パリの外国ごはん

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、気になる外国料理のレストランを通してパリを旅する連載「パリの外国ごはん」。今回は、レユニオン島のレストランを見つけたお話です。ヨーロッパとアジアが出会う場所のお料理、今回の混ざり具合はどんな感じなんでしょう……?

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

イラスト・室田万央里

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

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 私が参加したあるイベントに、万央里ちゃんが来てくれたその帰り。「あのあと近くでレユニオン島のレストラン見つけた! すごくいいかんじで、近くに住んでる義母に聞いたら、すごくおいしいわよ!って言ってた!」とメッセージが届いた。この連載を始めるにあたり、最初に訪れたモーリシャス料理の店「La Cavarelle」(いまは閉店)に似た印象だという。「おぉいいねぇ! 行きたいねぇ!」と早速行くことになった。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

14区の商店街ダゲール通りの先にある

 レストランAux Petits Chandeliersの最寄駅は4番線と6番線の通るダンフェール・ロシュロー駅。それで、6番線に乗って行こうとしたのだが、トロカデロ駅からモンパルナス駅が2カ月間(9月1日まで)工事で運行しておらず、自宅からだと乗り換えができない。代わりに、メトロ13番線のGaîté駅から歩いて向かうことにした。こちらからでも徒歩7、8分。

お店の中は、とても静かな空気に満ちていた

 レストランのあるダゲール通りに入ったら、地図で見ていた場所よりもずっと手前にレユニオン島料理がスペシャリテ、と書かれた店を見つけた。「ここかな?」と思い入ってみると、店内は賑わっていて、ものすごくスパイシーな香りが漂っている。でも、店名が見当たらない。やはり違うようだ。待ち合わせなのだけれど間違えたみたいです、と断って店を出た。そこから3分ほど歩くと、教えてもらっていた店名の看板があった。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

のどかな雰囲気の店内

 さきほどの店とは打ってかわり、こちらはとても静かな空気に満ちていた。年配のご夫婦が二人で営む商店街にあるお蕎麦(そば)屋さんみたいだ。一歩足を踏み入れただけで「ここでは何も急ぐことはないですよ~」と言われているようだった。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

メニューは表紙の挿絵がそれぞれ違う

 先に着いていた万央里ちゃんは、奥の窓際の席に座っていた。向かいに腰掛け、早速メニューを広げる。知らない言葉がたくさんあった。ただ、メインは、ルガイユとカリーが大きな柱らしい。ルガイユは、前述のモーリシャス料理店にもあった、トマト煮込みだ。

 知らない言葉の料理は、未知の味を発掘したい気持ちを刺激するが、まず私たちの気を引いたのは「お試しを!」と書かれたひとつ、bonbon piments。訳すなら、唐辛子の飴。どんなものだろう? これは、サモサなどとおつまみ盛り合わせのようになっていたので、それを注文することにした。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

おつまみ盛り合わせ的な「お試しを!」の3品

 牛タンの生姜風味、カニのファルシなど前菜にも気になるものがいくつもあった。今回はオーダーするものを決めるのに、いつになく時間がかかった気がする。結局、ピーマンのファルシ(詰め物)と、メインはスモークした豚肉入りのルガイユ、それにタコのカリーを頼もうと落ち着いた。

 自分の母親と同じ、もしくは少し上の世代に見える先客のマダム2人組は、「人生を謳歌しています」というオーラを発していて、レユニオン島へバカンスに行かれていたのですか?と聞きたくなるくらいにこんがりと日焼けしていた。常連客のようだ。

 身構えていた唐辛子のボンボンは、コロッケだった。ファラフェルに似た食感で、聞いたら、ポワ・カッセ(2つ割にした干しえんどう豆)に青唐辛子を混ぜたものという。それにしても辛い。はじめはわからない。でもあとから、じんわりじわじわやってくる。脂っ気のないパラパラとした牛ひき肉を包んだサモサで休憩してまたひと口、と交互に食べないと難しかった。

