<3>アートディレクター 森本千絵さん×川島蓉子さんPR

プロとしての私の仕事は、「きっちり伝えて、売れること」

<3>アートディレクター 森本千絵さん×川島蓉子さん

森本千絵さん(左)と川島蓉子さん(撮影・馬場磨貴)

「宝の10年」ーーと聞いて、いつのことを思うだろうか。
キラキラしていた20代? 一生懸命働いていた30代?
それともまさに「いま」だろうか。

&w連載「ひとむすび」の著者・川島蓉子さんと、
さまざまな分野で挑戦を続ける女性に、
「宝の10年」について語り合っていただく連続対談。
その人たちが何を大切にしながら生きてきたのか、
自分らしく働き続けるために、何を大事にしているのか……。
少し先でいま、同じ時を生きる2人の女性が交わす言葉を通して、
私たちもまた、これからの10年を見渡せるような、
そんな対談をお届けする。

第3回のゲストは、アートディレクターとして活躍する森本千絵さん。対談は森本さんのオフィス「goen°」で行われた。(構成・坂口さゆり 写真・馬場磨貴)
    ◇
森本 川島さんのご本を読んでいましたので、お会いするのをすごく楽しみにしていました。

川島 ありがとうございます。私もです。森本さんはアートディレクターとしてのお仕事だけでなく、絵本づくりやCM制作など幅広くご活躍されていますが、現在はどんなお仕事が主流になっていますか。

森本 広告の仕事だけでなく、例えばまちづくりで、行政の方とできるだけにぎわいを作るための施策を考えたり、幼稚園のデザインや親子イベントのプランニングなどをしたりしています。ただ最近、コマーシャルの企画演出と、年末公開予定の映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」のポスターを手がけたんですが、「あぁ、やっぱり広告が面白いな」と思いました。

川島 もともと博報堂にいらっしゃいましたものね。

森本 2007年に独立しました。偉そうなことを言ってしまうと、広告をやる以上は社会的影響力があるようなこと、例えば企業の方と一緒に何かを変えたりこれを伝えたりという目的を達成して、売れてもらうとか話題になってもらうことが、根本的に楽しいし、好きです。今の時代はロゴを作るにしてもSNSで一気に拡散されて、誰もが制作に参加できるのは素晴らしい。ただ、そんな嬉しさもある反面、やはりきちんとプロとしてアイデアを出して形にするという実力がより一層大事で、そこは負けたくないという気合が一層強くなってきています。

「そのクライアントを嫌いな、いち主婦」の感覚も大事

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川島 プロと素人を分けるのはどこなんでしょうか。

森本 責任です。やっぱり依頼主に対して他人事ではないんですね。他人事だったらこんな作品やってみたいとかこれでちょっと話題になったらいいなとか、可愛くなったらいいな、とか、いろんな観点でデザインを楽しく描くことはできるかもしれません。でも、プロとしての私の仕事は「きっちり伝える」。伝えなくてはいけないことを伝えて、「売れる」ということです。

川島 大事ですよね。

森本 そこを今の感覚に寄り添いながら達成できるように、もっともっと精進したい。そのためには実践しかないのでもっと仕事が欲しいです(笑)。

川島 こんなに忙しいのに?! どんな仕事がしたいんですか。

森本 もっと結果を出したいんです。広告を、飲料にしても百貨店にしてもファッションにしても行政にしても、困っている人がいたら、その目標を達成して、お互い利益も考えながらきちんと仕事にしていきたいということなんです。川島さんも「伝える」ことを大切にされていらっしゃると思うんですが。

川島 私はただすてきな人のすてきな話を伝えたいという「伝言ばあさん」みたいなものです(笑)。こんなに面白いことがあったんですよ、と伝えるのがとっても好きで。特に一番好きなのが文章化することなんですね。

