花のない花屋

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を

〈依頼人プロフィール〉
岡田実里さん(仮名) 40歳 女性
大阪府在住
無職

     ◇

第2子の妊娠中に乳がんが見つかり、いま3歳と1歳の子どもを育てながら闘病しています。妊娠前の検診では問題なかったのですが、妊娠後に発覚しました。進行が思うより速く、ステージ4です。

幼い子どもを抱えての先の見えない治療はつらく、ずっと暗闇の中にいるようでした。ちょうどそんなとき、大学時代の友人から突然LINEがきました。大学で親しかった友人が亡くなったとのことでした。

まさか……。彼だってまだ38歳。結婚して幸せそうな近況をフェイスブックで目にしていたのに。斎場でお会いしたご両親の話では、ある日サッカーのプレー中に骨折をして、そこから1カ月ほど経った頃に血栓ができ、肺塞栓(そくせん)症を引き起こして、急逝したとのことでした。懸命な治療のかいなく、倒れてから数日で息を引き取ったそうです。

彼とは卒業後はたまに連絡をとるくらいでしたが、大学時代はよく遊びにいく仲でした。小学生の頃アメリカに住んでいて苦労したからか、相手の気持ちがよくわかり、デリケートな内面を持っていながらも芯が強く、とても人懐っこくて誰に対しても裏表なく接する人でした。

多くの人がそんな彼の魅力に引かれていたのは、後日、彼のご両親から届いた追悼集からもうかがえました。彼の友人たちが書いた文章を読むと、胸がひきさかれるようでした。

がんを患い、私だけがなぜこんなに早く死に取りつかれてしまったのか……と、私自身それまでずっと嘆いていましたが、そこから最も遠い場所にいたはずの彼が、あっという間に死に絡めとられてしまったなんて。そんな残酷な現実は、残されたご家族を絶望の闇に突き落としたはずです。そして、自分も親や夫、子どもたちにそんな思いをさせてしまうのか……と思うと、申し訳なさに押しつぶされそうになりました。

こんなことがあってもいいものか。私も彼も人生を謳歌(おうか)している真っ最中だったというのに! この容赦のない人生の理不尽さに、「それもまた人生だから」とは、私も彼も、周りの人も到底思えません。思えるはずがありません。

そこで、計り知れない喪失感を抱えているであろう彼のご家族に、圧倒的に美しい花束を贈っていただけないでしょうか。彼の写真の傍らに置いてもらい、彼にも天国から見てもらいたいです。あなたは本当にいいやつだった。出会えてよかった。どんなにか無念だったろう。ここで断ち切られる人生ではなかったはずだ、という気持ちとともに。

彼は大学時代、いつも青い古着のジャージーを羽織っていました。とてもよく似合っていて、彼を思い出すといつも青のイメージが浮かびます。また、紫色も好きで、結婚式のキーカラーだったそうです。はつらつとした元気さの中に、澄んだ静けさがあるといいなと思います。彼の充実していた人生をお花で表してもらえたらうれしいです。

これまで私は切り花は苦手で、地に根を張った花が最上だと思っていました。でも、それでは彼にも彼のご両親にもお花を届けることができません。どうか根を張る花々よりも美しい花束をつくってください。鎮魂というにはほど遠い心境ですが、東さんの花束がいくばくかのなぐさめになりますように……。

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を

花束を作った東さんのコメント

亡くなった友人とご家族への花束ということで、その方が好きだった青や紫をキーカラーにまとめました。特に意識したのは、「静かな、澄んだ印象」です。

トップにはベロニカやベルテッセンを挿して天へ昇っていくような動きを出し、その下にアガパンサスや丸い形をしたルリタマアザミなどを加えていきました。通常ベロニカは花の上の部分だけを使いますが、今回は真ん中の部分も切って使っています。切る場所によって同じ花でも少し表情が変わります。

リーフワークは丸い葉のユーカリを使い、かわいらしさをプラス。一番下にはカクレミノの葉と実を入れて少し重さを出しました。

全体的にぎゅっと詰まった感じではなく、ふんわりとした涼しげなアレンジです。どうか岡山さんのお気持ちが、ご友人やご家族に伝わりますように。

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を
(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

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必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……

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