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ふと何かを思うための一呼吸『お茶の時間』

ふと何かを思うための一呼吸『お茶の時間』

撮影/馬場磨貴

今回は、益田ミリさんの文庫『お茶の時間』をご紹介致します。益田さんは、大阪府生まれ。漫画、エッセー、小説と様々な形態で、複数の作品を世に届けて下さっています。緩やかなタッチの絵が特徴で、皆さんもどこかで目に留められたことがあるのではないかと思います。

益田さんの作品は、当然、前々から知ってはいたものの、正直きちんと読んだことはなく、パラパラとページをめくったことがある程度でした。けれど、以前より私の担当しているお茶の棚で置いているロングセラーとも言えるこの一冊が、つい先日文庫化になったことと、先日、同僚から聞いた益田さんの作品にまつわるお話に感動したタイミングでもあり、改めて読んでみようと思いました。

読書したいとき、疲れたとき、のどが渇いたとき、デートのとき、友人や家族と談笑したいとき、ほっとしたいとき、何かをはじめる前の小休止のとき、打ち合わせやひとり静かに仕事をするとき。お茶の時間は、様々な理由でもたらされます。

人生の中でのお茶の回数や時間を計測したこともないですし、今この瞬間まで考えたこともなかったですが、この時間、想像以上に膨大な気がしてきました。皆さんはいかがでしょうか。

カフェの光景を、温かくユーモラスに

益田さんも、ひとりで、打ち合わせで、息抜きでお茶の時間を過ごしている中で、隣の席の女性たちの会話に耳を傾けてしまったり、初デートと思われる初々しいカップルをほほえましく思ったり、親子の会話に心の中で突っ込みを入れてしまったり。その目線は、益田さん独自のものであり、私たちが日常の中で同じように感じていることを、具現化して作品にして下さっているように思います。読み進めながら、思わず「うん、うん、あるよね。そういうシーン!」と言いたくなってしまいます。

私は、先日、友人たちと話をしていたら、なんと6時間も経過していることに気が付き、皆でゾッとしたことがありました。ケーキセットだけで、6時間。私たちよりも、お店の方々のほうが、もっとゾッとしていたに違いありません。そして、このエピソードを益田さんに描いて頂いたら、面白い作品になるのではないかと妄想していました。

ふと何かを思うための一呼吸『お茶の時間』

『お茶の時間』(講談社文庫) 著・益田ミリ 583円(税込み)

益田さんの作品は、緩やかな絵のイメージもあり、一見、当たり前の日常をさらさらと描いているようですが、その目線は温かでユーモアがありつつ、様々な感情を丁寧にすくい取っています。難しいことを難しいままに伝えるのは実は簡単で、誰にでもわかるように、真に迫ることを伝える方が、余程難しいことです。益田さんは、後者をされているからこそ、たくさんの読者の方々に愛されているのだと感じました。

「お茶の時間は、ふと何かを思うための、人間らしい時間だった」と益田さんはおっしゃっています。生きていく中で、大切なことはたくさんありますが、「人間らしい時間」を大事に思うことは、忘れてはならないことのひとつなのではないでしょうか。

せっかく、文庫になった本書ですから、本を持って『お茶の時間』に出かけてみてはいかがですか。その空間で、また新たなシーンを目撃することになるはずです。

(文・大川 愛)

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