森本 すてき。でも、取材相手の中には口数が少ない方もいらっしゃいますよね。文章にする時は、取材相手の方の言葉のままに伝えるのと、川島さんを通してその人が言ってはいないんだけど、言わんとしていることを伝えるのはどちらがいいんでしょうか。

川島 さすが鋭いご指摘です。それは憑依(ひょうい)なんです。だれかのことを1冊書こうとすると憑依しないと書けません。その時私は消えている、と自分では思っています。糸井重里さんを書くなら糸井さんの気分になっている。だから、言っていなくて言おうとしていることも書いていると思いますよ。森本さんはいかがですか。

森本 私も本当に憑依です。例えばミュージシャンのCDジャケットを手がけるときに、まずその方の話を聞きます。あとは何よりも歌がすべてじゃないですか。歌が聴こえなくなっちゃうほど聴きます。

川島 え? 聴こえなくなっちゃうってどういうことですか。

森本 歌を聴きすぎると流れている事が当たり前で、他の雑音が聞こえてくるくらい、歌が聴こえなくなってくるんです。デモからずーっと聴き過ぎているので。ミュージシャン曰く、「私より聴いているんじゃないか」って。発売されたらCDを買いに行きますが、ビニールは開けていません、ほとんど(笑)。

川島 私も本ができちゃうと開けないわ。終わった感じがして。でも、商品の広告を考える時はどうなるんですか。

森本 例えば、飲料であればその世界に入れるだけ入って同化します。それでいながら日常生活をしたり、ドライブをしたり。何かを見に行ったりした時の刺激がそんな自分と掛け算される。あとは潜在的に「こうなったらいいな、こんなものがあれば面白いな」と思っているものが組み合わされて、企画がポロポロと出てくるんです。クライアントさんにはいっぱい質問しますよ。一方で、「そのクライアントを嫌いな、いち主婦」みたいな気持ちにもなります。

川島 「嫌いな、いち主婦」ってなんですか?

森本 企業の身になってこれを売り出したいという気持ちとは別に、「そんなこと言ったって安い方がいいじゃん」とか「もっと可愛いのがあるじゃん」とか「なんとかじゃん!」みたいな批判的な消費者=自分がいます。その批判的な私を、クライアントの自分が説得できるような企画にするんです。

「あなたのやってる仕事はご縁をつくることね」と言われて

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川島 すごい! 才能ですね。それにしても、森本さんはなぜ独立したんですか。

森本 主な理由は三つあるんですが、いろいろ重なって。最初のきっかけが、社名となった「goen°」にまつわる「ご縁」という言葉との出会いです。新聞協会さんの「HAPPY NEWS」という仕事があり、幸せなニュースをまとめた記事を2013年まで毎年書籍化、最初は装丁も担当していました。05年に「HAPPY NEWS大賞」を取ったのが、駄菓子屋のおばあちゃんのゴミ出しを、血のつながっていない中学生の男の子が手伝っていたという金沢の記事でした。私はそのおばあちゃんに会いに行きたくなっちゃって、06年の表紙に使おうと金沢市へ撮影に行ったんです。

その時、駄菓子屋に座っていろいろ話していて、おばあちゃんに「なんの仕事をしているの」と聞かれて、できるだけわかりやすく説明していたら、「なるほどなるほど。あなたのやってる仕事はご縁をつくることね」と言ってくれて。その「ご縁」という言葉に出会った時に、自分の現実的な仕事とその言葉がつながったことで膝(ひざ)が抜けたんです。

川島 膝が抜けた?

