按田さんのごはん

最強のプレイボーイになるための「食べつなぐレシピ」

最強のプレイボーイになるための「食べつなぐレシピ」

ゆで豚をしている鍋の上に蒸しかごを置いて、豆や穀物、野菜をちょっとずつ蒸す

東京・代々木上原と、二子玉川で大人気の餃子(ギョーザ)店、「按田(あんだ)餃子」の店主、按田優子さんの連載「按田さんのごはん」。昨年、著書『たすかる料理』のインタビューで語っていただいた、どこまでも自由な按田さんワールドを、さらにどっぷり、写真と文章で味わえる貴重な機会。第5回は新刊のことかと思ったら、話は按田さんの自炊観の根底に流れる「死ぬまで自分の好きなものを食べる意思を持ち続ける」こと、そして最強の日本男子のあり方へと広がっていくのです……!

    ◇

さて、今回は新刊『食べつなぐレシピ』の解説をしてみたいと思います。
じつは、この本を書きたいと思ったきっかけがいくつかあります。

20代のころのこと、ある日突然想像するに、この先、自分の収入が順調に上がっていく気が全くしなくて、これは収入を上げるよりも生活の仕方を工夫する作戦に出ないといけないぞ、と思ったことがありました。40歳になっても50歳になっても収入を気にしないで好きな仕事をして、好きに時間を使って、気持ちに余裕をもって生きるには、どうすればいいか? あくまでも自分が生まれ育った都会のど真ん中の東京で。

最強のプレイボーイになるための「食べつなぐレシピ」

按田さんの新刊『漬ける、干す、蒸すで上手に使いきる 食べつなぐレシピ』(家の光協会)

必要経費を差し引いた残りのお金でなるべく安いものを買って節制する、だなんて、なんでそんなことしないといけないんだっけ? そういえば。と、まぁ要するに20代特有の自分の将来のモヤモヤを社会に投影したヤダヤダ病の一種だったわけですが、それでもどうにか変態してなんかこう自分なりに収まりの良い形になりたいと思って早20年。

いつしか生活全般、自分の好きなものを選んで手元に置いて暮らすより、何の因果かどこからともなく自分のところにやってきたものを好きになるほうが断然楽だと思うようになりました。

干す、漬ける、蒸す、拾う、を駆使して食べつないでいく

そうなってくると、アンちゃんならこんな面白いものを使ってくれるかも!?と世界中の珍品がどんどん集まってきます。たまには片付けも大切ですが、要らないものを捨てるなら誰だっていつだってできる。要らないと思ったその自分の判断がクリエイティブさに欠けていた時に、活かすチャンスを逃がした!と思えるようになってきたのはなかなかいい兆し。

いつもいつも、これは何かに使えるかもしれない、どうやったら可愛くなるだろう?!と、考えて暮らすうちに、いただき物の変な置き物をどうやって家に飾ろうか、名案が浮かんで部屋にしっくりなじんだ時の気持ちよさのようなものを料理に置き換えていくと、塩と酢があって、干す、漬ける、蒸す、拾う、を駆使して食べつないでいく、という形が出来上がりました。

例えば、買ってから3日間日持ちする食材を漬物や乾物を駆使し2週間、1か月と使い切るリミットを延ばしたり、蒸しておいたものを気軽に何かと組み合わせてパパっと料理にする。そうすると、傷むから食べなくてはいけない順番で食べるのでなくて、食べたいものを食べたい分だけ食べられます。まとめて時間を作って仕込みなんてしないです。じつは、自分の時間の自由度のために塩分濃度と保存の関係を知る必要があったりするのです。

最強のプレイボーイになるための「食べつなぐレシピ」

塩分濃度と保存の話は、旅の相棒になってくれることでしょう

これは、一人だって何人と住んでいたって同じ、「台所に立つのは誰か一人ではない」ということが大前提になっています。自分の中の常識って結構行動に現れるものです。私の常識は、「作れる年齢になったら自分の好きな味は自分で作ってくれ、そして、そのために早く自分の好きな味を見つけてくれ」です。一緒に住んでいたって体調もその日の気分も銘々で違います。だから、料理の作り置きをしないで、最低限の単純な調理でいろいろな料理に展開が出来る手前までの下ごしらえまでをやっておき、それを切り崩して料理を組み立てていくのが私は好きです。

時代の空気も「その人らしさ」を尊重する流れになってきて、組織運営もトップダウンというよりはもっとフラットな関係が主流になっているなかで、炊事のシステムももっといろいろな生活スタイルの人たちに開けた形になっていることが知れ渡ったら、参考にしてくれる人がいるかも!?と思い本にしてみたのでした。

