花のない花屋

「夫の世話をサボっちゃだめ」母の入院時に帰国を止めた父

〈依頼人プロフィール〉
高橋レスマイスター綾子さん 57歳 女性
アメリカ在住
専業主婦

    ◇

国際結婚をして、今年で25年が経ちました。勤めていた会社を辞め、アメリカに語学留学をしようと決めたのが20代後半のとき。「今さら何をするんだ?」と上司に反対されながらも、アメリカに渡り、そこで出会ったのが今の夫でした。

両親に結婚することを告げたとき、父親はよろこびながらもこう言いました。

「結婚するということは、お前が嫁ぐということ。だから、これからは日本の実家より、自分が作る家庭が一番になるんだよ」「夫を何よりも大事にするんだよ」。

結婚後もことあるごとに父にそう言われていたのですが、やはりどうしても日本の実家に行きたいと思うこともあります。その最たるものが、一昨年、母が股関節の手術を受けたときでした。

母は手術を受けて順調に回復していたものの、入院中に転倒、同じ骨を骨折してしまいました。遠くにいた私は心配がつのり、父に「今すぐ帰る! 私が母の面倒を見る」と言い張りました。が、やはり頑固な父の主張は変わらず。

「飛行機に乗ってまで来る必要はない! 看護婦さんが看ているし、俺とお前の弟で世話は足りる」「命が危ないわけじゃないから心配するな。お前も自分の家があるだろう? 自分の夫の世話をサボっちゃだめじゃないか」等々……。

結局父に強く止められ帰国はあきらめましたが、遠くから何もできない自分に罪悪感がつのってヤキモキしていたとき、ふと「花が好きな母に、毎週花を送ったらどうだろう?」と思いつきました。

ところが、いざ調べてみると病室に生花を持ち込めないことが判明。泣く泣く断念し、代わりに花のモチーフがついた豪華なグリーティングカードを毎週送ることにしました。そして母が回復するまでの間、3カ月間にわたってアメリカからカードを送り続けました。

母は今ではすっかり元気になり、父や弟と外食や散歩にでかけ、毎日楽しく過ごしているようです。とはいえ、一番大変なときに母に会いにいかなかったということ、そして花さえ届けられなかったというダブルショックがいまだに心にひっかかり、ずっと気になっています。

そこで、今さらではありますが、がんばってくれた母と、母を支えてくれた父と弟へ、今度こそ豪華な生花を贈りたいと思い筆をとりました。

父は89歳、母は86歳。二人とも庭いじりが好きで、昔は大好きなバラをよく育てていました。今でもバラが好きなので、もしできれば、お日様のまぶしさで気分があがるような、光を感じるバラの花束を作っていただけないでしょうか。淡いトーンで、控えめな中にも強さがあるとうれしいです。花を通して「私も遠くからいつも家族を思っているよ」という気持ちが伝わりますように……。

「夫の世話をサボっちゃだめ」母の入院時に帰国を止めた父

花束を作った東さんのコメント

ハッピーなエピソードでした。病気を乗り越えて元気に過ごしているお母様と、支えてくれたお父様、弟様への感謝の気持ちを込めた花束です。花材はバラ、ゼラニウム、アイビー。

ガーデン風の花束を意識しており、変わったかたちのバラや木のみを採用。まわりは、アイビーのツタをまいて、全体的に淡めな雰囲気を醸しています。

「夫の世話をサボっちゃだめ」母の入院時に帰国を止めた父

「夫の世話をサボっちゃだめ」母の入院時に帰国を止めた父

「夫の世話をサボっちゃだめ」母の入院時に帰国を止めた父

「夫の世話をサボっちゃだめ」母の入院時に帰国を止めた父

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

「夫の世話をサボっちゃだめ」母の入院時に帰国を止めた父

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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