東京ではたらく

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

職業:パーソナルファッションアドバイザー
勤務地:東京の自宅
仕事歴:2年半
勤務時間:不規則
休日:不規則

    ◇

「スタイリスト」と聞くと、テレビや雑誌の現場で衣装を用意する人、というイメージが強い。けれど同じスタイリストという職業でも、モトコさんの働き方は少し違っている。

「私のお客様は一般の方々で、いわゆるパーソナルスタイリスト。しかもお客様と直接お目にかかることはなく、やりとりは全てオンラインなんです」

モトコさんが働いているのは、洋服のレンタルサービスなどを行う「エアークローゼット」という会社。月額の会員費を払えば一度に3着ずつ、制限なく服を借りられるというから驚く。

利用者は自分の体型やそれにまつわる悩み、服を着るシーンや、テイストや色の好みなど、細かい情報を登録し、その要望に合わせてスタイリストが服をセレクトするという仕組み。なんと10万着以上ある服の中から、その人のサイズや好み、お悩みにあったスタイリングを組むのだという。

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

エアークローゼットのオフィスには自社が提供する服のディスプレーが。サイズやファッションに関するお悩みや季節やトレンドに合わせて、スタイリストがセレクトした服が毎回3着届くというレンタルサービスを行う

「ご登録いただいたサイズや好みの傾向などに沿って、お客様の情報とウェブ上にある服を見ながらセレクトしていきます。お客様によっては自由回答の欄により細かいお悩みやご要望を書いてきてくださる方もいらっしゃるので、そこをじっくりと読み込んでスタイリングしていきます」

仕事をするのは主に自宅。週に4~5日、稼働できる時間を申告しておくと、その時間帯に会社を通してスタイリング依頼が来る。ストックされている服は10万点以上。その中から利用者にマッチしそうなものをAIが選定。ある程度点数が絞られた状態で、スタイリストがより具体的なセレクトを行う。

「雑誌やテレビのスタイリングですと、必ず現場にうかがわないといけませんが、この仕事の場合は自宅で、さらに時間も融通が利きます。小学生の子ども2人を育てている私にとっては、こんなにありがたいことはないんです」

実はモトコさん、スタイリストの仕事を始めたのは子どもを持ってから。憧れの職業に思い切って挑戦しようと思えたのも、オンラインスタイリングというこれまでにない働き方に巡り合えたからだ。

少女時代からファッション雑誌を見るのが大好き。大学卒業後は縁あって、エルメスの日本支社に入社、店舗での接客を3年半ほど経験した。

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

外資系ブランドで接客を担当していたモトコさん。立ち居振る舞いや話し方、随所に丁寧さと上品さがあって、前職に真摯(しんし)に向き合っていたことが伝わってくる

「決してブランド好きの女子大生というわけではなかったのですが(笑)。たまたま参加した会社説明会で企業理念に共感したのがきっかけで。

エルメスは2代、3代と長く愛用してくださるお客様の多いブランドで、接客という面では非常に多くのことを学ばせていただきました。商品知識はもちろん、素材や色についてなども深く学ぶ機会があって、それは今の仕事にとても役立っています」

その後、食品関係の商社に転職。12年間勤務したうち、7年ほどを社長秘書として働いた。

「転職の理由は、接客以外にデスクワークなど、より幅広い仕事を経験したいと思ったから。最初は営業の補佐的な仕事をということで入社したのですが、前職の接客経験を買っていただいて秘書に。商社ということで様々な方と接する機会があって、それも大きな経験になりました」

転機となったのは出産と育児だった。

「ありがたいことに産休と育休を2度も取らせていただいて、復帰後も時短勤務をさせていただいていました。でも、やっぱり仕事と育児のバランスを取るのは難しくて。

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

スタイリングはオンライン上で洋服の写真や詳細情報を見ながら行う。実際に洋服に触ることができない分、素材感やシルエットなど、細部のディテールまでしっかりと情報をチェックする

とくに2人目が生まれてからは大変で、徐々に他の仕事を探したほうがいいんじゃないかと考えるように。とはいえ、12年近く同じ会社で働いてきましたから、今度ばかりは全く違うフィールドに飛び込む勇気はなかなか出なくて……」

そんな時、知人から教えてもらったのがエアークローゼットだった。

「在宅でスタイリストの仕事ができるなんてと最初は半信半疑でした。第一、スタイリストとして働いた経験なんてありませんから、本当に自分に務まるのかどうか、とにかく不安でしたね」

それでも、どうせ新しく始めるなら本当にやりたかったことに挑戦したい。モトコさんは商社で働きながら、スタイリストとして活動するための道筋を探した。

「例えばパーソナルコーディネーター協会という団体に連絡をして、スタイリストの経験を積む方法など、色々とアドバイスをいただきました。まずはSNSやブログを使って自分のスタイリングを発信してはどうかと。

それで早速始めてみたら、徐々にお買い物の同行やパーソナルスタイリングをして欲しいという依頼がちらほらと舞い込み始めて。自分が個人で発信したものにそんな反応がくるなんて思ってもみなかったので驚きましたし、うれしかったですね」

