花のない花屋

必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……

〈依頼人プロフィール〉
遠藤夏香さん 34歳 女性
東京都在住
絵画教室講師、美術作家

夫とは美術大学の油絵科で出会いました。卒業後、彼は就職してウェブデザイナーやエンジニアとして働く傍ら、映像やインスタレーション作品を作るアーティストとしても活動しています。以前から海外で活動を希望しており、先日初めてドイツでグループ展に参加することができました。

一方、私は絵画教室の運営や事務のパートと、美術館や小学校でのワークショップ講師をしながら、自分の作品作りを続けています。出産後、息子が1歳半になるまで保育園にあずけられなかったので少しブランクが空いてしまいましたが、4歳になる最近になって、ようやく制作のペースがつかめてきました。

そんな夫婦なので、子どもが幼い頃から、作品作りのためのインタビューや打ち合わせ、展示会場の設置など、あらゆる現場に子連れで行き、家族みんなであちこち出かける毎日を送っていました。

2人とも子育てをしながら二足のわらじなので、スケジュール合わせがとても大変です。私も彼もいかに自分の時間を確保するかに必死で、「どちらが育児や家事をやったか」に目を光らせ、いつも時間の奪い合いをしている感じでした。

そんな日々を経て、実はいま、私は病院のベッドの上でこれを書いています。いろいろなことに追いつめられたストレスからか、腸に炎症ができ、飲むことも食べることもできなくなってしまいました。1人で静かに寝るのは、息子を出産する前夜以来です。

こうやって1人の空間でじっとしていると、いろいろなことが頭をよぎります。この数年、子育てや仕事に必死になるあまり、効率を最優先にして暮らしを回していなかったか。心に余白や遊びがなくなっていなかったか。私と夫は自分の時間を奪い合うことに必死で、お互いを尊重できていなかったのではないか。子どもと対等に接したいと思いながらも、常に私の時間割に沿ってコントロールしようとしていなかったか……。

結婚当初は、それぞれがやりたいことをやる、楽しいチームでありたいと思っていたのに、いつのまにこうなってしまったのだろう……。

入院中、息子は初めてママのいない生活をおくっていますが、夫と息子は時間をあまり気にせず、子どもがやりたいこと、夫ができることを、そのときそのときでやっているようです。彼らの生活はまさに“遊び”と“余白”だらけ。それを聞いて、なんだそれでいいんだ、私が力を入れすぎていたんだと気づきました。結局、こうでなきゃと自分を縛り付けていたのは、自分だったのでしょう。

夫と息子は毎日病院に来てくれます。広いおでこがソックリな父子が自動ドアの向こうに消えるとき、楽しきチームメートの彼らに、“必要だから”ではなく、“やりたいから”することを、何かしてあげたいと思いました。

その一つが、2人にお花を贈ることでした。そこで、「またみんなで楽しくやっていこう!」という気持ちを込めて、スペシャルな花束を作っていただけないでしょうか。

息子は黄色が大好きなので、黄色をベースに個性的な花を使い、楽しさあふれるアレンジにしていただけたらうれしいです。

必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……

花束を作った東さんのコメント

息子さんが好きな黄色をめいっぱい使い、夏らしい明るい花束を作りました。黄色にもいろいろなトーンがありますが、今回は使ったのはライトイエローの花々。見ているだけで元気になります。

ユリやトリトマ、ヒマワリ、カラー、タンジー、カーネーション、エピデンドラム、リコリスといったおなじみの花材の中に、お子さまが興味を持てるよう、珍しい花も加えました。たとえば、ランの一種であるブラッシア。まるでクモのような形の花が1本の茎にたくさんついている植物なんですが、花を一つずつ切って、あちこちに挿しました。ピンクッションなども初めて見るかもしれませんね。

また、ユリやヒマワリなどはつぼみの状態のものも一緒に挿しています。同じ花でも成長の過程によってまったく違う姿をみせてくれるのが面白いですよね。

この花をご家族で囲んで、みなさんで楽しんでもらえたらうれしいです。

必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……
必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……
必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……
必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

必死すぎた過去の自分。夫と4歳の息子のために、今度は……

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

天国から見ていて。38歳で急逝した同級生と家族に花束を

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