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伝えられなくても、孤独にはしない『吃音』

伝えられなくても、孤独にはしない『吃音』

撮影/馬場磨貴

プロローグは、一人の吃音(きつおん)当事者である青年の話から始まった。「どもる」ことは自分にもある、と思っていた。緊張したり、適切な言葉が浮かんでこなかったり、かんだりすることもその一つだと思っていた。しかし、「吃音」はそれとは違う。病気、体質、障害……そのどれに当てはまるのか分からないまま、「死ぬ」ことに近いことが読み始めてすぐに分かった。

人は感情や考えを持ち、それを他の人に伝えて生きている。伝えたいことがあるのに伝えられない、身体の内側から出したいのに出来ないことは、それが何でも想像以上につらいことだ。

言葉が思うように出ないので欲しいものが買えない、面接で話せないから仕事に就くことが困難、電話がとれないので仕事をしても続けられないなど、現代における症状だと思いがちだが、そうではない。時代や国を問わず、あるという。誰もが知るマリリン・モンローもその一人であり、人気の要因であったあの独特の話し方は、どもりが出ないようにするためではなかったかと推測されている(14ページより)。彼女は36歳という若さで亡くなった。

100人に1人が抱える、恐怖と不安

吃音の症状は多様で、大きく3種類に分けられる。中でも、どもっている症状から一言目が出ない「難発」が、最も進行した状態であるという。のどや口元がこわばって硬直し、動かなくなる。そしてその症状に日常的に襲われるという恐怖や不安があり、余計に身体全体が硬直してしまうのだ。

そのメカニズムは全解明はされておらず、治る可能性がある病気や、補う術(すべ)があるかもしれない障害など、最近までどれにも当てはめることが出来なかった。また、周りからは深刻な状況が理解されにくいのも、吃音の特徴であるという。

100人に1人とされているのに、実際のところ自分の周りでも見受けることがほとんどない。気づいていないだけではないのかと、ふと思った。「この人あいさつしないな」とか、「無口でいつも機嫌が悪そうにしているな」「話し方が変わっているな」など、勝手に印象付けていた人たちが、そのような苦悩を陰で抱えているかもしれないと思い、息をのんだ。

伝えられなくても、孤独にはしない『吃音』

『吃音 ―伝えられないもどかしさ―』近藤雄生 著 新潮社 1620円(税込み)

本書は吃音のメカニズムや現状のみならず、プロローグに出てきた青年が成人し結婚して父となってから、訓練を重ね、症状が改善していく様を中心に内容が進んでいく。訓練を担当した言語聴覚士の先生や、同じ症状を持つ方々など、たくさんの取材を重ねている。中には自ら命を絶ってしまう人もおられ、そのご家族のお話など、とてもつらい内容もある。また、訓練を受けた全ての人の症状が改善するわけでもなく、様々な現実がそこには書かれている。

著者である近藤雄生さんご自身も、長い間吃音に悩まされてきた。就職は困難だろうからフリーライターになったとあるが、ご自身の症状の変化についても語っている。何度も身を運び、いろんな方に寄り添い、熱心に話を聞かれたのであろう様子がうかがえた。

人と人をつなぐ想像力

吃音の現代における位置付けや考え方、それらが時代とともに変化していることも分かりやすく、そして最近まで正しく理解されていなかったことも読むと分かる。きっとたくさんの吃音の方と、そのご家族の助けになる本であろう。何をもって「健康」と位置づけられるのか、考えさせられた。また、吃音者に限らず、相手に対して想像力を働かせていくことがいかに大事なことか、改めて認識させてくれる一冊であった。

言葉が出ないということ、そこには色んな困難が伴い増殖する。その苦しみは当事者でないと計り知れない。では、吃音がある人がそうでない人の理解を得ていくために双方どうしていくのが良いのか。それを考えることが、著者の思いであろう。それにはぜひ、著者の言葉で読んでいただきたい。人と触れ合う全ての方に。

(文・岩佐 さかえ)

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「心と体の健康=美」をモットーに勉強の日々。

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