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

月に何度かはオフィスを訪れて、スタイリスト仲間と情報交換をしたり、新しく入った服のサンプルを確認したりする。「さまざまな年齢層のお客様がいらっしゃるので、20代のスタイリストさんとお話ししたりするのはとても参考になるんです」

徐々に経験を積み、12年間勤めた商社を退職。自宅でも仕事ができるということで、本格的にエアークローゼットでスタイリストの仕事を始めた。37歳のときだった。

「それまで個人でやっていたパーソナルスタイリングとの大きな違いは、依頼してくださる方に実際にお目にかかれないこと。体形やその方の雰囲気など、細かい部分を目で見て確かめられないという部分では難しいなと感じることもあります。

それでも、オンラインだからこそ体形やファッションにまつわる悩みを素直に打ち明けられるという部分もきっとある。だからこそ、そこを丁寧にくみ取っていきたいなといつも思っているんです」

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

自宅に好みの服が届くので、誰の目も気にせず試着ができるのが利点。いいなと思った服は買い取りも可能

うれしいのは、服を受け取った利用者からの言葉。

「普段着ないテイストの服を着てみたら夫からほめられた、ですとか、職場の方から『いつもと違うね、いいじゃない』と言ってもらえたなんて言葉をいただくと、心からよかったなと思います。

それを受けてご本人が、これまでは似合わないと思っていたけれど、こういう服も今度は買ってみようと思ってくれたら、そんなに嬉しいことはないですね」

利用者の中には、そこまで細かな好みを書いてこない人も少なからずいる。そんな時は、送付する3着のうち2着は無難なものを、1着は少し冒険したものを入れるようにしている。

「とくに30代後半以降のお客様は、『こういう服が好き』というポジティブな情報よりも、『二の腕が気になる』『明るい色の服が似合わない』など、ややネガティブな情報が多くなる傾向にあります。私も同年代なのでよくわかるのですが、歳を重ねるとファッションで冒険をするのには勇気が必要になってくるんですよね。

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

オフィスの共有スペースにはブランコが。普段は自宅で作業をしているが、気分転換にここでパソコンを開くことも

その点、レンタルサービスなら、試着して気に入らなければすぐに送り返して、新しいものをオーダーできます。誰に見られることもありませんから、自宅で好きなだけ新しい服にチャレンジしていただけるんです」

着たい洋服を着られる喜び。それはときに大きな力をくれる。それを改めて教えてもらった出会いがあった。

「30代後半の女性で、初めて依頼を受けた時、プライベート情報欄に『私は生まれつき全盲です』というメッセージを見つけたんです。私はそれまで目の不自由な方と接したことがなかったので、正直戸惑いました。

でも、メッセージを読んでいくと、普段は夫がお洋服を選んでくれていること、それにはとても感謝しているけれど、男の人が選んだ服が職場でどう見えているのか少し不安だということ。そして何より、もっと主体的にファッションを楽しみたいというお気持ちが書かれていて、これはぜひスタイリングして差し上げたいと強く思ったんです」

パーソナルファッションアドバイザー:モトコさん(39歳)

パーソナルスタイリングの傍ら、ウェブでファッション関連などのコラムも執筆する。オンラインを飛び出して、さらに幅広いフィールドで活動するのが目標

洋服を送ってしばらく、彼女から届いたメッセージは忘れられない。

「職場の方に、いいじゃない!と言ってもらって、とてもうれしかったと。最初は目のこともあって、依頼しようかどうか迷われたそうなんですけど、やっぱりやってみてよかった、これからもぜひレンタルを続けたいとおっしゃってくださって。ああ、この方にとってファッションは毎日を前向きに生きるための大切なものなんだなと思ったら、私ももっともっと勉強していかなくちゃと、背筋が伸びる思いがしたんです」

最近はモトコさんのスタイリングを気に入って、指名で依頼をしてくれる人も増えた。それが何よりのモチベーションの源になる。

「子どもたちがもう少し手がかからなくなったら、また対面のパーソナルスタイリングもやりたいと思っているんです。お客様の数だけ服にまつわる悩みも喜びもあります。そのひとりひとりの気持ちに寄り添って、日々をポジティブに生きるお手伝いができたらいいなというのが大きな目標ですね」

たかが服、されど服。一着の服が人の人生に大きな変化をもたらすことを、この人は誰よりもよく知っている。

東京ではたらく女性へ、パーソナルな5つの質問

◎休日はどう過ごしている?
子どもの習い事送迎や、たまにリフレッシュのために行くよもぎ蒸し

 

◎東京で好きな場所はどこ?(理由も)
日本橋や銀座。かつての職場で、なじみがあり、新旧問わず良いものに触れ合える街だから

◎最近うれしかったことは?(できれば仕事以外で)
子どもと夫に夕食を作ってもらったこと

◎100万円あったら何に使う?
家族でカリブ海クルーズ

◎今日の朝ごはん、何食べた?
ピザトースト&コーヒー

■airCloset(エアークローゼット)

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
    http://kasanenogawa.net/

旅行系SNS運営会社:堀真菜実さん(33歳)

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化粧品会社勤務/横山優さん(35歳)

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