上間常正 @モード

多彩で奥深い伝統技術とITの融合 インドファッションの未来性

ファッションといえば、パリを中心としたヨーロッパ発のスタイルやトレンドが主流だと思われている。しかし、実はせいぜい150年前からで、世界の服飾文化の歴史でいえばつい最近のこと。それ以前までは、イスラム地域やインド、東アジアや東南アジアのほうがずっと先進地域だったのだ。先月下旬に東京・渋谷で開かれた「インドトレンドフェア東京2019」の多彩な出品作を見ると、長い伝統に培われた高い服飾技術がまだ多く残っていて、しかも最新のデジタル技術とも融合した新たな展開を見せていることに改めて気づかされた。

多彩で奥深い伝統技術とITの融合 インドファッションの未来性

「インドトレンドフェア東京2019」の会場で。「デザイン性に特に力を入れています」と、2015年設立のブランド「アモリカ」のデザイナー

インドといえば暑い国とのイメージがあって、ファッションでは、インド更紗(さらさ)やペイズリー柄のサリーやターバンなどが思い浮かぶ。しかし、会場をまずざっと見回ってみると、服にしてもスカーフなどにしても、必ずしもコットンやシルクの夏物ばかりではないことにすぐ気づく。コットンでもかなり厚手の生地も少なくない。インドは広大な国で、北はヒマラヤ山脈にも近いし、西は中央アジアの季節・昼夜による寒暖差の激しい乾燥した地域と接しているのだ。

北インドはウール素材やニットの冬物カットソーなどの産地で、かなり手の込んだシックな編み模様のドレスやカーディガンなどが目に付いた。北部の都市ジャイプールに本拠を置き2014年に設立したある出品メーカーに聞くと、国内だけではなく、ヨーロッパ各国や日本、アメリカなどにも輸出しているという。価格はそれほど高くないようだが、人件費の安い国で作られている安物とは全く違うグレード感がある。

南部の広大なデカン高原一帯の地域は、世界有数の綿花産地で紡績産地も多い。おなじみの更紗もびっくりするほど多種多様で、しかも現代的なデザイン性も感じられるのが特徴だ。若い世代のテキスタイルデザイナーなどが2000年代になってから立ち上げたブランドが増えているのだという。

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「日本にも輸出している」と1995年設立の「KGデニム」の経営者

コットンといえば、デニムのパンツやジャケットの出品も。これもやや意外に思えたが、出品者は「藍染めは、もともとインドが本家。日本のデニムも優秀だと思うけれど、我々には伝統の技の蓄積がたくさんある」と自信の笑みを浮かべて語った。

デカン高原より南の地域は、絹製品の産地。服もなかなか多彩で面白いが、特にスカーフの水準の高さには驚かされた。日本の絹織物作家たちが作る優れたスカーフには目が慣れているつもりなのだが、それに勝るとも劣らないものがこれほど多いとは思わなかったからだ。織りや染めの多彩な手法は、絹に限らずインドの製品に共通した特徴でもある。ハイテク素材を使わないでも快適で動きやすい、適度のストレッチ性が出せるようだ。

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出品が多かったスカーフ

出品作には、手作業で作る製品と並んで機械製作によるものも多かった。インドは、最近ではデジタル技術の分野での先進的な動きが目立っている。伝統的で複雑な手作業をこうした先進テクノロジーで解析して、工業製品として大量でかつ比較的安いコストで生産する試みも進められている。

この展示会は、日印国際産業振興協会(NPO)主催でインド政府繊維省の後援。今年は5回目で、インド各地から110社以上が出展している。同省の繊維委員会代表Ajit B チャバンさんは「日本は、インドにおける繊維・衣料製品の輸入相手国だが、日本でのインド製品のシェアは約1.2%と低い。これからは日本への輸出をもっと増やしたいし、その可能性は大きいと思っている」という。

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バッグやクッションなどのクラフト製品も

約半世紀前にインドから留学生として来日して以来、日本を拠点にして、インドと日本の交流や両国間の貿易業も営んできたU.S.サニーさん(69)はこう語る。「日本の優れた伝統素材の技術は、私が来日してからの間に急速に失われてしまっている。しかし、インドではまだ数多く残っている。日本とも協力して、アジアの伝統技術を未来に向けて生かしていく必要があります」。

そのためには作る側だけでなく、買う側の理解が欠かせない。伝統を生かした良い物を身に付けるためには、それなりのお金を払うことが必要だ。本物のよさを知らない若い世代なら仕方ないとしても、大人の世代がファストファッションの“おしゃれなコーディネート”などに興味をもったりしていてはいけないのだ。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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