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大胆に繊細に、「いま」更新 19年秋冬パリ・オートクチュール

洋服における現代性とは何か。6月末から7月初旬に開かれた2019年秋冬パリ・オートクチュールコレクションでは、社会的なメッセージや豪華な舞台装置よりも、服自体のダイナミックな造形と緻密(ちみつ)な手仕事で、ブランドの伝統をより現代的に解釈したショーが目立った。

大胆に繊細に、「いま」更新 19年秋冬パリ・オートクチュール

(左)ヴァレンティノ(右)ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ

数々のショーの中でもヴァレンティノは、圧倒的な服の力で観客の視線を引きつけた。色や凝ったシェイプ、細かい刺繍(ししゅう)など、約70点のほぼ全てが異なってみえる。

極太モヘア糸で作った花飾りの芯に極小のスパンコールを詰め込んだ黄色いドレスや、見たことのない不思議な造形のドレス。華やかで暖かそうな服を様々な年齢や肌の色のモデルが着た。アレサ・フランクリンの名曲「ナチュラル・ウーマン」が、全女性への応援歌のように流れた。

ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェは、自身の1980年代末から90年代初めのマスキュリンスーツを現代的に作り直した。淡い色や柔らかい素材はそのままに、すそが揺れる繊細なジャケットと、透けて輝く布を重ねたワイドパンツを組み合わせる。今月85歳になったアルマーニ。ブランドの神髄を見せつけた。

精神を継承

大胆に繊細に、「いま」更新 19年秋冬パリ・オートクチュール

(左)スキャパレリ(右)シャネル

新デザイナーが就任したブランドでも現代性に注目する傾向が目立った。ダニエル・ローズベリーが手がけたスキャパレリは、入道雲のように布が高く盛り上がるドレスなど、造形がドラマチック。ブランドの象徴だったシュールレアリスムの要素は影を潜めた。ローズベリーは「今のシュールレアリスムとは何か。スキャパレリらしい要素を使わず、その精神だけを現代に提示したかった」と話した。

2月に逝去した巨匠カール・ラガーフェルドの後任ヴィルジニー・ヴィアールによるシャネルは、これまでのような派手さはないが、知的で上品な印象の30年代フェミニン調が今っぽい。会場は、読書家だった創始者の書庫をイメージした巨大な図書館風。「ノンシャラン(のんき)で優雅、自由で動きやすいシルエットを目指した」とデザイナー。

大胆に繊細に、「いま」更新 19年秋冬パリ・オートクチュール

(左)ジャンバティスタ・ヴァリ(中)クリスチャン・ディオール(右)ジバンシィ

展覧会形式で新作発表したのは、ジャンバティスタ・ヴァリ。チュールを大胆に重ねたドレスが展示された。ヴァリは「工房の技の素晴らしさや私の仕事を、身近で深く観察して欲しくて」と語った。
クリスチャン・ディオールは、創始者から続くモンテーニュ通りのアトリエを会場に。パリの建築物を支える女像柱から着想を得た、黒いドレープドレスを並べた。
ジバンシィは羽根飾りを多用して繊細でゴージャスな作品をそろえた。

先端技術も

大胆に繊細に、「いま」更新 19年秋冬パリ・オートクチュール

ユイマ・ナカザト

一方、先端技術を利用して現代性を訴えたブランドも。日本のユイマ・ナカザトは、山形県のスパイバー社製の人工たんぱく質から作る極細繊維をすべての服に使った。これまでもスナップで布片を組み合わせ、縫製なしで仕立ててサステイナビリティー(持続可能性)を目指す服づくりだったが、更に一歩進めた。中里唯馬は「サステイナビリティーのため、分野を超えた作り手と組んだ」。

大胆に繊細に、「いま」更新 19年秋冬パリ・オートクチュール

(左)イリス・ヴァン・エルペン(右)メゾン・マルジェラ

イリス・ヴァン・エルペンのテーマは「催眠術」。会場中央に眠りを誘うように回る金属のアート作品を置き、独自に開発した生地をレーザーカットで熱圧着させ、有機的なフォルムを作った。

メゾン・マルジェラは、解体して再構築した優雅な服に映像を投射することによって柄を浮き上がらせた。まとった服の素材が一体となって揺らぎ、幻想的だった。

パリ・オートクチュールは、中国などをはじめとする世界的な富裕層の拡大や、同時に開催されるハイジュエリーの展示会により、年々活気を増している。「モードの実験場」といわれるその場で、多くのブランドがファッションの原点ともいえる「現代性」に改めて焦点を当てた。デジタル技術ではまだ出来ない、人間の手による服作りの極みを見せた。

フェンディがラガーフェルド追悼

大胆に繊細に、「いま」更新 19年秋冬パリ・オートクチュール

フェンディ

フェンディは本拠地のローマでショーを行った。前シーズンまでの54年にわたってデザイナーを務めた、故カール・ラガーフェルドを追悼するためだった。

手の込んだファーのコートなど、ラガーフェルドの在任年数と同じ54体が並んだ。会場は、遺跡パラティーノの丘に特設。隣接するコロッセオが夕闇のなかライトアップされて背景になった。

新作の発想源のひとつは、ラガーフェルドが、共にブランドのトップとして仕事を続けた現デザイナーのシルビア・フェンディに託した、ウィーン分離派の書籍。小さな四角に切った毛皮片を糸で丹念につないだドレスは、分離派を率いたクリムトの画風を思わせる。ラガーフェルドが手掛けた過去の毛皮の服を解体して、新たに作り直したリサイクルのコートなども。

シャネルのデザイナーとしても知られるラガーフェルドだが、それよりも前に招かれたフェンディで、おしゃれで軽い画期的な毛皮のコートなどを発表してブランドを世界的な地位に押し上げた。「FUN FUR」を意味する、ブランドの頭文字Fを重ねたロゴも考案した。デザインを創業者以外が担う現在のラグジュアリーブランドの中で、在籍期間が最も長かったといわれる。

(編集委員・高橋牧子)

写真はブランド提供のフェンディとメゾン・マルジェラ以外、大原広和氏とRunway-Photographie撮影

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