私のファミリーレシピ

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

 
「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづった、ドキュメンタリーな食連載です。(文と写真:仁平綾)

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>>Part 1 アマドゥさんが作るセネガルの伝統的な一品「ヤッサ」はこちら

アマドゥさんが続いてもう1品作ってくれたのは、いわしのスパイシートマトソース。オリーブオイルをたっぷり敷いたフライパンにいわしを入れ、塩コショウをして、ローズマリーやタイムをわさっと投げ入れ、焼く。キッチンに響くジュー!っという音の、美しいこと。

NYの魚屋では、なかなかお目にかかれない新鮮ないわし。イタリア食材店のEataly(イ―タリー)に注文して購入しているそう。

別の鍋でソースを作る。オリーブオイルでにんにく、玉ねぎ、ハーブなどを炒め、ホールトマト缶を加えたら、焼いたいわしを入れて、ブラックオリーブを加え煮込む。隠し味は、スモークパプリカパウダーだ。

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

「セネガルでよく食べるのは、シチュー、ライス、クスクス、トマトソース」(アマドゥさん)。キャベツ、なす、ピーマン、にんじんなどの野菜も豊富。きのこ類は食べないそう。

「どれもファミリーディッシュ。家庭の味です。アフリカ人は、家族で食事をします。たくさん料理を作って、みんなでシェアして食べる。1人で食事をすることはありません。食事をしながら、会話を楽しむ。時には討論もする。それが何千年も続いてきた伝統なんです。そしてそれが、僕の生まれ育った環境です」

それを聞いてキンガさんがひと言、「だからアマドゥは、1人で食事をすることができないんです」とほほ笑む。

「だったらアマドゥさん、知ってる? 日本には仕切り付きの1人用席を設けたラーメン屋があるんですよ」

そんな私の言葉に、目を丸くするアマドゥさん。

「うそでしょ!? そんなの悲しすぎるよ。愛する人たちと、食事を分け合い食べることこそ、素晴らしいカルチャーなのだから!」

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

食に関する仕事に興味を持ったのは「いつも家にたくさんの食べ物があったからじゃないかな」と話すアマドゥさん。あれこれ会話しつつ、ワインを飲みつつ、いよいよ待望のディナータイム

香ばしく熱されたオリーブオイルと、ローズマリーやマスタードの食欲を誘う香り、魚のうまみが溶け込んだ甘いトマトソースの予感……。おいしい空気が漂うダイニングテーブルに着席し、まずはヤッサとライスをおのおの取り分け、口に運ぶ。白身魚のふわっとした身に、優しい酸味のマスタードソースが絡む。

付け合わせは、オーブンで炊いたごはん。オリーブオイルとローリエを加えて炊いてあるため、しゃれた味わい。オーブンで炊くからか、日本の白米のようなもっちり感がなく、ソースになじむ、かちっとした食感。ところどころに、香ばしく焼けた米粒も混じっているところがいい。

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

セネガルの主食は、米やパン、クスクスのほか、ミレットと呼ばれる穀物。米は細かく砕いたブロークンライスが好まれている

二皿目は、蒸したクスクスを添えた、いわしのトマトソース。幾層にも重なりあうハーブの風味と、パプリカのパンチが効いている。セネガルでは、魚や野菜や肉を煮込み、シチューにするのが一般的。だからヤッサも、いわしも、たっぷりのソースで食べるスタイル、どちらかというとシチューに近い。

「セネガルでは、大きなボウルにシチューを盛って、それをみんなで食べます。銘々皿はありません。今でもスプーンやフォークを使わずに、手で食べる人がたくさんいます」(アマドゥさん)

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

「ボナペティ!」(アマドゥさん)、「スマチネゴ!」(キンガさん)。それぞれの言語による「いただきます」が飛び交うテーブル

ところで、キンガさんがセネガルにあるアマドゥさんの実家へ遊びに行ったときのこと。10人や15人でにぎやかに囲む食卓に、見知らぬ人も混じっていたことに驚いたという。実はアマドゥさんの家では、子どもの頃から、常にたくさんの料理が用意され、それを家族だけではなく、隣近所の人々と分け合あってきたという。近所のおじさんが、ふらっと家に来て、ごはんを食べて帰る。それを不思議とも思わず、料理を振る舞うなんて、私には到底できそうもない……。

そんな私にアマドゥさんは言う。

「人に与えれば、自分も幸せになれる。そうでしょう? かつての西欧諸国は、世界各地に植民地を求めました。与えるよりも奪うことが優先された世界です。でも奪うこと、搾取することよりも、どれだけ人に与えられるか。それが大切です」

ちなみにアマドゥさんのお父さんで、アートディーラーをしていたエラジムハジさんは、「与える」が当たり前の人。困っている人がいるとお金をあげたり、貸したりしてしまうので、それはそれで困りものだという。「crazy(クレイジー)だよ」と笑うアマドゥさんだけれど、そのDNAを受け継いでいるのは事実。これからもたくさんの人に、おいしさを分け与えてくれるに違いない。

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

アマドゥさん作のデザート、ブレッドプディング。余ったパンをひと口大に切り、卵、牛乳、砂糖、生クリーム、バニラビーンズの液に浸してオーブンで焼いたもの。仕上げにチョコレートを振りかけて

■いわしのスパイシートマトソース

・材料 (4~6人分)
いわし…10匹
オリーブオイル…適量
塩コショウ…適量
ローズマリー、タイム…適量
にんにく(みじん切り)…適量
玉ねぎ(薄切り)…適量
黒コショウ(粒)…約10粒
ローリエ…1枚
ホールトマト缶(800ml)…1缶
ブラックオリーブ…適量
スモークパプリカパウダー…適量
タイム…適量

・作り方
1 フライパンにオリーブオイルを多めに熱し、いわしを入れる、塩コショウをして、ローズマリーとタイムを加え、両面を焼く。
2  鍋にオリーブオイル、にんにく、玉ねぎ、黒コショウ、ローリエを入れて炒め、ホールトマト缶を加える。1のいわしを戻し入れ、ブラックオリーブ、スモークパプリカパウダー、タイムを加えて、20~30分ほど煮る。
3 皿に取り分け、蒸したクスクスを添える(クスクスは水でさっと洗ったら、チーズクロスに入れ、無塩バターを加えてから蒸し器で20分ほど蒸す)。

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おわり。
(次回の更新は9月の予定です)

PROFILE

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。

セネガルの魚のシチュー。マスタードは豪快に1瓶

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