花のない花屋

「私の人生、これから楽しくなる!」再び夢を追い始めた妹

〈依頼人プロフィール〉
町山明菜さん(仮名) 26歳 女性
新潟県在住
看護師

    ◇

私はいま5歳年下の妹と一緒に住んでいます。毎晩瞑想(めいそう)して宇宙と交信(?)しているような、不思議でかわいい妹です。

妹は幼い頃から絵を描くのが好きで、高校生の頃は美術系の専門学校を志望していました。ところが、高校を卒業する頃に実家が経営していた旅館が倒産。借金を抱えて父は自己破産に陥り、妹は進学をあきらめ、すぐに就職しなくてはいけなくなりました。

しばらくは実家から通勤をしていましたが、母に対してきつくあたっていた父を妹は許せず、さらに家業が倒産したこと、そのせいで進学できなかったことなどで、父に対して思うこともいろいろあったのでしょう……。妹は父とうまくいかなくなり、家を飛び出して私のところへ転がり込んできました。

今はイタリアン、すし屋、ケーキ屋、デパートの美容部員と四つのバイトを掛け持ちしながら、専門学校に行く資金をためています。朝早く家を出て、夜遅くまでずっと働いているような生活ですが、妹は「絵を描きたい」という夢を追いかけ、空いた時間には公園で楽しそうに絵を描き、ギャラリーに持っていって絵を売ったり、東京のアートイベントに参加したりしています。

高校は進学校に通っていたので、大学に行かなかったのは学年で1人か2人くらい。妹は、ときおり学生生活を楽しむ同級生をうらやましく思うようですが、「私の人生、これから楽しくなるんだ!」と目をキラキラさせて夢を語る様子はとてもたくましく、私の自慢です。

とはいえ、夜にこっそり一人で泣いているのも知っています。もともと人付き合いが苦手な彼女が、仕事でいろいろな人とかかわるのは大変なことでしょう。一つ一つの物事をまじめに考えるタイプなので、人生について悩むことも多く、きっとそんな葛藤を絵で発散しているのかな……と思います。

妹はよく「姉ちゃんと姉妹になれて本当に幸せ!」と言ってくれます。そんな妹へ、大好きだよという気持ちと、いつも応援しているよという気持ちをこめて花束を作っていただけないでしょうか。

妹は花の中ではグロリオサが好きで、「こびずに凜(りん)と、力強く咲く様子がいい」と言っていました。今はお金がないので、よく一輪だけ花を買ってきて飾っています。できれば、妹らしく強くて個性的なお花でアレンジしていただけないでしょうか。赤やオレンジ、黄色などの原色を使っていただけるとうれしいです。

私たちはお花が大好きで、いつもこの連載や東さんのインスタグラムを見ています。いつか妹と2人で東京の東さんのお店にお花を買いにいくことが夢です。どうぞよろしくお願いいたします。

「私の人生、これから楽しくなる!」再び夢を追い始めた妹

花束を作った東さんのコメント

若い年齢の方からのお便りは、まだ数が少なく珍しいのでうれしいですね。ありがとうございます。

ご要望のあったグロリオサをメインにして、ダリア、ガーベラ、カーネーション、エピデンドラム、バラをちりばめました。

自分もクリエーティブな仕事をさせてもらっている一人として、「夢を追いかけること」は、苦労や挫折はあるもののとても良いことだと感じています。今の年齢ではなかなか理解できないかと思いますが、幸せなことばかりでは作品づくりにあまりいい影響を与えません。全ては経験なので、ぜひ、前向きに取り組んでみて下さい。職人の世界では大切なことなのです。

「私の人生、これから楽しくなる!」再び夢を追い始めた妹

「私の人生、これから楽しくなる!」再び夢を追い始めた妹

「私の人生、これから楽しくなる!」再び夢を追い始めた妹

「私の人生、これから楽しくなる!」再び夢を追い始めた妹

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

    ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

「私の人生、これから楽しくなる!」再び夢を追い始めた妹

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

産声が聞こえない……。医療的ケア児の息子と、支える夫へ

トップへ戻る

結婚し、別の家庭を築く私。一心同体のように生きてきた母へ

RECOMMENDおすすめの記事