シンプルこそエレガント。ミラノ・デザインウィークに登場、ロイヤルコペンハーゲンの新シリーズ

ミラノ中央駅から2つめのロレート駅を降り、大通りから1本入った下町風情ただよう住宅地を歩いていくと、天井が高く倉庫のように広々とした空間へと行き着いた。青紫色の光に包まれ、スポットライトが当たった陶磁器がつややかに輝いている。

正面には、大きな海の映像。波がしぶきをあげながら静かに打ち寄せては引き、上空には重くグレーの雲が垂れ込めている。雲の合間から差す薄明かりが水面を照らすものの、海の色は沖へ向かうほど暗くなり、水平線は空の色と交わるかのよう――。荒涼とした北国の海の光景を前に、しばしたたずんだ。

ここは、デンマークの陶磁器ブランド「ロイヤルコペンハーゲン」の新シリーズ「HAV(ハウ)」の発表会場。244年の歴史を持つ伝統的なブランドが、毎年春、ミラノで開催されるデザインの祭典「ミラノ・デザインウィーク」に初参加しての製品発表だ。

シンプルこそエレガント。ミラノ・デザインウィークに登場、ロイヤルコペンハーゲンの新シリーズ

ロイヤルコペンハーゲンの新製品「HAV」の発表会場(2019年4月 イタリア・ミラノ)

伝統的な陶磁器ブランドが、注目デザインユニットと協業

デザインを手がけるのは、デンマークのデザインユニット「KiBiSi(キビシ)」。建築家ビャルケ・インゲルス、自転車ブランドなどで知られるイェンス・マーティン・スキスプデッド、工業デザイナーのラース・ラーセンの3人が、それぞれが活動拠点とするユニットの頭文字を取り、KiBiSiと名付けた。異なるキャリアを持ちながらデザイン哲学を共にする彼らの活動は、いま業界の先端を行く。

ビャルケ・インゲルスは、2021年にニューヨークで竣工予定のワールドトレードセンター2の設計を担当するなど、世界的建築家だ。コペンハーゲン市内では、ゴミ処理場を、発生する熱を利用して人工雪を降らせるスキー場も兼ね備えた施設に生まれ変わらせて、話題を呼んだ。筆者もコペンハーゲンを訪れ、その施設を遠くから眺めたのだが、ユニークなフォルムの建物は目を引くと同時に、周囲の街並みと調和していた。屋根をゲレンデにしてしまうという発想に驚かされる。

さて、話を会場に戻すと、まず独特なフォルムのポットが目を引いた。なめらかで有機的な輪郭を描き、その形はまるで自由に泳ぎ回るカモのようだ。

シンプルこそエレガント。ミラノ・デザインウィークに登場、ロイヤルコペンハーゲンの新シリーズ

ティーポット。取っ手がブロンズなのは、コペンハーゲンの有名な人魚姫のブロンズ像から着想を得ているからだという

複雑なことを、シンプルに落とし込む

ふたは真上を向かず、傾いて付いており、左右非対称なつくりであることがわかる。ブロンズの取っ手が白い陶磁器にはめ込まれ、異素材が組み合わさったさまは、凜として美しい。

この日、インタビューに応じたイェンス・マーティンとラースは声をそろえる。「シンプルなデザインですが、じつはその裏側には、高度で複雑な技術があるのです」

シンプルこそエレガント。ミラノ・デザインウィークに登場、ロイヤルコペンハーゲンの新シリーズ

イェンス・マーティン・スキスプデッド

デンマーク生まれ。“アイデア・ドリブン”なプロダクトデザイナーとして活躍。KiBiSiでは笠間焼の陶芸家・伊藤公象氏とともに、陶器を使ったiPhoneスピーカーなどを開発。有機的で用の美を満たす作品を数多く作っている

陶磁器は、焼くと縮んだり変形したりして、一つひとつの形は少しずつ異なる。一方、持ち手の銅は機械で量産する。それらを、かちっとはまるように調整するのは容易なことではないという。

「HAVを完成させるまでに、10年という歳月をかけてきました。ロイヤルコペンハーゲンの職人とともに試行錯誤を続けましたが、彼らの素材への深い知識があったからこそ実現することができたのです」とイェンス・マーティン。複雑なことをシンプルに落とし込むことにこそ、エレガンスが存在するのだと語る。

高度な技術のもう一つの例が、伝統的な吹き付け技法(ハンドスプレー)による色づけだ。一定の角度で、一定の速度で器を回し、手で色を吹きかけていく。始めた箇所と終えた箇所が分からないように吹き付けなければならない。シンプルな動作のようだが、熟練の職人技が必要だという。

