上間常正 @モード

持続可能な開発(発展)よりも、脱成長を考えてみては?

ここ数年、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉をよく見聞きするようになった。いままでどおりの開発の仕方を続ければ、地球環境の悪化や資源の枯渇が限界に達してしまうためだ。衣食住の分野での大量生産とゴミ廃棄。世界中のすべての人が、量の多寡にかかわらず、毎日の生活の中で生み出すそれらのものが大きく影響していると考えられている。

今月はじめに東京・築地の朝日新聞社読者ホールで開かれたシンポジウム「食と服 大量廃棄このままでいいの?」で、想像をはるかに超える量の服と食べ物が捨てられている生々しい実情を、現場を取材した2人の記者が報告した。

持続可能な開発(発展)よりも、脱成長を考えてみては?

シンポジウム「食と服 大量廃棄このままでいいの?」(7月2日、朝日新聞社読者ホール)

日本では毎年、約650万トンの食物と約10億着の服が捨てられているとのこと。そして、その半分は生産や売る側だけではなく、消費する家庭からの廃棄だという。650万トンは、1人当たり毎日140グラム、茶わん1杯分のご飯を捨てていることになる。10億着は新品のまま廃棄されていると推定されている数字で、毎年1人当たり約8着という計算になる。食品について言えば、賞味期限が過ぎれば商品棚や家庭の冷蔵庫から処分されるだろうし、服ならますます速くなっている流行サイクルに遅れたり売れ残ったりした分は、在庫にしておくより廃棄する方が経営的には有利だからだ。

では、なぜ売れ残ると分かっているのに大量に作るのか? 大量に発注すれば製作費を安くできるし、品切れで売れる機会を逃さないで済むからだ。売れ残り品の処分にかかる費用は、経費として価格に見込んでおけばいい。だとすれば、最終的にはゴミとして廃棄される商品は、初めからゴミなのだ。私たちは、ゴミにしかならない物を着たり食べたりしているということもできる。

シンポジウムのパネリストとして参加した、人気フレンチレストランのシェフ荻野伸也さんは、食材の加工によって付加価値をつけて無駄を出さない工夫を説明した。日本では、形が規格外などの理由から畑で廃棄されている食材が年間2000万トンもあると推定されていて、この量は日本の食料輸入額に相当するそうだ。また、エシカルファッションにも詳しくモデルとしても活躍しているクリス-ウェブ佳子さんは、「たとえば服がなぜ安く買えるのか、知ろうとして調べれば分かる」と自らの体験談などを語った。

持続可能な開発(発展)よりも、脱成長を考えてみては?

パネリストの荻野伸也さん(中右)とクリス-ウェブ佳子さん(中左)。 両側は仲村記者(左)と藤田記者(右)。2人はこの4月、共著『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実 』(光文社新書) を出版した

大量廃棄をめぐるこうした現状は、消費者としての私たち一人ひとりの意識と深くかかわっていることが分かる。2人の記者、仲村和代さんと藤田さつきさんは取材体験を通して、「消費は生産と廃棄につながっている。服や食べ物がどんな風に作られているのか、その一つひとつと向き合って自分との関係性を築いていけば、現状を変えていく力になるのでは」などと呼びかけた。

持続可能な開発(発展)よりも、脱成長を考えてみては?

売れ残ってリサイクル会社に持ち込まれた、恵方巻きなどの食品

SDGsは2015年に国連総会で、貧困や教育、環境など17分野にわたって問題を克服するための目標として決議された。しかし資源や環境の危機については、すでに約50年前の1972年にローマクラブが提出した報告書「成長の限界」で警告を出している。SDGsのDは「Development」の略で、「成長」をも意味している。経済成長をあくまで主張している政府や大企業を中心とした経済団体もが呼応していることには、いささかの疑問が残る。資源・環境の問題からすれば、持続可能な成長というのは、多分もうあり得ないのではないかと思うからだ。

たとえば、ささやかにも思える年2%の実質経済成長率が2000年続くと、GDPは16京倍(1.6×10¹⁷)というとてつもない額になってしまう。こんな計算はちょっとやってみれば誰でも分かるはずなのに、私たちは無尽蔵にエネルギーを利用し、欲しい物がいつでも安く買えて、無造作に捨てる生活の便利さを手放そうとしていないのではないか。

持続可能な開発(発展)よりも、脱成長を考えてみては?

先進国から輸出された大量の古着。選別されて再利用されたり焼却されたりしている(バングラデシュ・ダッカ)©Getty Images

本当にいま必要とされるのは、どんな率の成長でもなくて、脱成長ということなのではないか。たとえ経済規模がダウンサイズしても、お金のために余分に働くよりも、自分のための充実した楽しい生き方はできるのではないかと思う。経済成長による物質的な豊かさ、便利さや安全は確かに魅力があったが、それによって失われたものも多かった。

筆者が生まれ育った東京の多摩地区では、子供のころは夏には天の川やアンドロメダ大星雲が見えたし、庭には蛍が飛んできた。何よりも雑木林や野原がいくらでもあって、毎日そこで楽しく遊べた。多摩川でアユやウナギを釣って川原で焼いて食べた思い出もある。そして、そんな環境は日本中でいまでもすべて失われてしまっているわけではない。世界有数の森林国である日本には、都会を少し離れれば、まだいくらでも残っているのだ。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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