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佐久間裕美子さんが、わざわざ手作り雑誌をつくるわけ「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」

ZINE(ジン=個人で作る雑誌、リトルプレス)の人気が止まらない。世界中でZINEを売り買いできるフェスが開かれ、読み手も作り手も増加の一途だ。アメリカではZINEをコレクションしている図書館は138にのぼり、東京ではこの連休、東京都現代美術館で、ZINEやアートブックを取り扱うアジア最大規模のアートブックイベント「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」が開かれる。
 10年目の今年、出展者は300組。入場規制がかかるほどの人気だ。ネットで簡単に情報が手に入る時代になったというのに、今なぜ人々は手作りの紙媒体に惹かれているのか。
『ヒップな生活革命』『ピンヒールははかない』『My Little New York Times』などの著書で知られるニューヨーク在住のライター、佐久間裕美子さんも、実はZINEに夢中になっている一人。一体、何がZINEの魅力なのか。いまなぜわざわざZINEなのか。その理由を探るべく佐久間さんに話を聞くと、“今だからこそ”という事情が見えてきた。
(インタビュー 宇佐美里圭/撮影 篠塚ようこ)
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 佐久間さんが初めて作ったZINEは2018年10月、バンコクの旅をつづった『キングス・オブ・バンコク/クイーンズ・オブ・バンコク』。あっという間に売り切れた。続いて19年3月には沖縄とアリゾナの旅をつづった『ホピの踊り/沖縄の秘祭』を刊行。7月12日に始まる「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」では、3号目となる『DETROIT AND I BEFORE 2013/AFTER 2013』を発売する。

佐久間裕美子さんが、わざわざ手作り雑誌をつくるわけ「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」

 佐久間裕美子さんがZINEを初めて作ったのは中学生の頃だ。音楽が好きで、ZINEという言葉も知らずに、わら半紙に絵や字を描いた冊子を作っていた。その後20代で渡米し、ニューヨークでライターを生業として長年働いているうち、すっかりそんなことは忘れてしまっていた。

「そんなことができるとは思っていなかったんですよね。でも、あるとき作りたい本があって、でも刺激的な内容だから出すにはまだ早いかな……と悩んでいたら、洋服屋さんの友達に言われたんです。『佐久間さんに会えたら買える本にしてみたら?』って。そうか、それならやれるかも!と、ZINEが頭に浮かんできました」

 そんなとき、ちょうどバンコクへの旅が重なった。

「この旅はあまりに衝撃が大きくて。感じることが本当にたくさんあったので、その熱がさめないうちに、帰りの飛行機の中で原稿を書きました。これでZINEが作れるかもと思い、デザイナーの長嶋りかこちゃんに相談したら、『できますよ!』と言ってくれた。そこから具体的に動き出しました」

3号目はデトロイトがテーマ

佐久間裕美子さんが、わざわざ手作り雑誌をつくるわけ「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」

 とはいえ、一気に書き上げた原稿を後日冷静に読み直してみると、女性が出てこないことに気づいた。男友達に誘われて遊びにいったため、自然とそうなってしまったのだが、「女性の話も入れたい」と再びバンコクへ。そうして出来上がったのが、赤いインクの扉で始まる「キングス・オブ・バンコク」(男性編)と、青いインクの扉で始まる「クイーンズ・オブ・バンコク」(女性編)が真ん中で出合う、A面とB面のあるデザインのZINEだ。

 1冊1500円で発売した初版500部はあっという間に完売。一週間に一度は問い合わせがくるため、200部を増刷した。アリゾナと沖縄の秘祭をテーマにした2号目は、1300円で1000冊を販売。そして、1000冊刷った3号目はデトロイトをテーマに選んだ。

「実は、東京とニューヨーク以外で一番行っている街がデトロイトなんです。自動車産業の衰退とともに、一度壊れた街がどうやって再生していくのか……それが気になってデトロイトのスタートアップ企業や民間企業を取材しているうち、気づいたら20回以上も行っていて。私が書くなら次はデトロイトかな……と思って」

佐久間裕美子さんが、わざわざ手作り雑誌をつくるわけ「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」

 しかし、書くことを生業としている佐久間さんなら、記事を掲載できる既存の媒体はいくらでもあるだろう。なぜわざわざ自分で作る、しかも少部数しか流通しないZINEなのだろうか?

