鎌倉から、ものがたり。

土日のみオープン。朝が似合う134号線「まつなみコーヒー」

 夏の湘南。鎌倉から藤沢、茅ヶ崎に抜ける海沿いの国道134号線は、海、青空、サーファーの3点セットで、季節の最前線を映し出す。

 その国道134号線、松波交差点のすぐそばに、週末だけオープンする「まつなみコーヒー」がある。

 営業時間は土曜、日曜の朝7時から午後3時まで。場所は、店主の高見澤あやこさん(48)が暮らす一軒家のガレージ。この家は、高見澤さんが夫の治さん(45)と経営するアパレル雑貨会社「シャムロックジャパン」のオフィス&ショップ兼用になっており、ガレージにはオリジナルの靴下をはじめ、帽子やアクセサリーなどの雑貨類がたくさん。まるで、大きなおもちゃ箱のようだ。

 その奥に小さなキッチンがあり、高見澤さんが丁寧に淹(い)れてくれるコーヒーや、その日のサンドウィッチをテイクアウトできるようになっている。

 そのまま、国道を渡って鵠沼海岸に行ってもいいし、店に用意された椅子に座って、ひと息つくのもいい。

 国道を走るバイクの爆音。ラジオから流れるInterFM897。キッチンから聞こえる水音――。防砂林を渡ってくる海風とともに、いろいろな音をポーチで聞いていると、夏がどんどん近くなってくる。

 長く美しい海岸線を持つ鵠沼、辻堂の海岸がすぐ目の前とあって、お客さんはサーファーやサイクリスト、それからご近所の住人が多い。
「手ぶらで立ち寄っていただけるように、前払いのコーヒーカードも作りました。散歩の途中にワンちゃんと一緒にとか、ウェットスーツのままとか、気軽にふらっと来ていただいて、そこで一緒に立ち話をすることが面白いんです」

 高見澤さんが語るように、ここは、まさしくネイバーフッド(ご近所)の店。畑仕事をしている常連さんには、朝採りのレタスを持ってきてもらって、看板の下で無人販売。散歩の途中に、柔らかくみずみずしいレタスがワンコイン100円で買える、などというところにも、親近感がただよう。

 高見澤さんが「まつなみコーヒー」を開いたのは、2016年の春。シャムロックジャパンで扱う商品の直売所をつくりたかったからだ。
「あと、私がコーヒー好きだったので、だったらテイクアウトのカフェも付けよう、と。それで、ガレージのショップ&カフェだったら、『ウィークエンド』と『朝』の気持ちよさが似合うだろうな、と。内装業者さんに頼む予算はなかったので、友人の手を借りながら、自分たちで少しずつ、ガレージを改装していきました」

 そもそも、この家に引っ越してきたのは、大きなガレージが何よりも魅力的だったからだった。
「もう17年も前になりますが、当時は夫とともにオートバイが趣味で、とにかく大きなガレージにあこがれていました。海は二の次で、通りを歩くときも、日傘をさしてという具合だったのですが、それが、いつの間にかサーフィン大好きに変わり……って、やっぱり海が目の前ですものね」

 改装のときに、大工仕事で貢献してくれた友人とも、サーフィンを通して知り合った。その夫妻とは、この6月から住居部分をシェアし、新しい暮らしもはじまったばかりだ。

 国道沿いの一軒家のガレージに、顔見知りが集まって……と書くと、常連だけの場所と思われそうだが、そんなことはまったくない。そこには、明るい笑顔の高見澤さんがいて、あなたを友人のように迎えてくれる。知らないと通り過ぎてしまいそうなスポットに、ちょっとうれしい時間がひそんでいる。

まつなみコーヒー
神奈川県藤沢市鵠沼海岸4丁目13−12 松波コーヒー

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

大磯の寄合所、コーヒーとゆっくり暮れる午後。「今古今」

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