最強のプレイボーイになるための「食べつなぐレシピ」

日常食のことが分かってくると旅も味わい深い

ついでに言うと、このやり方がより多くの人に理解してもらえるかどうか、個人的にこっそり実験場として使っているのが按田餃子の台所です。だから、私は按田餃子が発展してほしいのです。

しかしながらさらに、20年近くかけて出来上がった私の自炊の完成形は、意外なところにつながっていました。

数年前、数カ月間でしたが、高齢になってきた知人宅に料理を届けていたことがありました。田舎育ちで自然の中で幼少期を過ごした彼女には、家で食べる料理の一つ一つに確固たる味の好みがありました。

死ぬまで自分の好きなものを食べる意思を持ち続けるために

リクエストメニューは何品か決まっていて、出汁(だし)はこうして欲しい、お米の炊き具合はこう、魚の煮つけはこういう感じが好み、などなど、火の通し方、調味料の特定、買い物する場所の指定、全ての注意点が明確でした。つまり、彼女は誰かの料理を食べたいのではなくて、自分の手と足になってほしかったのです。筋力が衰えてきて、かぼちゃが硬くて切れない、土鍋が重くて洗えないなど、食欲も気力もあるけれど、それを実現できない。

そうなった時に、家族を持たない多くの人は自炊をあきらめて誰かが作った料理を選ぶと思います。ある人は知人の味を受け入れ、ある人はスーパーやコンビニで買ってくるかもしれません。だけど彼女は違っていた! 自分の好きな味が明確にあることが、どんなに自由なことで幸せなことか! 誰かに助けてもらいながら自分の人生を生きる意思に私はものすごく魅了されました。

彼女と私は25歳差。これからの25年を考えた時に、いつか私も食べたいものを好きに作れなくなる日が来る。でも、死ぬまでなるたけ自分の好きなものを食べる意思を持ち続けたい。そして、そういう意思を持つために日々の何気ない食事に対する眼差しと動作が自分の精神構造を作っていくのだとじんわり感じた出来事でした。

最強のプレイボーイになるための「食べつなぐレシピ」

レモンの切り口はラップしない(ほら、干し野菜をしてると思えば)。かつおのたたきに必須の松ぼっくり(詳しくは本に)は常に台所にスタンバイ

そしてさらにそうなってくるとですよ、小学生男子が誰かにこういう料理の仕方を教わったら……。要領は同じだから世界中のどこでだって暮らせる人になるし、塩と酢を携えて念願のジャングル探検だって行けるし、自炊で体調が整ってるから急な夜遊びの誘いにだって乗れるし、大好きな人にパッと料理をつくって差し上げられる最強のプレイボーイになれるのです!! 私はそれがモテる日本男児のスタンダードとなってほしい!!(なぜ男子かというと、生まれ変わったら私がこういう男になってみたいからです)

なので私は、「キャプテン翼」を読んだ世の小学生男子が憧れてサッカー人口が増えたように、このまったく地味でパッとしない料理の素晴らしさをなんとか冒険小説のような物語に仕立てて、子供たちに届けてみたいと思い始めました。たった一人でもいいから共感してくれる人が出て来たら面白いなぁ、という老後の愉しみを見つけたのでした。

【8月の按田優子】
8月21日水曜日 20時より下北沢のB&Bにて『食べつなぐレシピ』の新刊トークイベントがあります。
トークゲストは、新宿歌舞伎町のよろず相談所の玄秀盛さんです!
是非お越しくださいませ!
按田優子×玄秀盛
「食べつなぐこと/生きつなぐこと」
『漬ける、干す、蒸すで上手に使いきる 食べつなぐレシピ』刊行記念トークイベント

>>「按田さんのごはん」バックナンバーはこちら

按田優子さんがペルーのジャングルで食べた、ある日のご飯
按田餃子の味を決める衝撃の魚しょうゆと、洗練のお弁当
安田花織さんのふなずしと、照葉樹林帯の「巨大な同じ釜の飯」
按田優子さん「土鍋でカオマンガイ」
按田優子さん~水餃子屋と「ボンタデカン」のこと

PROFILE

按田優子

保存食研究家。菓子・パンの製造、乾物料理店でのメニュー開発などを経て2011年独立。食品加工専門家として、JICAのプロジェクトに参加し、ペルーのアマゾンを訪れること6回。2012年、写真家の鈴木陽介とともに「按田餃子」をオープン。
著書に『たすかる料理』(リトルモア)、『男前ぼうろとシンデレラビスコッティ』(農文協)、『冷蔵庫いらずのレシピ』(ワニブックス)。雑誌での執筆やレシピ提供など多数。

按田優子さんがペルーのジャングルで食べた、ある日のご飯

トップへ戻る

安田花織さんのふなずしと、照葉樹林帯の「巨大な同じ釜の飯」

RECOMMENDおすすめの記事