森本 本当にカクンと体が反応しちゃって、しばらく道端で膝をついて正座みたいな姿勢になったんです。そして、とめどもなく涙があふれて止まりませんでした。商品が売れることも大切ですが、ただ伝えるだけでなく、伝えることプラスαくらいのご縁、ただ買いたいとか好きだけじゃなくて、ああ出会えてよかったと思えるもうひとつ何かの価値を作ることなんだと。何年ぶりに何年分泣いたかわからないほど大泣きしたので、泣き終わったら本当にスッキリしちゃって。

ところが、東京へ戻って来ると祖母が危篤状態で、いろんな仕事の打ち合わせをしながら夜、母と病院へ行ったり来たりしていました。ちょうど、Mr.Childrenさんのアルバム「HOME」のCDジャケットのプレゼンテーションも重なって。桜井さんからは「『体の中は水が7割』というくらい当たり前の表現をしてほしい」というリクエストが1行だけ来てました。その時の私は疲れ切っていたのか、数案出してもイマイチしっくりこない。桜井さんの言葉に寄り添っている案がないと体で感じていたんです。

そんな中、祖母が「洗礼を受ける、キリスト教徒になりたい」と突然言い出して、教会で洗礼式と生前葬をすることになりました。白いレースのドレスをまとい、息子であるおじに車椅子を押してもらう祖母の姿はまるで結婚式のよう。この式で、私は初めて祖母にたくさんの兄弟がいることを知ったんです。

大勢の親族が集まったのを見て、「うわーすごい、この家系図! 目の前に家系図があるって面白い」と思った瞬間、あっと思いついちゃったんですね。「HOME」のジャケットはリアルな家族で家系図にしようと。Mr.Childrenさんもその案を選んでくださり、撮影地はマウイ島。私の頭の中でそうしたことが次々にパチンパチンと音が鳴るように合致していった。飛行機が日本を離陸する瞬間に、「独立しよう、名前はgoen°だ」と決意しました。

子どもが生まれてから、人を怒らなくなりました

<3>アートディレクター 森本千絵さん×川島蓉子さん

川島 ご出産も転機になったのでは? 時間の流れが変わりましたでしょ?

森本 1日が2日分くらいになりました。不思議ですね。ひと月がふた月の感覚。途中変調した時期を含めた10年というのが、頭の中ですごい不思議なメロディーになっちゃってます。

川島 お子さんが生まれてからの4年間ではご自身の変化はいかがですか?

森本 人を怒らなくなりました。子育てが大変すぎて、余力がないのも一つですが、誰もがそうやって育ったんだなという尊重の気持ちでしょうか。以前は、作品を制作するためにはどんなひどい言葉をかけあっても目的を達成する気持ちの方が強かったと思うんです。今は自分が夕方に帰ってしまうとか、昼間に子どものお迎えに行く自分をみんなが受け入れてくれながら一緒に働いている。みんなに母ちゃんがいて、皆さんの息子や娘を私が預かっているんだな、とか考えますね。

それと、仕事で失敗しても死にはしないと思えるようになりました。以前はまるで仕事を子どものように思っていたから、私の仕事に対して何か指摘されたら、子どもを傷つけられたくらいにイラっとしてたんです。たとえでよく、仕事を子どものようにって言うじゃないですか。だけど、仕事と子どもは全然違いますね。

川島 私は息子に言われましたよ。「そもそも母さんって感情的だからさ」って。そう言われた時はドキッですよね。

森本 いつか私も言われるんだ! そんな言葉を覚えた瞬間に言われそう。そういえば、私は子どもが生まれてからの方が仕事が断然速くなりました。「なんで昔は徹夜とかしてたんだろう、バカみたい」と思うくらいサッサと仕事が、もうすごいできる(笑)。一気に同時多発的に素早くいろんなことを処理する能力が生まれました。

川島 すばらしいですね。ますますパワーが強くなっていらっしゃるようですが、今、夢はありますか。

森本 今は、子どもが4歳になるので2週間くらい先のことを考えながら日々を積み重ねている感じです。でも、言葉の垣根を越えたいですね。海外の人たちと仕事をしていると楽しいですから。いつかはグローバルブランドの広告を手がけたい。日本人だからといった理由ではなくて、いちアートディレクターとして起用されたい。いつかは日本の優秀なスタッフを使いながら本当にきちんとやってみたいです。

川島 森本さんならきっとできるわ。この才能だもの。『森本千絵一代記』は面白すぎます。終わらない物語じゃないですか。これを“ご縁”に、またお話聞かせてくださいね。
    ◇
仕事相手の気持ちに入り込んで働くうち、形が見えてくるということ。
お二人の話から、その楽しさと喜びが伝わってくる。
プロ意識を胸に、ご縁を育んでいく時間が、そのまま宝の時間、なのかもしれない。
これからの10年、あなたは、どんな宝を刻んでいきますか?

