このパンがすごい!

絶品のカンパーニュが、パリ下町のビストロを連れてきた/パパプウル

絶品のカンパーニュが、パリ下町のビストロを連れてきた/パパプウル

パンの盛り合わせ。カンパーニュ、バゲット トラディション、クルミとキャラウェイ、パン ア ラ スムウル

 三宿の裏通りでひっそりと営まれる、ブーランジュリー「ボネダンヌ」。大型のハード系パン、バゲット、元パティシエの経歴をいかんなく発揮した甘いパンなど、パリの粋を凝縮したようなパンが人々を魅了しつづけている。その荻原浩シェフが、「ボネダンヌのパンを食べるところ」と位置づけるビストロ「パパプウル」をオープンさせた。
 ボネダンヌのパンにはどんな料理が似合うと荻原さんは考えているのだろう? 親友に彼女を紹介されるときみたいなドキドキを感じつつ私は店に向かった。

絶品のカンパーニュが、パリ下町のビストロを連れてきた/パパプウル

ランチの前菜。仔牛のハツとナスのバルサミコマリネ

 そこで供された料理は……。前菜は、仔牛のハツを炭火焼風に焼いたものとナスのバルサミコマリネ。ハツの癖のある感じを、旬のナスならではのジューシーさとバルサミコの甘い香りが回収する。

 そこにボウルに盛られたパンの中からひと切れ、「カンパーニュ」をつまみあげ口に運ぶ。すると、フランスとフランスが出会った。旧知の友人が思い出話ですぐに盛り上がれるように、パンと料理それぞれの香りの集合は、パリの下町のビストロの記憶に私を運んでいった。

 それにしても、カンパーニュの香りは驚くべきものだった。うまく熟されたパンに特有の焼き芋のような香り。その先には、バルサミコか栗のはちみつのような妖しくもフローラルな香りがあった。でありながら、中身が溶けると、みずみずしい麦の甘さがほとばしる。

絶品のカンパーニュが、パリ下町のビストロを連れてきた/パパプウル

ランチのメイン。豚肉のベーコン巻きロースト

 メインは「豚肉のベーコン巻きロースト」。低温調理した豚肉のぎゅんぎゅんくる旨味。生ハムでダシをとった赤ワイン仕立てのソースがさらにコクを加えて、口に少し残った旨味と塩気がまさにパンを欲させる。
 そこで「バゲット トラディション」を。フランス産小麦ならではの、皮目のバターのような風味が存分に引き出され、ルヴァン(小麦から起こした発酵種)の香りはフランスらしい野性味を加え、口溶けにはやはりみずみずしい麦の甘さがあった。

絶品のカンパーニュが、パリ下町のビストロを連れてきた/パパプウル

バゲット トラディション

 パンと料理がランデヴーを果たす空間。シェフの福井さんは、パリ時代、荻原シェフと同じアパルトマンをシェアしていた。「いつかはいっしょに店をやりたいね」と夢を語り合いながら。

「星付きのレストランで修業する料理人が多いですけど、僕が知りたかったことは『フランス人って普段どんなもん食べてんだろう?』」

 パリを歩き回って庶民的な食堂を食べ歩き、絶品の「仔牛のビール煮込み」を出す店を見つけて、働かせてもらった。あたたかい老夫婦が営むその店は万事適当。「少しぐらいまちがえても『サヴァ、サヴァ!』(大丈夫)。日本では、きっちり1センチに切らないと殴られる、みたいな店で働いてきたから、(固定観念が)ぱかっと開けました。フランス人がこれぐらいだったら、適当でいいじゃん。もちろん、おいしい料理として仕上げるのがプロだけど、ぎちぎちすぎると楽しめない」

 お客に緊張を強いるのではなく、ゆるい雰囲気を心がける。レシピはなく、料理はアドリブ。目指すところは、「でっぷりしたお母さんが『あいよ!』って出す料理。今日は暑いから、ビタミンBとってもらうために豚肉にしました。お客さん汗かいてくるだろうから、サラダは少し塩をしてすっぱめに。お客さんの体のことも考えて、でも考えすぎないで」

絶品のカンパーニュが、パリ下町のビストロを連れてきた/パパプウル

鶏ハムとキャロットラペのサンドイッチ

 サンドイッチもアドリブで。デュラムセモリナ(パスタ用の小麦粉)で作る「パン ア ラ スムウル」は、ふわり軽やかで、コーングリッツみたいな香りを漂わせる。そこに鶏ハムとキャロットラペをはさむ。薄い皮をばりばりと噛み破り、鶏肉のぷよんとしたエロティックな食感に達する。マヨネーズがまろやかにし、たっぷり塗ったマイユの粒マスタードのほろ苦さとラペの甘酸っぱさ。それらのうつくしいレイヤーはいかにもフランス的だ。

 いままでも単品として絶品だったボネダンヌのパン。そこにパリの食卓の風景が活き活きと描きこまれ、ついに一幅の絵になった。私はパパプウルでそんな印象を持った。

■パパプウル
東京都世田谷区三宿1-30-1 グレー三宿 1F
03-5787-6700
[ランチ]11:00~14:00
[カフェ]14:00~16:00
月火休
[夏季休暇]2019年8月17~20日

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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