鎌倉から、ものがたり。

葉山でゆっくーり、旬の三浦野菜ブランチ「H and Cafe(アッシュアンドカフェ)」

 わ! 葉山町下山口にある「H and Cafe(アッシュアンドカフェ)」の看板メニュー「彩り葉山ブランチ」を前にして、歓声を上げてしまった。

 この日のメニューは、「葉山ひじきの手づくりがんもどき」を主菜に、「じゃがいものカレーグラタン」「たたきごぼうの唐揚げ」「ピリ辛肉味噌きゅうり」「根菜の洋風金平(きんぴら)バルサミコ酢風味」「にんじんのしりしり」「色々野菜のカポナータ」「ゴーヤの佃(つくだ)煮」という7種類の副菜。そこに、オリジナルのスムージー、サラダ、スープ、そして穀物入りご飯が添えられる。

 いずれも、葉山町が位置する三浦半島で採れる、旬の野菜をたっぷりと使った品々。プレートには文字通り、季節の彩りがあふれている。

「この店では『菜色健美』というキーワードを掲げているのですが、それは三浦産のおいしい野菜があるからこそ。三浦のように海に三方を囲まれた半島では、潮風が土にミネラル分を与えて、野菜の甘味が強くなるんです」

 オーナーシェフの守口浩但さん(50)は、それらの野菜に負けずおとらずの、健康的な笑顔を見せる。

 自身は横須賀市の出身。高校時代に横須賀の喫茶店で厨房のアルバイトをしたときに、将来自分の店を持つ、と決めた。

「コーヒーでもサンドイッチでも、自分のつくったものを、お客さまに『おいしい』といっていただく。それがこんなにうれしいことなのかと、すっかり夢にハマってしまったんです」

 高校卒業後は、都内の名店で修業を積んだ。フレンチ、イタリアン、和食と各ジャンルに挑戦したのは、「いいとこ取りをしたいと思ったから」。その言葉の通り、アッシュアンドカフェの料理は、家庭料理の温(ぬく)もりの底に、プロが研鑽(けんさん)を積んだ基盤を感じさせる。

 2012年に独立したとき、出店地として選んだのは横須賀ではなく葉山だった。
「何かにせかされることなく、自分のペースで切り盛りできることを、大事に考えました。その意味で、葉山は時間の流れがスローでいいんです。ここは、ちょっと時間がかかっても、おいしいものを食べたいと思ってくださる方が多い土地柄なんですね」

 一色に出した店は当初から評判を呼び、その4年後に、より海に近い現在の地に移転した。葉山御用邸のそば、国道134号線沿いにある築100年の木造商家は、かつて酒屋兼よろず屋として、界隈の別荘文化を支えた建物だ。アッシュアンドカフェが入居する前には、花屋さんが入って、土地の人たちに親しまれていた。

 葉山では近ごろ、起業家やコンサルタントら新世代のビジネスピープルの移住も目立つ。アメリカ西海岸では、それらの人たちが好むまちが、「クリエイティブシティ」と呼ばれ、新しい仕事を生み出すとともに、コーヒーショップやレストランなどの飲食文化も発達させた。まちの中にさりげなく上質なレストランがあることは、クリエイティブシティの条件なのだ。

 午前11時から午後3時まで(ラストオーダーは午後2時)のランチタイムのあと、夜6時30分からは「バル」の時間になる。店内は昼とはまた違う雰囲気で、守口さんが腕をふるう料理をタパスのようにして、ワインやビールとともに楽しむ。

「昼も夜も、みなさん、ここではゆっくーりしていかれます。ホント、うちは回転しない店なんですよ」

 そういいながらも、守口さんの表情はうれしそうだ。

H and Cafe (アッシュアンドカフェ)
神奈川県三浦郡葉山町下山口1494

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

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鎌倉を、あじわう。(6)

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