相棒と私

石橋静河さんの相棒は「根っこの感覚をわかってくれる唯一無二の存在」 

石橋静河さんの相棒は「根っこの感覚をわかってくれる唯一無二の存在」 

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回登場してくださったのは、映画「いちごの唄」でヒロインを演じる石橋静河さんです。

私:石橋静河(俳優)
相棒:優河(シンガーソングライター)

ゆうが
1992年2月、東京生まれ。2011年からシンガーソングライターとしての活動を開始。15年、1stオリジナルアルバム「Tabiji」をリリース。16年3月から全国ツアー「舟の上の約束」を開催。17年2月、ミニアルバム「街灯りの夢」をリリース。18年、2ndアルバム「魔法」をリリース。CMナレーションなどでも活躍。全国でのツアーライブを精力的に行う。5月22日にリリースされた「めぐる」は、映画「長いお別れ」(公開中)の主題歌となる。TVCM、ナレーションやサウンドロゴ歌唱など幅広く活躍。

「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」(2017年)を見た時、池松壮亮さんの相手役、ガールズバーで働く看護師を演じた石橋静河さんから目が離せなくなった。実際この映画で多くの新人賞を受賞。いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍を見せる。7月5日公開の「いちごの唄」ではヒロイン・千日(ちか)を演じる。

そんな石橋さんが相棒に選んだのは、3歳違いの姉でシンガーソングライターの優河(ゆうが)さん。姉が相棒になったきっかけは、石橋さんが15歳で留学したことだと言う。

「私は兄と姉がいるんですが、私が留学したその年に3人とも別の国に留学しました。最初に姉が10カ月くらい、そのあとに兄、そして私が米国へ。中学生ごろまで姉とは毎日喧嘩(けんか)ばかりしていましたが、留学をきっかけに初めてきょうだいが離れ離れになる経験をしたことで、お互いの存在がすごく大切だったと気付きました」

石橋静河さんの相棒は「根っこの感覚をわかってくれる唯一無二の存在」 

優河さん

石橋さんは米国とカナダのバレエ学校で計4年間ダンスを学んだ。最初の米国ボストンでの2年間は、ほぼずっとホームシックにかかっていた。その時、気付いたことは自分にとって家族が一番大切だということ。自分に一番歳が近い優河さんはその間、石橋さんをずっと支えてくれたと言う。

「そこから姉妹なんだけどそうではない、親友のような大事な人っていう関係性が始まった気がします」

何しろ石橋さんは15歳。ホームシックの妹を姉も心配したに違いない。優河さんは妹のために「アルバム」を作ってくれた。手のひらを合わせたくらいの正方形のノートの1ページに1枚、いろんな場所や風景などの写真を撮っては貼り、そこに「すごくすてきな言葉が書いてあった」と石橋さん。

「物語みたいになっていて、泣きたい時はいつもそれを開いていました。今見てもすごくすてきなアルバム。大切にとってあります」

両親の世界であるお芝居はやらないと決めていた

帰国後、石橋さんはダンサーとして活動を開始。だが、実際に舞台に立てる機会は多くはなかった。ダンサーとして食べていけるのかと将来に悩み始めたその頃、邦画を観(み)るようになった。ご存じの方も多いだろうが、ご両親は俳優の石橋凌さんと原田美枝子さん。有名俳優が親だからこそ、石橋さんは子どもの頃から「(両親の世界である)お芝居は絶対に自分はやらない」と決めていた。芝居には近づかなかった。

そんなかたくなな思いも米国留学で崩れた。ニューヨークで舞台を観る機会があり、「芝居ってこんなに面白いんだ」と気付かされた。それをきっかけに徐々に芝居に興味を持つように。日本で見始めるようになった邦画は「日本にもこんなに面白い作品があったんだ」と新たな道を開くきっかけとなった。

「うちの家族は誰もやりたいことに対して否定することがありません。姉もこの仕事を『いいじゃない、やってみなよ』と勧めてくれました。そこからずっと応援してくれています」

石橋静河さんの相棒は「根っこの感覚をわかってくれる唯一無二の存在」 

デビューは姉の方が先だ。異業種といえども、人の心を動かす芸能にかかわる者同士。役者という職業に就いたからこそ改めて姉の「すごさ」に感じ入る。まず一つが仕事への姿勢だ。

「姉は自分のやり方で音楽をやっています。誰かに言われたからこうするとか、いい意味で自分を曲げることがありません。自分から出てきた音楽を純粋につくっている。全くブレないんです」

そして、性格。石橋さんは優河さんほど誰に対しても心を開き、他人に接する人を見たことがないと言う。

「私自身もすごく優河の歌が好きで、よくライブへ行くんですが、ライブ後は観客のみなさんが温泉に入った後のような、ほわほわで『しあわせ〜』とほぐれた表情になっています。それは、まず姉自身が『ここへおいでよー』と手を開くから、みなさんが反応するんです。