ピーマンが、また、予想外の、非常にダイナミックな姿だった……

 別の意味で意外だったのはbouchon とあったシュウマイだ。bouchon は、栓とか蓋を指し、「これも何だろうね?」と正体を知りたい気分で待っていたのだ。モーリシャス料理にもたしかあった。あの一帯は、インドなどからヨーロッパへ行く中継地だったことで生まれたカレーなどの食文化があるとは前に知ったけれど、中国もしくはその他のアジア諸国からも入ってきたものが少なからずあるのだろう。このシュウマイも、ボンボン唐辛子の合間に食べるのに、大いに役立った。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

岩男くんと名付けたくなったピーマンの詰め物

 続いて出てきたピーマンが、また、予想外の、非常にダイナミックな姿だった。ダイナミックなんだけれど、丸みがあるから憎めなくて、岩男くん、とでも名付けたいかんじだ。この岩男くん、外見だけではなくて中身も予想を裏切った。詰め物は肉だと思い込んでいたら、どうも違う。少しずつ口に入れて味わっても、何かわからない。

「なにかチーズでも入ってる?」「タコのカレーがあるくらいだから、タコをすり身状にしたもの? それともイカかな?」などとあてずっぽうに言っていたのはどれもハズレで、なんと干し鱈(ダラ)だった。干し鱈があんなに優しい味になるとは驚きで、そして、肉厚なピーマンとよくあった。でも、考えてみたら、バスクやピレネー地方では小さな赤ピーマンに干し鱈を詰める料理がある。ただ、それらの方が小さくて赤くて可愛らしい様子だけれど、岩男くんの方がずっと優しい味わいだった。

 実は、前菜を食べ終えたあたりから、腹痛を覚え、その後、座っていることも立ち上がることもできなくなってしまい、救急で病院にいくという失態を私がおかした(その私を前述のマダムたちが近所の行くべき病院を教えてくれ、車まで抱えて運んでくれた。申し訳ない、というと「こんなの私たちには日常茶飯事よ!」とどこまでもおおらかだった)。おなかを壊したわけでも、食中毒でも全くなかったのだが、そんなわけでメインは、万央里ちゃんが持ち帰り、私は後日、再訪した。

 前回と同じ席に座り、サモサとボンボン唐辛子の盛り合わせから始め、メインはどうにも気になっていたタコのカリーにした。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

タコのカリー

 カリーは、トマト煮込みのルガイユとあまり変わらない、と万央里ちゃんから聞いていたけれど、タコをトマトソースで煮込んだものにちょっとスパイス、という印象だ。でも、とてもフルーティーな、どこかしら甘い梅干しのような味をたまに感じた。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

スモークした豚のトマト煮込み、ルガイユ

 お米は、茹(ゆ)でたのではなく炊いてあるようだ。それに、ローリエの香る小豆の煮物がとてもおいしかった。これが、タコの煮込みと、ものすごく相性がよくて、お米もあわせて三つを一緒に食べると、生卵を割った牛丼くらいに三位一体だった。

カリーとトマト煮と小豆とごはんの三位一体。レユニオン島の店「Aux Petits Chandeliers」

ぜひ三つをあわせて食べたい

 梅干しっぽいと感じた味は、どうやら、フレッシュなターメリックだったようだ。フレッシュを買って自分たちで干し、それを潰して使っているそう。あとは、たっぷりの生姜。これがフルーティーな味わいの鍵っぽい。インド人街に行ったらフレッシュなターメリックが売っているから、これは今度ぜひ作ってみたいと思う。

Aux Petits Chandeliers(オ・プティ・シャンドリエ)
62, rue Daguerre 75014
01 43 20 25 87
12時~15時、18時30分~23時30分
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

    https://www.instagram.com/mlleakiko/
    http://mespetitsdejeuners.blogspot.com/

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

《パリの外国ごはん そのあとで。》チュニジア食堂「Tounsia」のシャクシューカとサラダを再現!

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《パリの外国ごはん そのあとで。》猛暑だから! レユニオン島のトマトカレーとサバのサモサ

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