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思いついたら作ってしまう、楽しい時間 「羊毛フェルト作家」の手しごと

思いついたら作ってしまう、楽しい時間 「羊毛フェルト作家」の手しごと

「梅雨」

梅雨の時期。外に出て行く気分になれない、お休みの日には、雨の音を聞きながら、お家で新しいことを始めてみませんか?
「羊毛フェルト」と出合い、夢中で作り続けて気づいたら「羊毛フェルト作家」となっていた和田浩之さん、砂千(さち)さんにお話を伺いました。

こだわりの詰まった、ほっこり愉快なフェルトのぬいぐるみ

羊毛フェルト作家、「アデリアエエンジニアリング」と「あでりい」として活動するご夫婦。「アデリアエエンジニアリング」こと浩之さんの作品は、クスッと笑ってしまう、ちょっとヘンテコなゆるいキャラクター。「あでりい」こと砂千さんが作るのは愛らしいぬいぐるみ。作風は違えど、2人の作り出すぬいぐるみや雑貨はどこかほっこりする。

もともと趣味の車、自転車、バイクいじりから、自主制作映画の監督・脚本・撮影・編集・小道具・大道具まで1人でこなすマルチなクリエーターだった浩之さん。トランジットで立ち寄ったヘルシンキで羊毛フェルト雑貨に出合い、帰国後すぐに独学で作品を作り始めた砂千さんが出展しているクラフト展を手伝ったり、展示用の什器(じゅうき)を作ったりするうちに自らもフェルト作品を作り出すようになった。

思いついたら作ってしまう、楽しい時間 「羊毛フェルト作家」の手しごと

ウェスタンブーツ型バッグは浩之さんが最初に作ったフェルト作品。左:猫好きの砂千さんの誕生日にプレゼントした猫と魚モチーフのバッグ。右:砂千さんのお気に入り、ムンクの『叫び』モチーフのもの

「妻に作品のアイデアを提案しても作ってくれないんです。思いついたものは、実際に完成した様子をすぐに見たいという気持ちが強く、材料の羊毛フェルトも家にいっぱいあったので自分で、インターネットで手法を検索しながら独学で作り始めました」

「だって、『アダムとイヴの柄でウェスタンブーツ型バッグ』って言われてもわかりませんよね? だから自分でやって」と、砂千さんは笑う。

浩之さんの作品は、一見しただけではよくわからない、これは何? と聞きたくなるような不思議なものばかり。

「ぬいぐるみを作るときには、見た目の可愛さはもちろんですが、抱き心地も大事です。例えば、パンダの赤ちゃんは成長が早いので、ようやく黒い模様がわかるちょうど両手に乗るぐらいの生後3週間の姿の作品では、大きさや重量感、実際に抱いたらこんな感じかなという触り心地を想像して作りました」

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生後3週間のパンダの赤ちゃん

まずは本物の姿に近づけるというが、そのリアルさを追求する視点は独特だ。

「動物全般なんでも好きでよく作ります。猿好きにはたまらないアイアイは、その習性も魅力的なんです。針金のように細長い中指を使って木の穴の中の虫を釣り上げて食べるので、その指の作りにこだわりました。他にはタヌキだったら、誰もがイメージするフワフワの冬毛のものではなく、毛の生え変わりで薄くなって痩せた夏毛のタヌキを作ります。明らかに可愛い動物だと、当たり前すぎて、わざわざ僕が作らなくてもいい気がしてしまうんです」

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昔から童謡の中で歌われるアイアイ。餌の捕獲の習性に着目した手の形、実はフサフサした尻尾などのリアルさにこだわった

ペンギン好き。好きだからペンギンのリアルな動きをアナログで表現してみた

作家名の「アデリアエエンジニアリング」と「あでりい」は、アデリーペンギンからとったもの。アデリーをまねたアデリアエと、布やフェルトなどぬいぐるみとは程遠い、機械製作所のような言葉、エンジニアリングを組み合わせ、ギャップを表現した。名前からも、作品からもペンギン好きということがうかがえる。

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ほぼ原寸大のキングペンギンは、アナログな仕掛けで陸上と水中それぞれの動きを実現。大人から、ヒナが大人に変わる途中段階のものまで増殖中。過去には「ペンギンアート展」にも出品

「ペンギンの置物やぬいぐるみはどれも似たようなポーズで本物感がない。でも、ちょっと動くだけで、生きているような感じが出せるんです。歩くペンギン君のシリーズは、歩くときの頭の伸び縮みや揺れをちょっとした傾きや振動で表現できるように改良を重ねました。一番のポイントは、付け根を回しながら両手を広げる動きです」

子供の手押し車のおもちゃの要領で押しながら歩くだけで、まるでペンギンのお散歩をしているような気分に浸れる。

ペンギンのお散歩

「電気を使うとスッキリ細かい仕上がりにはできますが、ガチャガチャぎこちない方が味がある。デジタル時計と機械式時計の違いに似ていて、構造自体の面白さも魅力だと思います」

