上間常正 @モード

コムデギャルソン メンズ新作の衝撃 男女の性意識への挑戦

女性の権利や男女平等などは、実はどこまで進んでいるのか? #MeTooや#KuToo運動など、先進国で広がったセクハラへの抗議や、最近では日本でのハイヒールなどの強制が問題となっている。ファッションの最新の表現では、社会の中での男女の関係についての思いがどう表現されているか。コムデギャルソンが6月にパリ・メンズコレクションで発表した新作は、刺激に満ちた内容で興味深かった。

デザイナーの川久保玲は、これまでフェミニズムとかジェンダー(社会的性役割)について言葉で語ることはなかった。だが服の表現では一貫して、男女の区別にあまりかかわらなかった。服の形や色に、超えてはいけない壁がある、とは決して思わなかったためだろう。それは多くの人々が何となく受け入れてかつ強く捕らわれている他のいくつもの壁と同じだからだ。

だが、今回の新作はこれまでとは違って、男女間の性意識の現状や歴史的な流れ、そして変革の可能性についても真正面から問い直しているように思えた。とはいえ、その表現は、あくまでも川久保らしい自由奔放で卓抜なファッション的比喩と演出によって、見る側の日常的な性意識に何か違和感を呼び覚まし、同じ問いに誘うような強い力があった。

約25分間の新作発表ショーの公式記録映像によると、ショーは4つのシーンで構成されている。最初のシーンでは、20世紀初めごろの英国エドワード朝風フロックコートなどの端正なメンズアイテムに、フリルの付いたブラウスやスカート、二連の真珠ネックレスなど、レディースアイテムを混ぜ込んだスタイル。同じ頃に流行したボブヘアのウィッグもつけているが、フェミニンな印象はほとんどない。

コムデギャルソン メンズ新作の衝撃 男女の性意識への挑戦

コムデギャルソン2020年春夏メンズ・コレクション(撮影:大原広和)

男性側からのレディース要素のちょっとした借用は、単にお遊び。性差の壁への侵犯などというものでは決してない、という事実を暗示しているようだ。それは100年前も今もあまり変わっていないということだろう。実際に女性はパンツスーツを着るようになったが、今でも男性はスカートをはかないし、JALの女性客室乗務員の制服にパンツが採用されることになったのは、今年なのだから。

二つ目のシーンは会場を明るいライトで照らし、赤と白のボーダー柄や、ピンクのシャツなどが並んだ。メンズのクラシックスタイルは基本的に同じだが、色や素材は思いっきり女性服の要素を持ち込んだスタイル。数年前から話題になった“サプール”というアフリカ・コンゴの派手な男性ファッションなども連想させる。だが、サプールがどこか男性の求道的なダンディズムを感じさせるのと同じで、性差への越境意識などはやはり感じ取れない。

コムデギャルソン メンズ新作の衝撃 男女の性意識への挑戦

コムデギャルソン2020年春夏メンズ・コレクション(撮影:大原広和)

続く三つ目のシーンは照明をぐっと暗くして、二つ目までのスタイルが灰色の影絵のように展開される。ここでは男性側からのお遊びの女性スタイルへの接近が、実はそれだけでは済まなくなってきている時代の流れへの恐れや不安が暗示されているように思える。そして男性服をデザインする女性としての川久保の両性具有的な意識が、このシーンで初めて示されているようにも見える。

コムデギャルソン メンズ新作の衝撃 男女の性意識への挑戦

コムデギャルソン2020年春夏メンズ・コレクション(撮影:大原広和)

最後のシーンは気楽なカジュアル・ルックのオンパレード。これは男性クラシックスタイルからの一時的な抜け道に過ぎない。浮遊感があって一見楽しそうにも見えるのだが、前シーンで示された不安感も色濃い。しかし、この段階ではまだ突っ込んだ解釈は保留しているようだ。

コムデギャルソン メンズ新作の衝撃 男女の性意識への挑戦

コムデギャルソン2020年春夏メンズ・コレクション(撮影:大原広和)

川久保は、今年12月にウィーン国立歌劇場で開かれる創立150周年記念公演の創作オペラ「オーランドー」で舞台衣装を手掛けることになっている。この物語は、イギリスの女性作家ヴァージニア・ウルフが1928年に発表した同名の小説を題材にしたもの。16世紀に生まれた主人公のオーランドーが、途中で男性から女性になって、20世紀初めまで自分のアイデンティティーを作り替えて生きていく、という両性具有的なファンタジーだ。衣装を引き受けたことで川久保は、今回のメンズと9月に開かれるレディースコレクション、そして12月のオペラ衣装で完結する3部構成のコレクションにしたいとの意向だという。

ヴァージニア・ウルフは20世紀のはじめに、前世紀までの自分もそれに連なる貴族的な価値観を、徹底的に揶揄して破壊し、新しい価値を模索した。それから約100年後の今、20世紀のファッションに現代的な要素を持ち込んだモダニストとしての川久保が、今年の3部作で、これまでの活動の今後の方向性をどこまで示すのか、大いに期待したい。川久保がファッションの表現で辿ってきた道の先は、まだ続いている男性中心社会の矛盾と堅苦しさを打開できる活路に通じていると思うからだ。そんなデザイナーは、ほかにいないのだ。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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