たぶん、自分が傷つくと思うと怖くて誰に対しても心を開くことはできないですよね。私はできません。でも姉は『はい、どうぞ』ってみんなに言えるんです。姉はそうやって生きているし、そうやって人とかかわっている。それが歌にもそのまま出ているので、それはすごいなって純粋に思いますし、まねできないって思います」

もっと力を抜いて生きればいいと思えるのは

姉から仕事でアドバイスされた記憶はほとんどない。だが、これほど慕う姉から影響されないことはない。

「いろんな人に会うことや、いろんなことをしていくうちに、どこか自分に嘘(うそ)をつかなければいけないとき、思わぬところで自分を奮い立たせなければならない瞬間があります。そうすると、自分がどんどん濁っていくし、役者としてもダメな気がして。

そうした自分が曇っている時に、姉の歌を聴いたり、姉に会ったりすると、あぁこんなふうにしなければダメだとか決めつけずに、もっと力を抜いて生きればいいんだと思える。自分とある意味、対極の性格だから助けられる部分や気づかされる部分がすごくあります」

何より石橋さんには、優河さんとは言葉にせずともわかりあえるとの思いもある。姉は「自分の根っこの感覚みたいなものを誰よりもわかってくれる、唯一無二の存在」だ。

石橋静河さんの相棒は「根っこの感覚をわかってくれる唯一無二の存在」 

「自分の深いところの感覚を普通にわかってくれる人は友達でもなかなかいない。それが姉妹でいるというのはすごく幸せです。

すべてをわかり合える人がいるかいないかでは、人生にすごく大きな違いがあると思う。私は姉がいなかったら全然違う人格になっていただろうし、全然違う生き方をしていたのではないか。留学してダンスをしてお芝居をして、という流れは全く別のものになっていたと思います。そう考えると、自分が想像する以上に姉の存在は大きい」

まさに“相棒”なくして俳優・石橋静河は成り立たなかったというわけだ。

プロセスを継続できる人が相棒

ところで、そんな石橋さんにとって相棒と言えば、「いつも一緒にいる、継続した関係性というイメージ」だと言う。

「例えば、一つの作品をつくる場合、ゴールに向かう途中で自分が傾いた時に助けてくれる人や、『それは違うと思う』などきちんと自分の意見を言える人。意見することで悲しんだり傷ついたり。そんなこともあるかもしれませんが、意見はより良い作品をつくるためのプロセス。そうしたプロセスを継続できる人が相棒なのかなと思います」

俳優は絶対的に1人で考えなければいけない時間が必要。石橋さんからその言葉を聞いたとき、合点がいった。役になり切るために1人で戦うことも強いられるからこそ、支えになる存在が相棒になり得る、と。

「不安な気持ちが強くなる時に、姉の曲を聴くとすごく励まされるんです。特別な瞬間ではなく、『助けて』と言えば『はいよ』って来てくれる。そんな安心感がある。いつも相棒がそばにいる感じです」

石橋静河(いしばし・しずか)
1994年、東京都出身。4歳からクラシックバレエを始め、09年より米国ボストン、カナダ・カルガリーにダンス留学後、13年に帰国し、コンテンポラリーダンサーとして活動を始める。15年から舞台や映画に活動を広げ、16年にNOD・AMAP舞台「逆鱗」に出演。17年に初主演作「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」などで、第91回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など数多くの新人賞を受賞。18年にNHK連続テレビ小説「半分、青い。」に出演し注目を集めた。主な出演作に、「PARKS パークス」「うつくしいひと サバ?」「きみの鳥はうたえる」「泣き虫しょったんの奇跡」「生きてるだけで、愛。」「二階堂家物語」など。10月には「楽園」が公開予定。

石橋静河さんの相棒は「根っこの感覚をわかってくれる唯一無二の存在」 

映画『いちごの唄』
「ひよっこ」の脚本を手がけた岡田惠和と、銀杏BOYSの峯田和伸がつむいだ同名小説を映画化した青春物語。コウタ(古舘佑太郎)はある日、偶然中学時代の親友伸二と「天の川の女神」と崇めていたクラスメイト千日(石橋静河)と再開する。その日は七夕。奇しくも伸二が千日を交通事故から守って死んだ命日だった……。「この映画は、峯田さんの7曲がベースにあったので、撮影前からこの7曲をよく聴いていました。演技が音楽に助けられる事が結構あるんです」と石橋さん。すごくやりがいのある役だったと言う。また、「自分の中で役や作品に向き合う時にもっと色々な方法を持っていたいなと思うきっかけになった作品です」とも語り、今後の活躍にますます期待が持てそうだ。
監督:菅原伸太郎 出演:古舘佑太郎、石橋静河、和久井映見、光石研、清原果耶ほか。7月5日から東京・新宿ピカデリーほか全国順次公開。配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会

PROFILE

坂口さゆり

生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画評や人物インタビューを中心に、金融関連や女性のライフスタイルなど幅広く執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な紙媒体に、「朝日新聞」(朝日新聞社)「AERA」「週刊朝日」(以上、朝日新聞出版)「Precious」「女性セブン」(以上、小学館)「プレジデント」(プレジデント社)など。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。

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