「熱の冷めないうちに、やりたいことがやりたいようにできるのが楽しいんです。本だと、書店に並ぶまでに早くても1年はかかります。そうすると、どうしてもその過程で熱量がどんどん取りこぼされていってしまう。もちろん、その一方で間違いが出たりもしますが、そこは『ZINEなので……』という気軽さもある(笑)」

 とはいえ、スピードで言えばネットの方に軍配が上がる。手作りの紙媒体に書くメリットはどこにあるのか。

「ネットは不特定多数の人が誰でも読める公共のスペースです。だから心理的には一番安全なところへいってしまうんですよね。誰が見てもいいように意識して書いてしまう。紙媒体からの依頼原稿も、仕事である以上自分勝手には書けません。その一方で、ZINEは基本的には手にした人しか読めないし、どこでも手に入るわけじゃない。つまり、とてもパーソナルな媒体なんです。私にとって、ふだんの原稿では書けないパーソナルなことを書けるのがZINEなんです」

 そう、ネットの時代だからこそ、ZINEなのだ。

佐久間裕美子さんが、わざわざ手作り雑誌をつくるわけ「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」

 ZINEを作って気づいたこともある。ふつうなら本を書いても印税はせいぜい1冊につき100円か200円程度。でも、ZINEなら基本的には一人で作って自分で売るので、間に入る人が少ないぶん利益率を上げることができる。

 読者との距離も近く、一方通行ではない交流も楽しい。インターネットの普及とともに、様々な業界で作り手と消費者が直接つながるようになってきているが、それと同じことが本の業界でも起きている。

 また、ZINEは大手の流通にのらないので、書店に置かれることを想定していない。つまり、判型やデザインの制約がないのも面白かった。ZINEが集まるアートブックフェアで売られる本には、豆のように小さな本から大きな本まである。何をやっても完全に自由。ZINEの世界は本の最先端、あらゆる実験が行われている“パンクな場”なのだ。さらにアートブックフェアなどで売るときは、売り手同士の横のつながりが広がるのも醍醐味だった。

 読者との交流の楽しさに味をしめた佐久間さんは、今年から新しい試みとして、「あなたの街に本を持って行きます2019」ツアーも始めた。

「新刊が出るたびに、日本中の本屋や友達のお店をまわってトークをしたり、読者と交流したいと思っているんです。赤字ですけれど、旅や遊びが好きだから。会場で会った人と意気投合して、『うちの街にも来てください』『行くよ!』っていうノリです(笑)。今月も20日に札幌、27日に広島、28日に尾道でトークショーをする予定なんです」

佐久間裕美子さんが、わざわざ手作り雑誌をつくるわけ「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」

 さらに、来年はもっと大きなプロジェクトも画策している。

「車で本を売りながら、日本一周をしたいなあと思っているんです。焼き芋屋さんみたいな感じで。よく親に『寅さんみたいだ』って言われていたんですけど、よく考えたら『寅さんになりたいかも!』って(笑)。スーツケースに本を入れて、フラフラと……。さらに日本中のガラクタ屋をまわって“捨てられたもの”を集め、最後にそれを東京で売る!というプロジェクトも考えています。あえて東京オリンピックのときに地方をまわるのもいいかな……なんて思っています」

 佐久間さんは、以前から簡単にモノを消費し、捨てる行動に問題意識を持っていた。「作ったもの、買ったものは最後まで責任を持って使いたい」という考えから、“捨てられたものを集めてみたい”というアイディアが生まれたそうだ。

 キラキラした瞳で「面白そうでしょ!」と、あたためているプランを次から次へと話す佐久間さんは、本当に楽しそう。

 きっと、「楽しい!」という気持ちを人生の羅針盤として、大きな海を自由に泳いでいるのだろう。そんな楽しさに共鳴した仲間が集まって化学反応が起こり、佐久間さんの心が動き、そこからまた新たなZINEや書籍が生まれる。それを読んだ私たちに佐久間さんの“熱”が伝わる。熱の発信源に触れたい方は、ぜひ会場に足を運んでみてほしい。

■TOKYO ART BOOK FAIR 2019
日時:2019年7月12日(金) 15:00 ~ 21:00 (プレビュー) 
   7月13日(土)、14日(日)、15日(月・祝) 11:00 ~ 19:00
会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F、エントランスエリアほか
   東京都江東区三好4 -1- 1
料金:入場無料 ※12日のみプレビュー参加費として1000円 [税込] (小学生以下無料)
※トークイベントは一部有料

>>&wインタビュー 佐久間裕美子さん「ニューヨークで、自分と折り合いをつけるということ」

佐久間裕美子(さくま・ゆみこ)

ニューヨーク在住ライター。1996年に渡米し、98年からニューヨーク在住。慶應義塾大学卒業。イェール大学修士号を取得。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家、ミュージシャン、作家、デザイナー、アーティストなど、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビューしてきた。
著書に『My Little New York Times』(NUMABOOKS)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、翻訳書に『世界を動かすプレゼン力』(NHK出版)、『テロリストの息子』(朝日出版社)。
8月6日、『真面目にマリファナの話をしよう』(文藝春秋)刊行予定。
https://www.sakumag.com/
https://note.mu/yumikosakuma

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