家)

(撮影:久保田孤庵/取材・文:追分日出子)

2019年「本屋大賞」受賞作は『そして、バトンは渡された』。2人の母3人の父に育てられた女子高生が主人公の、ほっこりした温かさと優しさに包まれた物語だ。著者の瀬尾まいこさんは元中学教師で、5歳の女の子の母。そんな瀬尾さんをお住まいの奈良市にお訪ねして、10の質問。

Q1 『そして、バトンは渡された』に込めた想いは?

この作品は自分で書いていて胸が熱くなる瞬間もあり、最も好きな作品だったので嬉しかったです。「困った。全然不幸ではないのだ」という文章が最初に浮かび、不幸ではない女の子が描けたらいいなと。そして血の繋がりのない親たちに愛情を注がれて育った女の子の人生を書くうちに、私自身が親の側に感情移入し、愛情を注ぐあてがあるってすごく幸せなことだと思うようになりました。この思いが書けたかなと。

Q2 「愛情を注ぐあてがあるのは幸せ」とは?

それは最初、教師体験を通して実感した想いです。私は正規教員に採用されるまで9年かかり、人生ってこんなものかなと満たされない想いがありました。でも教員になり担任を受け持ったら、生徒に愛情を注げばいいだけの毎日、肉体的には大変でも精神的にはすごくシンプル。愛情を注ぐあてがあるというのは、明日が何倍にもなったようだと感じ、本当に幸せなことだと思いました。血の繋がりは関係ないです。私の小説は家族の話が多いですが、家族というより、人と人が関わる様子が好きで、それを書きたいと思っています。

Q3 小説を書き始めたきっかけは?

教員採用試験に落ち続けていた時、何か自分のアピールポイントが欲しくて、でも特技も趣味もなく、たまたま目にした「坊っちゃん文学賞」に応募しようと、最初の作品『卵の緒』を書き、受賞しました。でも採用試験にはその後2年も落ち続けました(笑)。作文を褒められたことはなかったですが、書くことは好きなんだと思います。

Q4 瀬尾さん自身はどんなお子さんでした?

おとなしい、言いたいことを言えない、その他大勢の子ども。学校が好きではなかったし、行事がプレッシャーな子どもでした。先生から忘れられている存在。だから教師になって、全員が楽しくできるクラスを作りたいと思いました。ウザイとか死ねとか言われても、生徒は可愛かったです。

Q5 教師を6年勤め、退職しています

健康診断で病気が見つかり、手術し、1カ月ほど入院して復帰しましたが、その年度の3月に退職しました。婦人科系の手術だったので、もう子どもは難しいと言われ、子どもが大好きなので、次は保育士になろうと、2年かけて保育士資格を取りました。二次試験のときに結婚し、思いがけず自分の子どもができて、結局、保育士としては働いていません。その娘はいま5歳です。

Q6 家族はどんな存在ですか?

やはり愛情を注ぐ存在ですね。私は自分自身にあまり興味がないので、娘がいて愛情を注ぐあてができて、明日が楽しみになっている気がします。あ、夫には、愛情を注いでいませんね(笑)。彼は信じられないくらいのんきで、家ではほとんどゴロゴロしていますが、まあ、家がほっこりはします。

Q7 どんなお母さんですか?

大雑把な母親だと思います。幼稚園の参観があり、うちの娘は絵や文字が桁違いにできていなくて、でも陽気で楽しそうなので、まあいいかと。小学校に入ったらできるようになるわー、いつか追いつくわーと思っています(笑)。私はすぐ、えっ、そんなことが心配なの?と思ってしまいますが、他のお母さんはもっと真剣に子どもに向き合っていて、私はやはり適当だなと思います。

Q8 どんな一日? 執筆はいつ?

9時に幼稚園のバスがきて娘が出かけたあと、午前中2時間、午後1時間、テーブルでパソコンに向かい仕事をします。娘が帰ってからは、パソコンはしまい、仕事は一切しないです。

Q9 好きな時間は?

娘と出かけたり、家族とだらだらしている時間。家にいるのが好きです。ママ友たちとランチする時間も好きです。幼稚園の話もしますが、誰がカッコイイとか、旦那、家事せえへんナーとか(笑)、しょうもない話をします。

Q10 落ち込んだときには何します?

何するだろう、グチュグチュ夫に八つ当たりする(笑)、おいしいもの食べる。チョコ食べる。喋るか食べるかですね。

せお・まいこ

 
1974年大阪府生まれ。2001年、『卵の緒』で坊っちゃん文学賞大賞受賞。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞受賞。04年、京都府の中学教師採用試験に合格し、10年まで中学の国語教師。18年刊行の『そして、バトンは渡された』(文藝春秋刊)で「本屋大賞」を受賞。夫と5歳の女の子の3人家族。

インタビュー後記

不思議な人。その小説と同じ。「普通」とは少し外れた家族を描くが、重くも深刻でもなく、温かさや明るささえ漂う。人物たちは皆幸せそうだ。瀬尾さん自身も同じ。「普通」以上の不運も幸運も経験してきたのに、淡々と平熱で気負いがない。卑屈ともおごりとも無縁。たぶん、芯が強靱で、肝が据わっているのだろう。

■この記事は、2019年6月11日付朝日新聞朝刊「ボンマルシェ」特集のコーナーの転載です。

「私の役割は『楽しく食卓を囲む時間への貢献』です」タサン志麻さん(料理人)

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