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マグカップ。色のグラデーションは、霧にけぶる海のよう

「最初に青を、その上に緑がかった黒を吹きかける。そして、伝統的なアンダーグレーズ技法(素地の上に絵付けをして釉薬をかける)で焼く。そうすることによって、空から海に流れ込むような、透明感のある美しいグラデーションが完成するのです」

HAVはデンマーク語で「海」を意味する。デンマークはぐるりと海で囲まれた国で、デンマーク人にとって海は身近な存在だ。ロイヤルコペンハーゲンの器一つひとつにも、王室によって1775年に創設された当初から、スンド海峡、大ベルト海峡、そして小ベルト海峡を象徴する3本の手描きの波が描かれている。ブランドにとっても、海はかけがえのないものなのだ。

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器とともに海藻がディスプレイされていた

器とともに展示されていた本物の海藻から磯の香りがただよい、海へ、自然へと気持ちをいざなわれた。デンマーク人は、つねに自然を身近なものとしてきて、それが器の世界観にも注ぎ込まれていることがうかがえる。

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手で絵柄が描かれた、陶磁器の貝殻。同じものは一つもない

たとえば雪の結晶や、水面に落ちた滴が描く輪――。自然界で生まれるそれらのものの形は、正確であっても、一つひとつが異なる。同様に、手描きやハンドスプレーのアイテム、どれ一つとっても、同じものは存在しないのだ。

機能的であること。サステナブルであること

HAVは130年近く前に誕生した古典的シリーズ「シーガル」へのオマージュだという。その証拠に、器にはシリーズを象徴する鱗(うろこ)のレリーフが施されている。

ただ、この鱗には現代的な機能性が込められている。たとえば、飛び立とうとする白鳥の胸を思わせるような、カラフェ。首の部分に鱗の装飾があるが、これは滑り止めの役目も果たすという。

シンプルこそエレガント。ミラノ・デザインウィークに登場、ロイヤルコペンハーゲンの新シリーズ

カラフェ

シンプルこそエレガント。ミラノ・デザインウィークに登場、ロイヤルコペンハーゲンの新シリーズ

首の部分に施されたうろこが、滑り止めの役割を果たす

「私たちが目指すのは、単に美しいだけでなく機能的なデザインをすること。私はデンマークの田舎で育ったのですが、手作業に囲まれる生活を通して、道具の使い勝手のよさが重要だと感じました。そんな体験も、デザインに影響しているのだと思います」と、ラース。

イェンス・マーティンも続ける。

「必要なのは、長く使い続けられること。時空を超え、ずっと繰り返して使えるものであるべきなのです。デザイン界は『次に何が来るのか?』とつねに新しいものを求めますが、私たちはそれを追うのではなく、本質的に何が大切なのかを考えるのです」

シンプルこそエレガント。ミラノ・デザインウィークに登場、ロイヤルコペンハーゲンの新シリーズ

ラース・ラーセン

デンマークの農村に生まれ、生活の中で機能性を求められる工具と、アルネ・ヤコブセンやパントンの家具に囲まれて育った。自転車デザイナーであり、デンマークで唯一、すべての部品を国内で製造する時計をデザインしている

そのために、ロイヤルコペンハーゲンの膨大なアーカイブをリサーチし、築いてきたものの上に何を新しく足すのか考える作業をしてきたという。

「いま現在しか通用しないものであってはいけない。私たちは、遠い未来を見据えるために、過去を深く振り返っているのです」(イェンス・マーティン)

ミニマルすぎず、それでいてそぎ落とされた、北欧らしい機能美。HAVは全9アイテムのシンプルな構成となった。

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多目的に使えるハイブリッドボウル。二重構造で熱を逃さない

いったい何に使うのだろう?と思わせるハイブリッドボウルは、料理を盛りつける器としても料理をサーブする道具としても機能し、様々な目的に使えるアイテムだ。はるか昔、バイキングが使った道具をも思わせる。

「誰にとっても使いやすいシリーズにしたつもりです。豊かさとは、多くのものを所有することではないと思うのです。家族や友人との時間を豊かにするために使ってほしいですね」(ラース)

「長く使い続けることで、愛着がわくと思います。気に入ったものとともに、ゆっくりと時間を過ごす。そういうことが幸せなのではないでしょうか」(イェンス・マーティン)

試行錯誤を重ねながらたどり着いた、シンプルでありつつも、海や自然、人のぬくもりを感じさせるデザイン。それはデンマークと同様、海に囲まれた日本で暮らす私たちの心にまっすぐに届くと感じた。

(文・「&」編集長 辻川舞子/写真・山田秀隆)

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会場前で

『おいしいおはなし 子どもの物語とレシピの本』

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