そのままでは面白くない。ギミックを効かせる

浩之さんの創作アイデアは見たり、聞いたり、手にしたあらゆるものから浮かんでくる。動物に加え、妖怪の件(くだん)、男性の人魚、盛りをすぎた中年の覆面レスラー、オオカミの着ぐるみに入った赤ずきんなど……感性のアンテナにひっかかるものは幅広い。なかでも、ひときわ目を引いた阿修羅像について説明してもらった。

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「これは阿修羅像に扮している“コスプレの人”なので、取り外し可能のお面と4本の腕を装着しています。やはり阿修羅像と言えば、一番魅力的なのは興福寺の像なので、体を赤い色に塗って、お面は三面ともアンニュイな表情にしました。しかも、ちょっと雑な性格なので、耳のわきには塗りムラがあるんです(笑)」

真剣な解説にもかかわらず、着眼点のユニークさに思わず吹き出してしまいそうになる。

「笑いを狙っている訳ではありませんが、実はこうなんです、と種明かしは入れたい。同じモチーフを扱うものは出回っていますが、あまり魅力を感じないので、自分が納得のいくような形で、どこにもないものを作りたい。だからいろんな要素が複合的に絡み合った、ギミックのある作品になっているんだと思います」

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日本各地に伝わる半人半牛の姿をした妖怪、件(くだん)のパペット。絶対に外れない不吉な予言を残して死ぬという厄災の前兆とされる存在を、不気味になり過ぎないように仕上げたつもりが、手を入れて口が動く表情はやはり奇妙

また、インスタグラム@adeliaeeng で定期的に投稿されている、羊毛刺繍(ししゅう)のコースターシリーズも代表作の一つ。

「大きな作品が完成した後、クラフト展までに余った時間でできる簡単なものを、と埋め合わせで作ったので、最初はシンプルな絵柄でしたが、やっているうちに何かが起こっている情景や、日常の一場面を作り始めたら面白くて。気づくと1コマ漫画みたいになっています」

グラスを持ち上げて、絵が見えてきた時、そこから一つ会話が始まる。

「そんな風に使ってもらえるとうれしいです」

ところで、一枚おいくらですか? と尋ねると「当初600円でした」。
取材チーム一同「えーっ」と声をあげた。「今は、正規料金をつけているつもりなのですが、やっぱりお客さんに『安くないですか?』と言われます。でも、これ以上値上げすると、以前から買ってくださっているお客さんたちに申し訳ないから。そこは絶対に決めていることなので……。値段をつけるのは難しいです」

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愛情をトッピング(左)、御料車(右)

アイデアが浮かんだら、作らずにはいられない

幼少時代から、実家にあったレゴブロックで欲しいものは自分で作るというのが当たり前。ものを作るという行為は浩之さんにとって、ごく自然なことだった。

「もの作りの意味を考えようと思わないぐらい日常的なことで、求道心や義務感ではなく、やりたいからやっているというのが出発点です。ただ、ここ数年はたくさん作るのが辛くて、友人にはいつももうやめると言っていますが、結局、アイデアが浮かんだら作りたくなってしまう。もともと工作や機械いじりが好きだし、思いつくから仕方がないという感じです」

思いついたら作ってしまう、楽しい時間 「羊毛フェルト作家」の手しごと

使用する道具は「羊毛フェルト用ニードル」と刺繡(ししゅう)をするときに敷くスポンジマット。羊毛を縦横に並べて層を作り、せっけん水をかけてビニールでゴシゴシ。フェルト化されたものにフェルト用ニードルで刺繡していくという工程

とはいえ、子育てをしながらでは、制作時間が限られているため、クラフト展への出展が近づくと、時間を捻出するのに苦労している。また、数ある工程の中では、時間と労力がかかるわりには楽しくない作業も多い。

「面倒くさくないということは、簡単にできることをやっているから。思いついたアイデアが自分ですぐにできる範疇(はんちゅう)の外にあるとしたら、必ず面倒くさい作業は出てくる。だから、面白いものにはつきものとして、それもやむなしと受け入れています。チクチク縫って、最後に顔を作ってイメージが見えてきた時は一気に盛り上がります」

今回の取材に合わせて、梅雨というお題で制作したコースター。「窓の外は雨。テレビをつけると週間天気予報ではずっと雨マーク。大きな望遠鏡を手に天体観測したくてもできない、がっかりしている様子を作りました。タイトルは『星空が見たい』です」

おのおのが作りたいものを作る、同じフェルト素材でもまったく異なる世界観を紡ぎ出す2人。家の中でゴシゴシ、チクチクと作っては、車の中いっぱいにペンギンたちを乗せて、クラフト展への旅は続く。

(文・佐々木真純/撮影・矢島宏樹/作品画像提供・アデリアエエンジニアリング)

思いついたら作ってしまう、楽しい時間 「羊毛フェルト作家」の手しごと

アデリアエエンジニアリング http://www.adeliaeeng.com
あでりい http://www.adelie-tubuiro.com
作品の購入は各地のクラフト展への出店先で(イベントスケジュールは随時更新。詳しくは上記のwebサイトをご覧下さい)。
砂千さんが理事を務めるNPO法人ら・ら・らが運営する「楽ちん堂CAFE」で行われる不定期のイベントでも販売しています。

作品のフォトギャラリーは下部へ ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。

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