<3>アートディレクター 森本千絵さん×川島蓉子さん

<3>アートディレクター 森本千絵さん×川島蓉子さん

グランドセイコー エレガンスコレクション STGK009(560,000円+税)
レディス専用キャリバーを搭載した小型メカニカルウオッチ。
機械式時計を求める本格志向な女性のニーズにあう、日常で使いやすいステンレススチールモデルです。

職人の手によって磨き上げられたミラー仕上げのケースと、移ろう光の中で豊かな表情を見せる白蝶貝のダイヤルが上品に輝きます。
またパワーリザーブ50時間という実用性も備え、幅広いシーンで頼りになる存在に。

メカニカルでありながら女性の腕になじむサイズ感も魅力です。
※掲載商品は、グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップのみでの取り扱い
(セイコーウオッチ株式会社)

〈 問い合わせ先 〉
お客様相談室 0120-302-617
グランドセイコー公式サイトはこちら

■対談「宝の10年~あなたは、どう過ごしますか~」by グランドセイコー
<1>「ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄 」総支配人 野口弘子さん×川島蓉子さん
<2>株式会社ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん×川島蓉子さん

森本千絵(もりもと・ちえ)

<3>アートディレクター 森本千絵さん×川島蓉子さん

クリエイティブディレクター
1976年青森県三沢市で産まれ、東京で育つ。千絵という名には「沢山の糸(ひと)と会う」という意味が込められている。幼少期から生け花の先生である祖母とテーラーを営む祖父の影響で切り花や残布のコラージュで絵を描くことが好きになった。目的があり、人に伝えるための絵作りに早くから目覚め、中学生の頃から広告会社を目指す。
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を経て博報堂入社。2007年、もっとイノチに近いデザインもしていきたいと考え 「出会いを発見する。夢をカタチにし、人をつなげる」をモットーに株式会社goen°を設立。現在、一児の母としてますます勢力的に活動の幅を広げている。
代表作NHK大河ドラマ「江」、朝の連続テレビドラマ小説「てっぱん」タイトルワーク、松任谷由実「宇宙図書館」、Mr.Children「HOME」「SUPERMARKET FANTASY」のデザイン、SONY「make.believe」、組曲、Right-on、AZULのCM演出、サントリー東日本大震災復興支援CM「歌のリレー」の活動、 Canon「ミラーレスEOS M2」、KIRIN「8月のキリン」「一番搾り」「一番搾り 若葉香る ホップ」のパッケージデザインなど、 広告の企画、演出、商品開発、ミュージシャンのアートワーク、本の装丁、映画・舞台の美術や、動物園や保育園の空間ディレクションを手がけるなど活動は多岐に渡る。Mr.Children25周年企画、隈研吾氏と高木学園附属幼稚園のトータルデザインや南三陸さんさん商店街のロゴ・サインデザイン等進行中。KIRIN「一番搾り 夏冴えるホップ」。
N.Y.ADC賞、ONE SHOW、朝日広告賞、アジア太平洋広告祭、東京ADC賞など受賞歴多数。
著書「GIONGO GITAIGO J゛ISHO」(ピエ・ブックス/2004年) 作品集「MORIMOTO CHIE Works 1999-2010 うたう作品集」(誠文堂新光社/2010年)ビジネス本「アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話」(サンマーク出版/2015年)絵本「おはなしのは」(講談社/2015年)、絵本(共著)「母と暮せば」(講談社/2015年)
http://www.goen-goen.co.jp/about

川島蓉子(かわしま・ようこ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
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