私のファミリーレシピ

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

 
「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづったドキュメンタリーな食連載です。(文と写真:仁平綾)

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テーブルの上に並ぶのは、山盛りのハーブ、灰色の皮をまとった、つややかな2匹の生魚、もう一方の皿に並べられているのは、数匹のフレッシュないわしだ。

「さあ、始めようか。ワイン飲む?」

ほぼ初対面に近い私を、マンハッタンにある自宅に招いてくれたAmadou Ly(アマドゥ・リ)さんは、朗らかにそう言って、私の緊張をするっとほどいてくれた。

「ありがとう、でも写真を撮らなくちゃいけないから、もう少ししたら」

オッケー、じゃあ早速料理を始めよう。幅の狭いコの字型のキッチンに立ち、大きな手で玉ねぎをつかむと、アマドゥさんはすばらしい手際の良さで皮をむき始めたのだった。

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

「豪快だけど、味は繊細」と友人が賞するアマドゥさんの料理。まずはおふくろの味、魚のシチューから

友人を介して知り合ったアマドゥさんは、トライベッカにあるArcade Bakery(アーケード・ベーカリー)というパン屋で働いている。朝7時に出勤し、パンをこねる。ひたすらこねる。それが彼の仕事だ。

「以前はペイストリーシェフをしてたんだけど、パン作りに移行したんだ。いつか自分の店を開くのが夢だから。なんでも作れるようになりたくてね」

10個はありそうな小ぶりの玉ねぎを、さくさくとスライスしながら話すアマドゥさん。出身は西アフリカのセネガル。NYに留学した後、レストランやホテルで働くうちに、シェフを志すようになったという。共に暮らすパートナーのKinga Mojsa(キンガ・モイサ)さんとは、かつて語学学校で出会った。ちなみにキンガさんは、東欧のポーランド出身、NYでフローリストとして活躍している。

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

美しいキッチン道具たち。オリーブオイルなどの食材にもこだわりあり。セネガルではキャノーラ油、パーム油、ピーナツ油を料理に使うのが一般的だという

パン、アイスクリーム、ケーキ、なんでもこい。料理もできるその腕を見込んで、パーティーのケータリングの依頼もくる。

「15年の経験があるからね。パン作りの経験も4年。何かを学ぶということは、とても時間がかかること。日本のすし職人もそうでしょう? 陶芸家だって同じ。でも今は、みんな何かになるために、すごく急いでる。だからクオリティーの高いものが、なかなか生まれないんじゃないかな」

手をせっせと動かしながら、アマドゥさんは深遠な言葉をさらりと口にする。時の積み重ね。知や技の蓄積。それらは望んでも、すぐには手に入らない尊いもの。土地土地で育まれてきた食文化もまた、同じである。

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

ブラックシーバスの皮に切れ目を入れてからマリネする。「レッドスナッパー(タイ)でもおいしくできる」とアマドゥさん

アマドゥさんが目の前で調理を始めたのは、Yassa(ヤッサ)と呼ばれるセネガルの伝統的な一品。玉ねぎをたっぷり使った、魚や肉の煮込み料理で、どこの家でも作られている家庭料理。アマドゥさんは母親のジョーゼットさんから学んだという。ブラックシーバス(ハタ科の魚)を塩、コショウ、エルブ・ド・プロヴァンス(フランスのブレンドハーブ)でマリネしたら、たっぷりのオリーブオイルを熱した鍋で、皮目を揚げるように焼く。

魚をいったん取り出し、同じ鍋に玉ねぎと、フランスのディジョンマスタードを豪快に1瓶入れ、ハーブも加えて炒める。玉ねぎがしんなりしたところで、魚を戻し入れて30~40分煮込む。随所にフランス料理の影響が垣間見えるのは、セネガルがかつてフランスの植民地だったことを物語っている。

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

ヤッサの隠し味は、マギーブイヨン! セネガルの人たちは頻繁に料理に使うという

「北大西洋に面しているセネガルでは、魚をよく食べます」とアマドゥさん。内陸の人は鶏肉や羊肉を好んで食べるため、シーフードで作るヤッサから、鶏肉を使うヤッサまで、さまざまなヤッサがあるらしい。

「豚肉は食べません。セネガル人のほとんどがイスラム教徒だからね」。そう話しながら、白ワインを鍋へ。

「あれ? イスラム教徒はお酒を飲まないはずですよね、アマドゥさんは違うの?」

「ふふふ、僕もイスラム教徒なんだけど、厳格じゃないからワインは飲むよ(笑)。 白ワインは僕のアレンジ。お母さんは絶対に入れません。秘密の隠し味だね」

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

マスタードの酸っぱうまい香りで満たされるキッチン。ヤッサの隠し味に白ワインを少し。家族は全員イスラム教徒。アマドゥさんとは違い、みんなお酒を飲みません

アマドゥ・リさんの料理の続きはこちらa>

■ヤッサ

・材料 (4~6人分)
ブラックシーバス…2匹(真鯛(マダイ)でも可)
塩コショウ…適量
エルブ・ド・プロヴァンス…適量
オリーブオイル…適量
玉ねぎ(中サイズ・薄切り)…約10個分
ディジョンマスタード…1瓶(大)
タイム…適量
ローリエ…2枚
コリアンダー(粒)、ジュニパーベリー…適量
マギーブイヨン…適量
白ワイン…適量

・作り方
1 内臓とうろこを取り除いた魚の両面に塩コショウをし、エルブ・ド・プロヴァンスとオリーブオイルをまぶしてマリネする。
2 フライパンにオリーブオイルを多めに熱し、魚を入れて両面を香ばしく焼く。魚をいったん取り出す。
3 薄切りにした玉ねぎと、ディジョンマスタードを混ぜる。2のフライパンで、タイムと共に炒める。
4 玉ねぎがしんなりしたら、魚を戻し入れ、ローリエ、コリアンダー、ジュニパーベリー、マギーブイヨン、白ワインを加えてふたをし、45分ほど蒸し煮にする。
5 皿に取り分け、炊いた白米を添える。

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PROFILE

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。

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料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

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